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第五章 黒幕
①
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王城、エルネストの私邸、応接間。
「彼がフェリクス・リンディだ」
エルネストの隣に、黒い瞳の青髪の青年が立っている。
もちろんイケメン。
というか、美人?
「私にどんな御用でしょうか、聖女様」
聞かれたサクラが、私の方を見る。
「友人のドロシーです。フェリクス様は預言士としてだけではなく、優柔な魔術師でもあると伺いました。サクラ様の今後の戦いために、ご尽力いただけましたらと、お呼びしましたの」
わたしは久々に緊張していた。
預言士フェリクス・リンディ。
攻略キャラの一人であり、全ての黒幕、ラスボス。
幼少期からその才能を見いだされ、預言士として王宮に仕えていた。
4年前、魔王の復活と聖女の降臨を預言したのは彼だ。
だが、彼は、自分の預言のせいで荒れゆく国を見て、敬愛するエルネストが国府での影響力を失ったのを見て、神を呪うようになる。
「ドロシー・アクヤーク公爵令嬢。エルネスト様の婚約者だからと、君のわがままに誰もが従うと思わぬことだ」
もちろん、ドロシーのこともよく思っていない。
「最近は、エルネスト様をしょっちゅう呼び出しているようだな。このご時世だ。自重するように。……失礼する」
それだけ言うと、去って行ってしまった。
失敗だ。
「誤解があるようだ。後で正しておこう」
エルネストがわたしたちに紅茶をすすめる。
「ドロシーは、あいつが怪しいと睨んでるんだな」
え、どうしてそうなるの?
聖女パワー?
「なんとなく」
いつもながら鋭すぎる。
「フェリクスが?あれは真面目な男だ」
「真面目だからこそ、この状況に、心折れてしまうこともあると思いますの」
エルネストは少し考えて、部下を下がらせる。
「こちらでも魔物化のことは調べている」
あの宝石は、ゲームでラスボスが使う武器に似ている気がする。
「フェリクスは範囲外だったが、留意しよう」
私たちがフェリクスに会った次の日から、魔物の出現が激化した。
サクラと、エルネストにヨエル、それに亘。
ゲーム通りのパーティが、その対処にあたった。
わたしにできることは、学園で彼らの帰りを待つのみだ。
食堂で、いつものように食事を取ろうとしたわたしに、ふいに声がかかる。
「ドロシー様ぁ~こちらですわ~」
前のドロシーが引き連れていた学友たちだった。
最近はずっとサクラといるので、すっかり存在を忘れていた。
「ここのところ、お話しできなくて寂しかったですわぁ」
「そうですわ。聖女様にドロシー様を取られてしまったようで~」
侯爵家のおこぼれを狙って、皆が嫌厭していたドロシーにくっついていた、まあ、そういう方々だ。
「聖女様とお二人だけでは何かとご不便ではございません?最近は見目麗しい男子生徒もご一緒のようですけど」
もしかして、亘のこと?
「私たちも聖女様にご紹介していただけないかしら」
「それはいい考えだわ、みんなで仲良くいたしましょう」
魔物退治の功績で、サクラはもう、偽物聖女とは見られていない。
「申し訳ありませんが、サクラ様は人見知りですので」
キッパリ断ると、足早に去っていった。
前世を思い出して結構経つが、学園でのドロシーの評価は変わっていない。
目立ちたがりの傲慢令嬢が、聖女様について回っている。
そんな評価。
一人で学食を食べていると、
バシャっ
頭から紅茶をかけられた。
「あっすみません!」
遠くから、クスクスと笑うのが聞こえた。
わざと?
それから、わたしはちょくちょく嫌がらせを受けるようになる。
移動教室で取り残されたり、テキストを隠されたり。
地味で、実害が低いことばかりなんだけど……。
あ、今、目の前で、机に落書きされてます。
犯人は元取り巻きの学友たちです、先生。
心にずっしりくるなー、こういうの。
いじめ、ダメ絶対。
「おやめなさい」
わたしの背後から、凛とした声が響いた。
「げ、ドロシー様……!」
「失礼しました……じゃない、聞いてください!ドロシー様の机に落書きをしたものがおりましたのよ!私たちで消しておりましたの」
嘘つけ!現行犯逮捕!
