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第六章 婚約破棄
④
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わたくしとリーズベット様を中心に、皆がザワザワと噂話をしている。
「最近のあなたの悪行、聞き及んでいます。被害を訴えるものは多い。何より、国を救う聖女様へのいじめは見逃せません」
「リースベット。何もこのようなところで」
エルネスト様が止めに入る。
「いいえ、お兄様。人前ではなくては証明できません」
悪行?
なんのことだったかしら。
スギっと頭が痛む。
わたくしが反論する。
「証明?なんの証拠があるとおっしゃいますの?」
わたくしの意図せぬ言葉を。
「わたくしは国を代表して、正しことをしておりますわ。聖女など、ただの自称ではなくて?魔物も果たしてどなたがご用意なさったのか」
わたくしがくくくと顔を歪めて嗤う。
「国を守ってくださっている聖女様に、なんということを……」
リースベット様が怒りをあらわにする。
「わ、わたくしたちはドロシー様に脅されて、仕方がなく従っていたのです!」
「わたくしたちは聖女様を支持しております」
「心の卑しい方……本当はドロシー様を軽蔑しておりました!」
わたくしの取り巻きたちが、口々に言う。
その胸に、黒い宝石のブローチ。
生徒たちは皆、面白いものを見るように、わたくしを見ている。
「お兄様、ご覧の通りです。ドロシーを庇うものはおりません。彼女の存在はヴァルストレームの恥となりましょう」
訴えるリースベット様に反論する。
「エルネスト様!あなたはわたくしを愛してくださっているはずです!そうでしょう!?婚約破棄なんてなさらないですわよね?」
わたくしはエルネスト様にすがりつく。
エルネストの表情は変わらない。
「そうだな……」
「ほら、ご覧の通りですわ!リースベット様、いえ、リースベット!あなたこそ義姉に対して失礼なのではなくて?わたくしは、エルネスト様と共にこの国を統べる女王です。戦いなど、全て聖女に押し付ければいいのです。」
生徒たちの目が、好奇から軽蔑の色に変わる。
「お兄様、ドロシーは最低な女です!」
「リースの言う通りのようだな」
エルネストがわたくしの肩をぐっと抱き寄せる。
そして、高らかに宣言した。
「だが、わたしはドロシーのことを愛している。婚約破棄は、しない」
は?
何言ってんだこの男。
リースベットが目を白黒させている。
わたくしも心底驚く。
「こ、婚約破棄はしない?」
「しないでくれと言っただろう?」
「いえ、でも、それだとシナリオが……」
シナリオ?
またズキっと頭が痛む。
「はーい、おれは婚約破棄に賛成でーす」
割って入った亘に、ヨエルも賛同する。
「私も破棄の方向でお願いしたく」
その隣には、呆れ顔のサクラいた。
……サクラ?
わたくしはいつから聖女のことを、そう呼んでいたんだろう。
「お兄様、皆様もこうおっしゃっています。ドロシーは……」
訴えるリースベットに、サクラがキッパリと言った。
「私はドロシーにいじめなど受けていません」
いじめてない?
いや、わたしがサクラをいじめるなんてありえないじゃないか。
ズキっズキっとまた頭が痛む。
「ドロシーがいたから、私はこの世界で頑張ってこれたんです」
近づいてきたサクラがわたしの手を取り、微笑む。
「ありがとうドロシー」
美形。
超美形。
『彼』の笑顔は眩しすぎて、いつもクラクラする。
パキンと私の中で何かが砕けた。
砕けた黒い宝石がわたしの体から落ちる。
視界がクリアになった。
見守るみんなの顔を見回す。
「魔物化するなら、討伐もやむなしと思っていたが。自力で脱するとは、やはり君は大した女性だ」
相変わらず冷酷な男である。
ヨエルと亘が、わたしに笑顔を向ける。
「戻ったのか?ドロシー!」
「おかえり~、ドロシーちゃん」
「ありえない……」
リースベットがわなわなと身を震わせている。
「お前の勘違いのようだな、リースベット」
エルネストに言われたリースベットが、悔しそうな顔で退出する。
サクラがわたしの手を、ぎゅっと握る。
じんわりと暖かい。
隣には、笑顔で涙目のサクラ。
そして、みんな。
元に戻れて、本当によかった。
「最近のあなたの悪行、聞き及んでいます。被害を訴えるものは多い。何より、国を救う聖女様へのいじめは見逃せません」
「リースベット。何もこのようなところで」
エルネスト様が止めに入る。
「いいえ、お兄様。人前ではなくては証明できません」
悪行?
