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第六章 婚約破棄
①
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王都魔法学園。
貴族の子息は皆この学園に通い、学問と魔法を学ぶ。
整えられた緑の中庭で、いつのように、豪華なティーセットでお茶を嗜む。
わたくしを見て、皆ヒソヒソと噂話をする。
何をしていても注目の的、憧れの眼差しだ。
「ドロシー様、素敵な髪飾りですね」
取り巻きの一人が、わたくしを褒め称える。
「リースベット殿下からの贈り物ですの」
黒い宝石が付いた煌びやかな髪飾り。
わたくしの艶やかな金色の髪によく似合う。
「あら、聖女様だわ」
取り巻きの指さす方に、聖女。
わたくしを驚いた目で見ている。
「わたくしに何かご用?」
サクラ・ユージーン。
魔王討伐のために、異世界から召喚されたらしい女生徒。
でも、わたくしには関係のないこと。
わたくし以外の女が、わたくしより注目されるのは気に食わないわ。
「わたくしはアクヤーク侯爵家の一人娘。あなたごとき庶民が、気軽に声をかけて良い人間ではないわ」
そう。
わたしの名前はドロシー・アクヤーク。
国有数の侯爵家のご令嬢。
「……」
聖女と、隣の男が言葉を失った。
確かワタルとか言ったかしら。
わたしにはエルネスト様がいるのだから、興味はないけど。
学校が終わり、寮に帰るとエルネスト様が立っていた。
「エルネスト様!会いに来てくださったのですね」
わたくしがエルネスト様に抱きつく。
いつもは避けられるのだけど。
なぜかしら?
「ドロシー、急に大胆だな」
この方はエルネスト王子殿下。
わたくしの婚約者ですの。
この国で、わたくしにふさわしいのは、この方だけ。
そのわたしとエルネスト様を、見つめる少女。
「あら聖女様。何かご用?」
エルネスト様に懸想でもしてらっしゃるの?
「あなたと釣り合うはずもないでしょう?お下がりなさい。あなたには庶民同士、お隣の方がお似合いなのではないかしら?」
聖女が泣きそうな顔になる。
そのまま、踵を返して帰って行った。
傷つけたかしら。
でも本当のことを言っただけよ?
……胸が痛いのは、なぜかしら?
聖女をワタルが追いかけて行った。
「ドロシー」
エルネスト様がわたくしの顎を持ち上げる。
嫌だわ、婚姻前ですのに。
わたくしの頬が、赤く染まるのがわかる。
「ちぇすとぉ!」
「ぎょえぇぇぇ!」
わたくしがいたにところを、剣が一閃する。
エルネスト様が庇ってくれなければ今頃は……。
「ヨエル!」
エルネスト様がその賊を叱責した。
近衛兵の格好をしたヨエルと呼ばれたその男、涙を溜めて主張する。
「ドロシー殿なら私の剣など見切れましょう。正気に戻すにはこれしかありません」
「それはお前の誤解だ!」
「私には見ていられないのです」
なんなのです?
なんの話なのです!?
「剣を引け、ヨエル」
エルネスト様がヨエルを制す。
「ドロシー、今日は帰る。ゆっくり休むように」
「お待ちになって、エルネスト様。もうすぐ後期終了の夜会がございますわ。エスコート、お忘れになっておりませんわよね」
夜会では婚約者がエスコートをする決まりですのに、エルネスト様ったら、お仕事優先でいつも来てくださらないんだもの。
「……。わかった。予定を空けよう」
確かな約束を交わして、エルネスト様が帰って行く。
これで夜会の主役は、わたくしに決まりね。
あら?
リースベット様にもらった髪飾りがないわ。
まあ、またいただけば良いわよね。
私の頭に、傷ついた顔の聖女が浮かぶ。
ズキっ。
頭が痛む。
まあいいわ。
わたくしがあの女に負けるはずがないのだから。
貴族の子息は皆この学園に通い、学問と魔法を学ぶ。
整えられた緑の中庭で、いつのように、豪華なティーセットでお茶を嗜む。
わたくしを見て、皆ヒソヒソと噂話をする。
何をしていても注目の的、憧れの眼差しだ。
「ドロシー様、素敵な髪飾りですね」
取り巻きの一人が、わたくしを褒め称える。
「リースベット殿下からの贈り物ですの」
黒い宝石が付いた煌びやかな髪飾り。
わたくしの艶やかな金色の髪によく似合う。
「あら、聖女様だわ」
取り巻きの指さす方に、聖女。
わたくしを驚いた目で見ている。
「わたくしに何かご用?」
サクラ・ユージーン。
魔王討伐のために、異世界から召喚されたらしい女生徒。
でも、わたくしには関係のないこと。
わたくし以外の女が、わたくしより注目されるのは気に食わないわ。
「わたくしはアクヤーク侯爵家の一人娘。あなたごとき庶民が、気軽に声をかけて良い人間ではないわ」
そう。
わたしの名前はドロシー・アクヤーク。
国有数の侯爵家のご令嬢。
「……」
聖女と、隣の男が言葉を失った。
確かワタルとか言ったかしら。
わたしにはエルネスト様がいるのだから、興味はないけど。
学校が終わり、寮に帰るとエルネスト様が立っていた。
「エルネスト様!会いに来てくださったのですね」
わたくしがエルネスト様に抱きつく。
いつもは避けられるのだけど。
なぜかしら?
「ドロシー、急に大胆だな」
この方はエルネスト王子殿下。
わたくしの婚約者ですの。
この国で、わたくしにふさわしいのは、この方だけ。
そのわたしとエルネスト様を、見つめる少女。
「あら聖女様。何かご用?」
エルネスト様に懸想でもしてらっしゃるの?
「あなたと釣り合うはずもないでしょう?お下がりなさい。あなたには庶民同士、お隣の方がお似合いなのではないかしら?」
聖女が泣きそうな顔になる。
そのまま、踵を返して帰って行った。
傷つけたかしら。
でも本当のことを言っただけよ?
……胸が痛いのは、なぜかしら?
聖女をワタルが追いかけて行った。
「ドロシー」
エルネスト様がわたくしの顎を持ち上げる。
嫌だわ、婚姻前ですのに。
わたくしの頬が、赤く染まるのがわかる。
「ちぇすとぉ!」
「ぎょえぇぇぇ!」
わたくしがいたにところを、剣が一閃する。
エルネスト様が庇ってくれなければ今頃は……。
「ヨエル!」
エルネスト様がその賊を叱責した。
近衛兵の格好をしたヨエルと呼ばれたその男、涙を溜めて主張する。
「ドロシー殿なら私の剣など見切れましょう。正気に戻すにはこれしかありません」
「それはお前の誤解だ!」
「私には見ていられないのです」
なんなのです?
なんの話なのです!?
「剣を引け、ヨエル」
エルネスト様がヨエルを制す。
「ドロシー、今日は帰る。ゆっくり休むように」
「お待ちになって、エルネスト様。もうすぐ後期終了の夜会がございますわ。エスコート、お忘れになっておりませんわよね」
夜会では婚約者がエスコートをする決まりですのに、エルネスト様ったら、お仕事優先でいつも来てくださらないんだもの。
「……。わかった。予定を空けよう」
確かな約束を交わして、エルネスト様が帰って行く。
これで夜会の主役は、わたくしに決まりね。
あら?
リースベット様にもらった髪飾りがないわ。
まあ、またいただけば良いわよね。
私の頭に、傷ついた顔の聖女が浮かぶ。
ズキっ。
頭が痛む。
まあいいわ。
わたくしがあの女に負けるはずがないのだから。
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