上 下
24 / 26
第六章 婚約破棄

しおりを挟む
 わたくしとリーズベット様を中心に、皆がザワザワと噂話をしている。
「最近のあなたの悪行、聞き及んでいます。被害を訴えるものは多い。何より、国を救う聖女様へのいじめは見逃せません」
「リースベット。何もこのようなところで」
 エルネスト様が止めに入る。
「いいえ、お兄様。人前ではなくては証明できません」
 悪行?
 なんのことだったかしら。
 スギっと頭が痛む。

 わたくしが反論する。
「証明?なんの証拠があるとおっしゃいますの?」
 わたくしの意図せぬ言葉を。
「わたくしは国を代表して、正しことをしておりますわ。聖女など、ただの自称ではなくて?魔物も果たしてどなたがご用意なさったのか」
 わたくしがくくくと顔を歪めて嗤う。
「国を守ってくださっている聖女様に、なんということを……」
 リースベット様が怒りをあらわにする。

「わ、わたくしたちはドロシー様に脅されて、仕方がなく従っていたのです!」
「わたくしたちは聖女様を支持しております」
「心の卑しい方……本当はドロシー様を軽蔑しておりました!」
 わたくしの取り巻きたちが、口々に言う。
 その胸に、黒い宝石のブローチ。
 生徒たちは皆、面白いものを見るように、わたくしを見ている。

「お兄様、ご覧の通りです。ドロシーを庇うものはおりません。彼女の存在はヴァルストレームの恥となりましょう」
 訴えるリースベット様に反論する。
「エルネスト様!あなたはわたくしを愛してくださっているはずです!そうでしょう!?婚約破棄なんてなさらないですわよね?」
 わたくしはエルネスト様にすがりつく。
 エルネストの表情は変わらない。
「そうだな……」
「ほら、ご覧の通りですわ!リースベット様、いえ、リースベット!あなたこそ義姉に対して失礼なのではなくて?わたくしは、エルネスト様と共にこの国を統べる女王です。戦いなど、全て聖女に押し付ければいいのです。」
 生徒たちの目が、好奇から軽蔑の色に変わる。

「お兄様、ドロシーは最低な女です!」
「リースの言う通りのようだな」

エルネストがわたくしの肩をぐっと抱き寄せる。
そして、高らかに宣言した。

「だが、わたしはドロシーのことを愛している。婚約破棄は、しない」

 は?
 何言ってんだこの男。
 リースベットが目を白黒させている。
 わたくしも心底驚く。
「こ、婚約破棄はしない?」
「しないでくれと言っただろう?」
「いえ、でも、それだとシナリオが……」
 シナリオ?
 またズキっと頭が痛む。

「はーい、おれは婚約破棄に賛成でーす」
 割って入った亘に、ヨエルも賛同する。
「私も破棄の方向でお願いしたく」
 その隣には、呆れ顔のサクラいた。
 ……サクラ?
 わたくしはいつから聖女のことを、そう呼んでいたんだろう。

「お兄様、皆様もこうおっしゃっています。ドロシーは……」
 訴えるリースベットに、サクラがキッパリと言った。
「私はドロシーにいじめなど受けていません」

 いじめてない?
 いや、わたしがサクラをいじめるなんてありえないじゃないか。
 ズキっズキっとまた頭が痛む。
「ドロシーがいたから、私はこの世界で頑張ってこれたんです」

 近づいてきたサクラがわたしの手を取り、微笑む。

「ありがとうドロシー」

 美形。
 超美形。
 『彼』の笑顔は眩しすぎて、いつもクラクラする。
 パキンと私の中で何かが砕けた。

 砕けた黒い宝石がわたしの体から落ちる。
 視界がクリアになった。
 見守るみんなの顔を見回す。
「魔物化するなら、討伐もやむなしと思っていたが。自力で脱するとは、やはり君は大した女性だ」
 相変わらず冷酷な男である。
 ヨエルと亘が、わたしに笑顔を向ける。
「戻ったのか?ドロシー!」
「おかえり~、ドロシーちゃん」

「ありえない……」
 リースベットがわなわなと身を震わせている。
「お前の勘違いのようだな、リースベット」
 エルネストに言われたリースベットが、悔しそうな顔で退出する。

 サクラがわたしの手を、ぎゅっと握る。
 じんわりと暖かい。
 隣には、笑顔で涙目のサクラ。
 そして、みんな。

 元に戻れて、本当によかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜の都に迷い込んだ女の子のお話

山法師
恋愛
 惑いの森に捨てられた少女アイリスは、そこで偶然出会った男、ヘイルに拾われる。アイリスは森の奥の都で生活を送るが、そこは幻の存在と言われる竜が住む都だった。加えてヘイルも竜であり、ここに人間はアイリス一人だけだという。突如始まった竜(ヘイル)と人間(アイリス)の交流は、アイリスに何をもたらすか。 〔不定期更新です〕

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

最初から最後まで

相沢蒼依
恋愛
※メリバ作品になりますので、そういうの無理な方はリターンお願いします! ☆世界観は、どこかの異世界みたいな感じで捉えてほしいです。時間軸は現代風ですが、いろんなことが曖昧ミーな状態です。生温かい目で閲覧していただけると幸いです。 登場人物 ☆砂漠と緑地の狭間でジュース売りをしている青年、ハサン。美少年の手で搾りたてのジュースが飲めることを売りにするために、幼いころから強制的に仕事を手伝わされた経緯があり、両親を激しく憎んでいる。ぱっと見、女性にも見える自分の容姿に嫌悪感を抱いている。浅黒い肌に黒髪、紫色の瞳の17歳。 ♡生まれつきアルビノで、すべての色素が薄く、白金髪で瞳がオッドアイのマリカ、21歳。それなりに裕福な家に生まれたが、見た目のせいで婚期を逃していた。ところがそれを気にいった王族の目に留まり、8番目の妾としてマリカを迎え入れることが決まる。輿入れの日までの僅かな時間を使って、自由を謳歌している最中に、ハサンと出逢う。自分にはないハサンの持つ色に、マリカは次第に惹かれていく。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

処理中です...