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第六章 婚約破棄

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 夜会の夜が、静かに更けていく。
『エルネストに婚約破棄されたドロシー・アクヤークは、闇落ちして魔物と化し、ヒロイン達に殺される』
 わたしはヒロイン・サクラたちと共に、この最大の危機を脱したのだ。
 浮かれた勢いで、みんなと躍りまくって、足が痛い。
 テラスに出て、一休みすることにした。
 風がきもちいい。
(そう言えば、エルネスト、どこに行ったんだろう)
 みんな、の中にエルネストは含まれていなかった。

「ドロシー、少しいいか」
 従者に見送られて、エルネストがテラスへ出てくる。
 なるほど、仕事をしてたのか。
「おちゅかへはへす、えるえすろはま」
「……酔っているのか」
 そんなバカな。
 ドロシーは未成年である。
 未成年飲酒、ダメ絶対。
 こっちでは15から飲酒OKだけど。 

「今日は、すまなかったな」
 この展開は前にもあった。
「君が魔物になるなら、討伐もやむなしと思っていたのも本心だ」
 冷めてるなー。
 彼がこう育ったのは、一重に生育環境のせいか。
 現代日本で24歳といえばまだまだひよっこなのに。
「おねいさんわ、気にしてまへんひょ」
 わたしは、エルネストが哀れに見えて、彼の頭をよしよしする。

 エルネストが驚いた顔をした。
 しまった。
 相当酔ってる。

「わらくし……わたくしが正気に戻れたのは、エルネスト様の行動が予想外だったおかげです」
「婚約破棄をしないと言ったのが、予想外だったか?」
「……ええ、貴族の婚姻は、体面が最も重視されますでしょう?」
 エルネストは少し考えて、顔を曇らせる。
「犯人の反応も伺っていた」
 犯人、リースベット。
 ヴァルストレームを洗っていたエルネストが、彼女の計略に気づいたのは、当然と言えば当然か。
 酔いが完全に冷めた。

「エルネスト様、リースベット様は……」
「陛下は私よりも妹を信頼している。法廷に出せる確たる証拠もない。すぐに捕まえる事はできないだろう」
 エルネストがふっと息をつく。
「心配はない。敵は判明した。今までよりも打てる手は多い」
 エルネストにとって、リースベットは実の妹なのだ。
 中身はともかく。
 わたしはエルネストの胸中を慮る。
 彼の支えになりたいと思った。
 ……友人として。

 自分の恋心を自覚しながら、知らぬふりをするのは、もうできない。
「エルネスト様、お願いがあります」
 だから、自分の立場をはっきりさせないといけない。
「なんだ?」

「婚約を破棄してください。あなたより、大切な男性がいます」

 わたしはエルネストをまっすぐに見つめた。
 エルネストがわたしの頬に手を伸ばす。
 だが、触れる直前で手を引くと
「それは残酷だな」
 静かに笑った。

 エルネストはわたしから距離を置くと、
「わかったよ、ドロシー。彼と幸せに」
 そう告げて、会場に戻って行く。
 わたしはその後ろ姿を見送った。

「え~!もったいな~い。あなたの推しはエルネストじゃないのね」
 声がした方に視線を向ける。

 屋根の上に、クスクスと笑いながらリースベットが座っていた。
 虚な目のフェリクス・リンディを引き連れて。
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