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第六章 婚約破棄
⑥
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テラスの屋根の上からわたしを見下ろすリースベット。
後ろには、おそらく彼女に操られているであろう、攻略対象キャラ最後の一人、虚な目をしたフェリクス・リンディ。
「あたし以外にプレイヤーがいるとは思わなかったな」
楽しそうに、リースベットがわたしに話しかける。
「ねえ、あなたは誰推し?わたしはエルネスト。同担拒否だから、よかった~」
わたしは、何が最善か、グルグル頭を回転させる。
「もしかして、怒ってる?魔物にしてヒロインたちに殺させようとしたこと。だって仕方ないじゃん。あなたドロシーなんだもん」
リースベットが口を尖らせる。
このまま沈黙しているのもまずい。
「……わたしの推しはヒロイン、です。」
「うっそでしょ?乙女ゲームなのに主人公推し?そんなの聞いたことない」
彼女がストンとわたしの目の前に降りてくる。
魔法だ。
「てことはドロシーの願望がヒロインの性別に作用したのかなあ」
願望?
作用?
「大好きな『憂国聖女』の世界に来て。それだけでも楽しかったけど。ずっと語れるお友達が欲しかったんだ」
彼女は今のところ、こちらに害意はないようだ。
「あ、大丈夫よ。認識妨害魔法使ってるから、他の人には聞こえないよ。知ってると思うけど、フェリクスの魔法は、この国一番だから。……聖女を除く」
近くに仲間はいない。
だけどこれは、情報を引き出すチャンスかもしれない。
わたしは言葉を慎重に選んだ。
「あなたはいつから、前世の記憶があったの?」
「あたし、『憂国聖女』の年表、自分で作るくらいオタクだったから。小さい時から、あれ?これ知ってる!ってことがちょくちょくあって。王様にアドバイスしたら、神童だ!ってもてはやされたりして」
うふふ、と彼女は楽しそうに語る。
「4年前の預言の日に、ぜーんぶ思い出して。真っ青になったの。だって亘の一族の反乱とかさ、やめさせちゃってたし。慌てて異世界送りにはしたけど……」
はあ、とため息をつく。
「アレは失敗だな。ゲームの亘とは別人。悲しい過去がないとエモみが足りないし、推せないよね」
彼女はかつてのわたしと同じだ。
彼らのことを、キャラクターとしてしか見ていない。
「あたしはね、エルネスト推しだけどハーレムが好き。ファンディスクやった?」
ヒロインにふられた攻略キャラが、リースベットと結ばれるというストーリー。
「リースベットはさ、全員と結ばれるのに、それぞれ別次元でハーレムではないでしょ?ヒロインだけずるいなーと思ってて」
「わたしはヒロイン推しなので」
「ええー?まあ、確かに。ドロシーのハーレムエンドはありえないから、頑張っても仕方がないもんね」
それが彼女の目的か。
「うふふ。こんな話するの久々だから、楽しいなあ。ねえ、あたしたち、いいお友達になれるよね?前世はどこ住みだった?何年生?」
彼女は幼い。
ゲームのリーズベットよりずっと。
中学生……いや、小学生かも。
「高校生にもなると、ただの根明キャラって萌えないよね」
高校生。マジか。
つくづく精神年齢と実年齢は関係ないなと、エルネストと彼女を見て思う。
「ドロシーは死んだ時、いくつだった?」
「……社会人です」
「嘘!?おばさんが乙女ゲーム?キモっ」
うぐぐ。
うるせい。
リースベットは、はあ、とため息をついた。
お友達として不合格だったらしい。
リースベットが去る前に、聞かなきゃいけないことがまだある。
「待って。あの黒い宝石って何?」
「これ?」
リースベットがジャラリと無数の黒い宝石を取り出した。
「これはね、神の声よ」
得意げに答える。
「お客様は神様です、ってね」
「ドロシーは嫌われ者だから破滅する。リースベットは人気キャラだからカップリングが許される。ファンディスクのエルネストルートなんてさ。実は兄妹じゃなかった~なんて、後付け設定が足されてたでしょ?」
ということは、たまたまヨエルとわたしが助かったのは……。
ヨエルはメインキャラだから、ボス戦以外では死なない。
わたしはプレイヤーだから正気に戻れた。
そういうことだろうか。
首を傾げてリースベットがわたしに尋ねた。
「ねえ、一つ聞いていい?なんでバッドエンドを目指さなかったの?グッドエンドだとドロシーは死ぬじゃない」
夜会で死ぬ運命を脱せたのは、たまたまとか言いようがない。
だけど、わたしが目指していたのは女王エンドで…………
「ドロシー!」
認識妨害の壁を破り、サクラたちが割って入る。
後ろに控えていたフェリクスが、リースベットを抱き寄せる。
「皆様、来てはダメ!わたくし、フェリクスに操られて……」
うおっ。マジか。
フェリクスに拘束されてるふりをして、悪行を全てを押し付けるつもりらしい。
演技派~!
