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第六章 婚約破棄

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 王都魔法学園。
 貴族の子息は皆この学園に通い、学問と魔法を学ぶ。
 整えられた緑の中庭で、いつのように、豪華なティーセットでお茶を嗜む。
 わたくしを見て、皆ヒソヒソと噂話をする。
 何をしていても注目の的、憧れの眼差しだ。

「ドロシー様、素敵な髪飾りですね」

 取り巻きの一人が、わたくしを褒め称える。
「リースベット殿下からの贈り物ですの」
 黒い宝石が付いた煌びやかな髪飾り。
 わたくしの艶やかな金色の髪によく似合う。

「あら、聖女様だわ」
 取り巻きの指さす方に、聖女。
 わたくしを驚いた目で見ている。
「わたくしに何かご用?」
 サクラ・ユージーン。
 魔王討伐のために、異世界から召喚されたらしい女生徒。
 でも、わたくしには関係のないこと。
 わたくし以外の女が、わたくしより注目されるのは気に食わないわ。

「わたくしはアクヤーク侯爵家の一人娘。あなたごとき庶民が、気軽に声をかけて良い人間ではないわ」
 そう。
 わたしの名前はドロシー・アクヤーク。
 国有数の侯爵家のご令嬢。
「……」
 聖女と、隣の男が言葉を失った。
 確かワタルとか言ったかしら。
 わたしにはエルネスト様がいるのだから、興味はないけど。

 学校が終わり、寮に帰るとエルネスト様が立っていた。
「エルネスト様!会いに来てくださったのですね」
 わたくしがエルネスト様に抱きつく。
 いつもは避けられるのだけど。
 なぜかしら?
「ドロシー、急に大胆だな」
 この方はエルネスト王子殿下。
 わたくしの婚約者ですの。
 この国で、わたくしにふさわしいのは、この方だけ。

 そのわたしとエルネスト様を、見つめる少女。
「あら聖女様。何かご用?」

 エルネスト様に懸想でもしてらっしゃるの?
「あなたと釣り合うはずもないでしょう?お下がりなさい。あなたには庶民同士、お隣の方がお似合いなのではないかしら?」
 聖女が泣きそうな顔になる。
 そのまま、踵を返して帰って行った。
 傷つけたかしら。
 でも本当のことを言っただけよ?
 ……胸が痛いのは、なぜかしら?

 聖女をワタルが追いかけて行った。
 「ドロシー」
 エルネスト様がわたくしの顎を持ち上げる。
 嫌だわ、婚姻前ですのに。
 わたくしの頬が、赤く染まるのがわかる。

「ちぇすとぉ!」
「ぎょえぇぇぇ!」
 わたくしがいたにところを、剣が一閃する。
 エルネスト様が庇ってくれなければ今頃は……。
「ヨエル!」
 エルネスト様がその賊を叱責した。

 近衛兵の格好をしたヨエルと呼ばれたその男、涙を溜めて主張する。
「ドロシー殿なら私の剣など見切れましょう。正気に戻すにはこれしかありません」
「それはお前の誤解だ!」
「私には見ていられないのです」
 なんなのです?
 なんの話なのです!?
「剣を引け、ヨエル」
 エルネスト様がヨエルを制す。

「ドロシー、今日は帰る。ゆっくり休むように」
「お待ちになって、エルネスト様。もうすぐ後期終了の夜会がございますわ。エスコート、お忘れになっておりませんわよね」
 夜会では婚約者がエスコートをする決まりですのに、エルネスト様ったら、お仕事優先でいつも来てくださらないんだもの。
「……。わかった。予定を空けよう」
 確かな約束を交わして、エルネスト様が帰って行く。
 これで夜会の主役は、わたくしに決まりね。
 あら?
 リースベット様にもらった髪飾りがないわ。
 まあ、またいただけば良いわよね。

 私の頭に、傷ついた顔の聖女が浮かぶ。
 ズキっ。
 頭が痛む。

 まあいいわ。
 わたくしがあの女に負けるはずがないのだから。
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