上 下
6 / 35

第5話 変態メガネ 職業 : 賢者

しおりを挟む
「えっと………何、してるんですか?」
「何って、貴女に愛の告白を」
「……は?」

意味がわからない。
先程まで、人を嘲笑うかのようにしていた人間が何故こんなにも一瞬で態度が変わるのか。

理解が及ばな過ぎて固まり始めた私に「んん……貴女のような人に告白するのであれば花束が必要でしたか。欲しがりですね」

やれやれ、と妙にウキウキした様子でコチラを見上げてくる顔に思わず「うわ」と小さな声が漏れる。

「……いい!」
「はぁ?というか………邪魔なんですけど」
「おや、構って欲しいんですか?それならお願いを」
「うわ、キモい」
「……良い!やっぱり君はイイ!」
「もうイヤ!何なのこの人!」
「フィン!」
「っひゃっ?!」

バッ、と近づいてきた新しく増えた眼鏡の変態から距離を取るように、ハルトが私を抱えて後ろへと飛び移る。

「貴様!オレの運命の人に何を!」

私を抱えたハルトに、眼鏡の変態が悔しそうな顔を向ける。

「……お前」

くるり、と振り向いて眼鏡の変態を見るハルトの声が、低い。
ちらと見上げた表情は、ジャンに向けていた表情とは比べ物にならないくらいに不機嫌な顔をしている。

極悪人か、とツッコミをしたくなるような表情に大きく溜息を吐けば、ハルトの手がピクリと動く。

「何」
「ハルト、顔超怖い」
「はっ?当たり前だろ。フィンの運命の人があいつなわけないし」

そう言って私を見たハルトの目に不穏な色が映った時「フィン!ハルト!」と聞き覚えのあるとても元気な声が遠くから響いた。


「待って、状況の理解が出来ないんだけど」
「しなくていいんじゃないか?」
「しない訳にもいかないでしょ?!第一、ジャンが行方不明になったりするから!」
「いやぁ、アレはオレもビックリした」

ケラケラと笑いながら言うジャンに、そもそもジャンのせいでしょ、と呆れた視線を送れば、ジャンの隣に立っていた眼鏡の変態が「フィンがワタシを見てる!」と気色の悪い勘違いをして頬を赤く染める。

「とりあえず状況の整理をするけど、この村に着いて、宿屋で一休みして、翌朝に出発をしたら、その途中でハルトがぼんやりし始めて」
「気がついたら雪山でオレは独りきりだったな!」
「ワタシはテレポーテーションされた事であの噂が本当だったのかと確信したのと同時に、あそこは寒かったので、村へ戻るための移動魔法を使いましたが」
「で、ジャンは別のとこに落ちた、と」
「何か問題でも?」
「……もうそこはどうでもいいわ。問題はそこじゃない。そこの変態眼鏡が聞いたっていう噂よ。えっと」

名前を聞いていなかった、と変態眼鏡をチラ、と見れば「ん?」と言って合わさった切れ長の目と視線に、一瞬、心臓がドキリと音を立てる。

黙っていればイケメンなのか、とマジマジと見る私に変態眼鏡は、にやりと口角をあげ「貴女なら、惚れてくれてもいいんですよ」と言いながら近づいてくるものの「あ、ですが出来ればツン要素多めでお願いします」などと言い始め、私の鼓動は急速に冷めていくのだった。



「名前だけでは無く身長体重生まれた時間も言いま」
「名前だけで。あと、職業。他はいりません」
「……そうですか。至極残念ですが、貴女が言うならそうしましょう。ワタシは、二ヴェルと言います。呼び名はヴェ、ヴェル、二ベルでも構いません。一応、職業は賢者ですね」
「じゃあ二ヴェルで。貴方が聞いた噂は、確か」
「神に認定された勇者が足を踏み入れた時点で、魔王のしかけた罠が勝手に発動する仕組み、でしたね」
「それ。どうやって判別するんだろ……ハルト、あれになんかされたり渡されたりしたの?」
「あ?あー、何か持たされたっけなぁ」

ペタペタと自分の身体に手を当てながら思い出そうとするハルトに、二ヴェルが「そこのあんた。ちょっと、いいか?」と怪訝な顔をしながら声をかける。

「………何」
「お前、勇者なのか?」
「あ?そうだけど」
「マジかよ」

変態だが、賢者としての才能はありそうだし、頭も切れそうだし、仲間になってもらえないだろうか、と少し期待をしていた私は、二ヴェルの先程と同様に心底嫌そうな表情に胸が少しざわつく。