さっきエルネストが自分を犯人と断定してたのは聞いてなかったのかな。
「お兄様、助け……」
フェリクスはリースベットを抱えて飛翔すると、そのまま闇に消えた。
「ドロシー、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
心配するサクラに答えながら、わたしは全然別のことを考えていた。
女王ルートでのドロシーの顛末。
間抜けな話だ。
わたしは、脇役の顛末なんてはっきりと覚えていなかった。
女王エンドルートでドロシーは、
死ぬ。
後ろには、おそらく彼女に操られているであろう、攻略対象キャラ最後の一人、虚な目をしたフェリクス・リンディ。
「あたし以外にプレイヤーがいるとは思わなかったな」
楽しそうに、リースベットがわたしに話しかける。
「ねえ、あなたは誰推し?わたしはエルネスト。同担拒否だから、よかった~」
わたしは、何が最善か、グルグル頭を回転させる。
「もしかして、怒ってる?魔物にしてヒロインたちに殺させようとしたこと。だって仕方ないじゃん。あなたドロシーなんだもん」
リースベットが口を尖らせる。
このまま沈黙しているのもまずい。
「……わたしの推しはヒロイン、です。」
「うっそでしょ?乙女ゲームなのに主人公推し?そんなの聞いたことない」
彼女がストンとわたしの目の前に降りてくる。
魔法だ。
「てことはドロシーの願望がヒロインの性別に作用したのかなあ」
願望?
作用?
「大好きな『憂国聖女』の世界に来て。それだけでも楽しかったけど。ずっと語れるお友達が欲しかったんだ」
彼女は今のところ、こちらに害意はないようだ。
「あ、大丈夫よ。認識妨害魔法使ってるから、他の人には聞こえないよ。知ってると思うけど、フェリクスの魔法は、この国一番だから。……聖女を除く」
近くに仲間はいない。
だけどこれは、情報を引き出すチャンスかもしれない。
わたしは言葉を慎重に選んだ。
「あなたはいつから、前世の記憶があったの?」
「あたし、『憂国聖女』の年表、自分で作るくらいオタクだったから。小さい時から、あれ?これ知ってる!ってことがちょくちょくあって。王様にアドバイスしたら、神童だ!ってもてはやされたりして」
うふふ、と彼女は楽しそうに語る。
「4年前の預言の日に、ぜーんぶ思い出して。真っ青になったの。だって亘の一族の反乱とかさ、やめさせちゃってたし。慌てて異世界送りにはしたけど……」
はあ、とため息をつく。
「アレは失敗だな。ゲームの亘とは別人。悲しい過去がないとエモみが足りないし、推せないよね」
彼女はかつてのわたしと同じだ。
彼らのことを、キャラクターとしてしか見ていない。
「あたしはね、エルネスト推しだけどハーレムが好き。ファンディスクやった?」
ヒロインにふられた攻略キャラが、リースベットと結ばれるというストーリー。
「リースベットはさ、全員と結ばれるのに、それぞれ別次元でハーレムではないでしょ?ヒロインだけずるいなーと思ってて」
「わたしはヒロイン推しなので」
「ええー?まあ、確かに。ドロシーのハーレムエンドはありえないから、頑張っても仕方がないもんね」
それが彼女の目的か。
「うふふ。こんな話するの久々だから、楽しいなあ。ねえ、あたしたち、いいお友達になれるよね?前世はどこ住みだった?何年生?」
彼女は幼い。
ゲームのリーズベットよりずっと。
中学生……いや、小学生かも。
「高校生にもなると、ただの根明キャラって萌えないよね」
高校生。マジか。
つくづく精神年齢と実年齢は関係ないなと、エルネストと彼女を見て思う。
「ドロシーは死んだ時、いくつだった?」
「……社会人です」
「嘘!?おばさんが乙女ゲーム?キモっ」
うぐぐ。
うるせい。
リースベットは、はあ、とため息をついた。
お友達として不合格だったらしい。
リースベットが去る前に、聞かなきゃいけないことがまだある。
「待って。あの黒い宝石って何?」
「これ?」
リースベットがジャラリと無数の黒い宝石を取り出した。
「これはね、神の声よ」
得意げに答える。
「お客様は神様です、ってね」
「ドロシーは嫌われ者だから破滅する。リースベットは人気キャラだからカップリングが許される。ファンディスクのエルネストルートなんてさ。実は兄妹じゃなかった~なんて、後付け設定が足されてたでしょ?」
ということは、たまたまヨエルとわたしが助かったのは……。
ヨエルはメインキャラだから、ボス戦以外では死なない。
わたしはプレイヤーだから正気に戻れた。
そういうことだろうか。
首を傾げてリースベットがわたしに尋ねた。
「ねえ、一つ聞いていい?なんでバッドエンドを目指さなかったの?グッドエンドだとドロシーは死ぬじゃない」
夜会で死ぬ運命を脱せたのは、たまたまとか言いようがない。
だけど、わたしが目指していたのは女王エンドで…………
「ドロシー!」
認識妨害の壁を破り、サクラたちが割って入る。
後ろに控えていたフェリクスが、リースベットを抱き寄せる。
「皆様、来てはダメ!わたくし、フェリクスに操られて……」
うおっ。マジか。
フェリクスに拘束されてるふりをして、悪行を全てを押し付けるつもりらしい。
演技派~!
さっきエルネストが自分を犯人と断定してたのは聞いてなかったのかな。
「お兄様、助け……」
フェリクスはリースベットを抱えて飛翔すると、そのまま闇に消えた。
「ドロシー、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
心配するサクラに答えながら、わたしは全然別のことを考えていた。
女王ルートでのドロシーの顛末。
間抜けな話だ。
わたしは、脇役の顛末なんてはっきりと覚えていなかった。
女王エンドルートでドロシーは、
死ぬ。
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