上 下
19 / 26
第五章 黒幕

しおりを挟む
 王城、エルネストの私邸、応接間。
「彼がフェリクス・リンディだ」
 エルネストの隣に、黒い瞳の青髪の青年が立っている。
 もちろんイケメン。
 というか、美人?

「私にどんな御用でしょうか、聖女様」
 聞かれたサクラが、私の方を見る。
「友人のドロシーです。フェリクス様は預言士としてだけではなく、優柔な魔術師でもあると伺いました。サクラ様の今後の戦いために、ご尽力いただけましたらと、お呼びしましたの」
 わたしは久々に緊張していた。

 預言士フェリクス・リンディ。
 攻略キャラの一人であり、全ての黒幕、ラスボス。
 幼少期からその才能を見いだされ、預言士として王宮に仕えていた。
 4年前、魔王の復活と聖女の降臨を預言したのは彼だ。
 だが、彼は、自分の預言のせいで荒れゆく国を見て、敬愛するエルネストが国府での影響力を失ったのを見て、神を呪うようになる。

「ドロシー・アクヤーク公爵令嬢。エルネスト様の婚約者だからと、君のわがままに誰もが従うと思わぬことだ」
 もちろん、ドロシーのこともよく思っていない。
「最近は、エルネスト様をしょっちゅう呼び出しているようだな。このご時世だ。自重するように。……失礼する」
 それだけ言うと、去って行ってしまった。
 失敗だ。

「誤解があるようだ。後で正しておこう」
 エルネストがわたしたちに紅茶をすすめる。
「ドロシーは、あいつが怪しいと睨んでるんだな」
 え、どうしてそうなるの?
 聖女パワー?
「なんとなく」
 いつもながら鋭すぎる。

「フェリクスが?あれは真面目な男だ」
「真面目だからこそ、この状況に、心折れてしまうこともあると思いますの」
 エルネストは少し考えて、部下を下がらせる。

「こちらでも魔物化のことは調べている」
 あの宝石は、ゲームでラスボスが使う武器に似ている気がする。
「フェリクスは範囲外だったが、留意しよう」


 私たちがフェリクスに会った次の日から、魔物の出現が激化した。
 サクラと、エルネストにヨエル、それに亘。
 ゲーム通りのパーティが、その対処にあたった。
 わたしにできることは、学園で彼らの帰りを待つのみだ。

 食堂で、いつものように食事を取ろうとしたわたしに、ふいに声がかかる。
「ドロシー様ぁ~こちらですわ~」
 前のドロシーが引き連れていた学友たちだった。
 最近はずっとサクラといるので、すっかり存在を忘れていた。
「ここのところ、お話しできなくて寂しかったですわぁ」
「そうですわ。聖女様にドロシー様を取られてしまったようで~」
 侯爵家のおこぼれを狙って、皆が嫌厭していたドロシーにくっついていた、まあ、そういう方々だ。

「聖女様とお二人だけでは何かとご不便ではございません?最近は見目麗しい男子生徒もご一緒のようですけど」
 もしかして、亘のこと?
「私たちも聖女様にご紹介していただけないかしら」
「それはいい考えだわ、みんなで仲良くいたしましょう」
 魔物退治の功績で、サクラはもう、偽物聖女とは見られていない。
「申し訳ありませんが、サクラ様は人見知りですので」
 キッパリ断ると、足早に去っていった。

 前世を思い出して結構経つが、学園でのドロシーの評価は変わっていない。
 目立ちたがりの傲慢令嬢が、聖女様について回っている。
 そんな評価。
 一人で学食を食べていると、

 バシャっ

 頭から紅茶をかけられた。
「あっすみません!」
 遠くから、クスクスと笑うのが聞こえた。
 わざと?

 それから、わたしはちょくちょく嫌がらせを受けるようになる。
 移動教室で取り残されたり、テキストを隠されたり。
 地味で、実害が低いことばかりなんだけど……。
 あ、今、目の前で、机に落書きされてます。
 犯人は元取り巻きの学友たちです、先生。
 心にずっしりくるなー、こういうの。
 いじめ、ダメ絶対。

「おやめなさい」

 わたしの背後から、凛とした声が響いた。

「げ、ドロシー様……!」
「失礼しました……じゃない、聞いてください!ドロシー様の机に落書きをしたものがおりましたのよ!私たちで消しておりましたの」
 嘘つけ!現行犯逮捕!
「待って、後ろの方は……」
 わたしは後ろを振り向いた。

「誰を偽ろうとも、あなた自身は真実を知っているのです。自分を貶めるのはおやめなさい」

 サラサラの白い髪に、大きな青い瞳。

 リースベット・カロラ・ヴァルストレーム。

 この国の王女様だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

処理中です...