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第六章 婚約破棄

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 ドロシーが変になってから数日。
 国から俺にあてがわれた寮の部屋。
 6畳あるか、というそのスペースに、
「野郎が四人も集まると、狭っ苦しいな」
 ため息が出る。

「野郎四人ではなく、男三人に女性一人なのではないでしょうか」
 ヨエルがボケる。
 いや、ボケたわけではないだろうが。
 後ろで亘がくくくと笑っている。
「どちらでも良い。ドロシーの話だ」
 エルネストが俺に、髪飾りを手渡す。
「それドロシーちゃんの?」
「真ん中に、穴が空いていますね」
 ちょうど、宝石がはまるくらいの穴。
「何かわかるか?聖女殿」

 その穴から確かに、
「魔物と同じ気配がする」
「やはりか……」

「髪飾りに宝石がないことを考えると、ドロシーについていることになりますね」
「王子が裸体を確認してくれば?ドロシーちゃん、婚約者だし」
 殺すぞ。
「ドロシーは侯爵令嬢だ。婚約者とはいえ、婚姻前の男に肌を見せたりはせぬよ」
 そりゃよかった。殺すぞ。
「その黒い宝石っての、万能すぎだよな~。別人みたいになってたもん」
 この世界の魔法は物理に作用する力だ。
 精神を操るような魔法は、多分ない。
 エルネストにも確認済みだ。

「リングホルム伯爵にしろ、ヨエルにしろ。本来の自分から大きく外れた行動はせぬと定義している。前のドロシーに戻っただけとも言えるが」
「元々持っていた殺意と、剣術バカねぇ~」
「失礼な」
 俺がヨエルに問う。
「操られた時の記憶はあるのか?」
「私ですか?いえ……。ですがあの感覚は覚えています。おそらくですが、ドロシーに助けてもらわなかったら、私もあのまま魔物化していたでしょう」
「だとしたら、ドロシーちゃんも……」
 部屋が静まり返った。

 おずおずと亘が手を上げる。
「怒らないで聞いてくれる?」
 怒るようなことを言うんだな?
「よし、言ってみろ」
 俺はグーを用意する。
「いや、まず約束してよ!怒らないって」
「いいから早く言え」
 エルネストがため息まじりに促した。
「囚われてた時に、城の中を、あら方調べたんだけど」
 やっぱり自由に抜け出してたか。
「今後、牢の警備を強化することにしよう」
「王の私室と降臨の間で、その宝石見たよ。その時は、こんな重要なものだとは思ってなかったけど」
 俺をこの世界に喚んだ、王自身が黒幕?
「黒幕については、ヴァルストレーム関係者と信奉者を洗っている。父が第一容疑者ではあったが……」
「違ったのか?」
「あの男に、そんな頭はない」
 実の父親だろ。
 さめたやつ。

 黒幕について、ドロシーはフェリクスという男を疑っていた。
 だから狙われてしまったんだろうか。
 それ以外にも、ドロシーには俺には言えない、何かがある気がずっとしていた。

「サクラ」
 エルネストが硬い声で、珍しく俺を名前で呼ぶ。

 とっさに姿勢を正す。
 それと同時に、ドアがノックされた。
 むかつくが、さすがだ。

 そこにはドロシーの友達の、リースベットが立っていた。
「失礼します、お兄様。こちらだと伺ったもので」
 リースベットは、部屋を見回すと、
「女性の部屋にお邪魔するなんて、と思っていましたが。みなさんお揃いでしたのね」
「リースちゃあん、いらっしゃ~い」
 亘が大手を挙げて歓迎する。
 本心かどうかは知らないが。
 ヨエルも姿勢を正して、恭しくお辞儀をした。
 リースベットは友達として、今のドロシーのことを、どう思っているんだろうか。

「申し訳ありませんが、政務が溜まっております。お時間がございません。夜会にはご出席なさるんでしょう?」
「ああ、わかった」
 出ていくエルネストとリースベットに、俺が声をかける。
「あの、王女様。最近ドロシーとは……」
「ドロシーですか?」
 リースベットは困った顔になると、
「最近はお会いしておりません。何より、人が変わったようで、なんだか怖くて」
 申し訳なさそうに答えた。

「聖女様、タイが曲がっておりますよ」
 柔らかく微笑むと、タイを直してくれた。
 ドロシーの友達だ。
 いい子なんだろう。

(最初の頃のドロシーみたいだな)
 ドロシーを想う。
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