なんのことだったかしら。
スギっと頭が痛む。
わたくしが反論する。
「証明?なんの証拠があるとおっしゃいますの?」
わたくしの意図せぬ言葉を。
「わたくしは国を代表して、正しことをしておりますわ。聖女など、ただの自称ではなくて?魔物も果たしてどなたがご用意なさったのか」
わたくしがくくくと顔を歪めて嗤う。
「国を守ってくださっている聖女様に、なんということを……」
リースベット様が怒りをあらわにする。
「わ、わたくしたちはドロシー様に脅されて、仕方がなく従っていたのです!」
「わたくしたちは聖女様を支持しております」
「心の卑しい方……本当はドロシー様を軽蔑しておりました!」
わたくしの取り巻きたちが、口々に言う。
その胸に、黒い宝石のブローチ。
生徒たちは皆、面白いものを見るように、わたくしを見ている。
「お兄様、ご覧の通りです。ドロシーを庇うものはおりません。彼女の存在はヴァルストレームの恥となりましょう」
訴えるリースベット様に反論する。
「エルネスト様!あなたはわたくしを愛してくださっているはずです!そうでしょう!?婚約破棄なんてなさらないですわよね?」
わたくしはエルネスト様にすがりつく。
エルネストの表情は変わらない。
「そうだな……」
「ほら、ご覧の通りですわ!リースベット様、いえ、リースベット!あなたこそ義姉に対して失礼なのではなくて?わたくしは、エルネスト様と共にこの国を統べる女王です。戦いなど、全て聖女に押し付ければいいのです。」
生徒たちの目が、好奇から軽蔑の色に変わる。
「お兄様、ドロシーは最低な女です!」
「リースの言う通りのようだな」
エルネストがわたくしの肩をぐっと抱き寄せる。
そして、高らかに宣言した。
「だが、わたしはドロシーのことを愛している。婚約破棄は、しない」
は?
何言ってんだこの男。
リースベットが目を白黒させている。
わたくしも心底驚く。
「こ、婚約破棄はしない?」
「しないでくれと言っただろう?」
「いえ、でも、それだとシナリオが……」
シナリオ?
またズキっと頭が痛む。
「はーい、おれは婚約破棄に賛成でーす」
割って入った亘に、ヨエルも賛同する。
「私も破棄の方向でお願いしたく」
その隣には、呆れ顔のサクラいた。
……サクラ?
わたくしはいつから聖女のことを、そう呼んでいたんだろう。
「お兄様、皆様もこうおっしゃっています。ドロシーは……」
訴えるリースベットに、サクラがキッパリと言った。
「私はドロシーにいじめなど受けていません」
いじめてない?
いや、わたしがサクラをいじめるなんてありえないじゃないか。
ズキっズキっとまた頭が痛む。
「ドロシーがいたから、私はこの世界で頑張ってこれたんです」
近づいてきたサクラがわたしの手を取り、微笑む。
「ありがとうドロシー」
美形。
超美形。
『彼』の笑顔は眩しすぎて、いつもクラクラする。
パキンと私の中で何かが砕けた。
砕けた黒い宝石がわたしの体から落ちる。
視界がクリアになった。
見守るみんなの顔を見回す。
「魔物化するなら、討伐もやむなしと思っていたが。自力で脱するとは、やはり君は大した女性だ」
相変わらず冷酷な男である。
ヨエルと亘が、わたしに笑顔を向ける。
「戻ったのか?ドロシー!」
「おかえり~、ドロシーちゃん」
「ありえない……」
リースベットがわなわなと身を震わせている。
「お前の勘違いのようだな、リースベット」
エルネストに言われたリースベットが、悔しそうな顔で退出する。
サクラがわたしの手を、ぎゅっと握る。
じんわりと暖かい。
隣には、笑顔で涙目のサクラ。
そして、みんな。
元に戻れて、本当によかった。
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