「二ヴェル、あの、私たち」
「おい勇者。名前は確か、ハルトだったな」
「……だったら何だ」
「いいねぇ。これだよコレ」
「……は?」

ニヤリと笑う二ヴェルの口元は盛大に歪んでいる。

「フィンはまだハルトのものではない。けれどハルトはフィンを好いている」
「好いてって、言い方古いな。おっさんか?」
「うるせぇ。とにかくフィンが好きなんだろ?お前」
「好きっつーか愛してる。フィンは誰にも渡さねぇ」
「オレもフィンが好きだぞ!」
「あ?そうなのか?じゃ、ライバルは二人ってことだな」
「ライバルか!いいなそれ!仲間でライバル!熱いな!オレは好きだぞ!そういうの!」
「いいなじゃねぇし、暑苦しいのは俺は無理。ジャンは馬鹿なのか?」
「あー、多分オレは馬鹿だと思うぞ!」
「知ってた……!知ってたけど……!」

ケロッと自分を馬鹿だと認めたジャンに、ハルトが「くっ……」と言いながら壁を叩く。
その後もワイワイと私のここが良いだの何だのと話始めた野郎3人に、何の話をしてるんだコイツラ、と冷たい視線を投げつけるものの、3人は話が盛り上がってるらしく私の視線に気づく様子はない。

「勇者の女に手を出す自分も、勇者と女を巡って選ばれる自分もどちらも捨てがたい……!イイ…!あ、でも、彼女に捨てられるのも捨てがたい……!」

一人勝手な想像をしているのが丸わかりな二ヴェルが時々何やら「あっ」とか小さな声を出しながら悦に入った表情を浮かべており、私は割と本気で「うわ……」と引いた声を溢す。

「フィンに振られる前提じゃ無いのがすごいな!」

ジャンのその無邪気な言葉に「ちっ」とハルトが密かに舌打ちしたことに気づき、私は小さくため息を吐いた。


「で、魔王の予言は他はなんて?」
「予言通りでいくのなら、ワタシ達のパーティーにはあと一人加入する者がいますね」
「そう………」

次こそ常識人が来てほしい……いや、むしろ常識人じゃなくてもいい、変態じゃなければもう何でもいい……!とさっきからずっと人の髪を触ったままのハルトに肘うちをお見舞いしながら本気で考える。

「本当……なんで変態ばっかなの、私の周りって」

今にして思えば、町に居た人たちも変な人ばかりだったなぁとぼんやりと思い出す。
大きなため息をつきながら歩いていた私の後ろから「あ、なぁ、アレ」とハルトの声が聞こえ、ハルトの指差す方向を見ればスライム状のモンスターが、ポーン、ポーン、と軽やかにジャンプをしながら進んでいる。

「何あれ」
「あぁ、あれは確か、そんなに美味くないぞ!」
「ジャン、そこじゃない。美味しいかどうかじゃ」

なくて、と言葉を続けようとした私は、段々と近づいてくるスライムが徐々に大きくなっていき、その大きさに比例するように徐々に地面が揺れ始めたことに「……え?」と小さな驚きの声を漏らす。

「あー、あれはギガントスライムですね」
「……ちょ、大きくない?!」
「フィンは初めて見るのか?あれは中くらいだな。デカイやつはもっとデカイぞー?」
「へぇ、あれがスライムってやつか」
「ハルトも初めて見るのか?」
「フィンが見たことなければ俺も無い」
「そうなのか!幼馴染ってやつだな!」
「それ今、関係ないよね?!ちょっ、段々こっちに来てるし?!」
「スライムの中には薬草とかの匂いを好むやつもいますね」
「オレには心当たりが無いが……誰か持ってるのか?」

そう言って首を傾げたジャンに二ヴェルが「あぁ、あるとすれば…」と自分の持っていた荷物を探り始める。

「多分、これだな」

パサ、と荷から出してきたのは、ピンク色の花をつけた葉の長い植物で、私には無臭のように思える。

「これのどこに…」
呟きながら花びらに触れた時、ドスン、と大きな揺れが伝わってくる。

スライムを見たことのある二ヴェルとジャンはのんびりと構えているものの、私は揺れる地面と、このままだと私達の背丈以上のサイズがあることが確実なスライムという未知の生き物に、思わず杖を握りしめたまま後方にいる二ヴェルとジャンを振り返る。

「ねぇ!このままだと潰されるんじゃないの?!私、あんなヌルヌルしてるのに潰されるの嫌なんだけど?!」

ハルトはというと「ぬちゃぬちゃしてそうだし、そういうプレイもいいな……」とか意味不明なことをぬかしてニヤニヤするだけで危機感が全くない。

「ハルト、あいつはヌルヌルというより、ベタベタだぞ?例えるなら、とけた飴を触るみたいな」
「マジか。それは頂けないやつだな」
「だろう?」
「ワタシもあのベタベタになるのは嫌ですよ。フィン、貴女は炎系が得意でしたね?」
「……多分」
「では、ワタシが立てる作戦通りに、攻撃してもらいましょう」



ニヤリと笑った二ヴェルは「まずは」とギガントスライムを指差しながら、口を開いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

見知らぬ男に監禁されています

月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。 ――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。 メリバ風味のバッドエンドです。 2023.3.31 ifストーリー追加

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

処理中です...