「待って、後ろの方は……」
わたしは後ろを振り向いた。
「誰を偽ろうとも、あなた自身は真実を知っているのです。自分を貶めるのはおやめなさい」
サラサラの白い髪に、大きな青い瞳。
リースベット・カロラ・ヴァルストレーム。
この国の王女様だ。
「彼がフェリクス・リンディだ」
エルネストの隣に、黒い瞳の青髪の青年が立っている。
もちろんイケメン。
というか、美人?
「私にどんな御用でしょうか、聖女様」
聞かれたサクラが、私の方を見る。
「友人のドロシーです。フェリクス様は預言士としてだけではなく、優柔な魔術師でもあると伺いました。サクラ様の今後の戦いために、ご尽力いただけましたらと、お呼びしましたの」
わたしは久々に緊張していた。
預言士フェリクス・リンディ。
攻略キャラの一人であり、全ての黒幕、ラスボス。
幼少期からその才能を見いだされ、預言士として王宮に仕えていた。
4年前、魔王の復活と聖女の降臨を預言したのは彼だ。
だが、彼は、自分の預言のせいで荒れゆく国を見て、敬愛するエルネストが国府での影響力を失ったのを見て、神を呪うようになる。
「ドロシー・アクヤーク公爵令嬢。エルネスト様の婚約者だからと、君のわがままに誰もが従うと思わぬことだ」
もちろん、ドロシーのこともよく思っていない。
「最近は、エルネスト様をしょっちゅう呼び出しているようだな。このご時世だ。自重するように。……失礼する」
それだけ言うと、去って行ってしまった。
失敗だ。
「誤解があるようだ。後で正しておこう」
エルネストがわたしたちに紅茶をすすめる。
「ドロシーは、あいつが怪しいと睨んでるんだな」
え、どうしてそうなるの?
聖女パワー?
「なんとなく」
いつもながら鋭すぎる。
「フェリクスが?あれは真面目な男だ」
「真面目だからこそ、この状況に、心折れてしまうこともあると思いますの」
エルネストは少し考えて、部下を下がらせる。
「こちらでも魔物化のことは調べている」
あの宝石は、ゲームでラスボスが使う武器に似ている気がする。
「フェリクスは範囲外だったが、留意しよう」
私たちがフェリクスに会った次の日から、魔物の出現が激化した。
サクラと、エルネストにヨエル、それに亘。
ゲーム通りのパーティが、その対処にあたった。
わたしにできることは、学園で彼らの帰りを待つのみだ。
食堂で、いつものように食事を取ろうとしたわたしに、ふいに声がかかる。
「ドロシー様ぁ~こちらですわ~」
前のドロシーが引き連れていた学友たちだった。
最近はずっとサクラといるので、すっかり存在を忘れていた。
「ここのところ、お話しできなくて寂しかったですわぁ」
「そうですわ。聖女様にドロシー様を取られてしまったようで~」
侯爵家のおこぼれを狙って、皆が嫌厭していたドロシーにくっついていた、まあ、そういう方々だ。
「聖女様とお二人だけでは何かとご不便ではございません?最近は見目麗しい男子生徒もご一緒のようですけど」
もしかして、亘のこと?
「私たちも聖女様にご紹介していただけないかしら」
「それはいい考えだわ、みんなで仲良くいたしましょう」
魔物退治の功績で、サクラはもう、偽物聖女とは見られていない。
「申し訳ありませんが、サクラ様は人見知りですので」
キッパリ断ると、足早に去っていった。
前世を思い出して結構経つが、学園でのドロシーの評価は変わっていない。
目立ちたがりの傲慢令嬢が、聖女様について回っている。
そんな評価。
一人で学食を食べていると、
バシャっ
頭から紅茶をかけられた。
「あっすみません!」
遠くから、クスクスと笑うのが聞こえた。
わざと?
それから、わたしはちょくちょく嫌がらせを受けるようになる。
移動教室で取り残されたり、テキストを隠されたり。
地味で、実害が低いことばかりなんだけど……。
あ、今、目の前で、机に落書きされてます。
犯人は元取り巻きの学友たちです、先生。
心にずっしりくるなー、こういうの。
いじめ、ダメ絶対。
「おやめなさい」
わたしの背後から、凛とした声が響いた。
「げ、ドロシー様……!」
「失礼しました……じゃない、聞いてください!ドロシー様の机に落書きをしたものがおりましたのよ!私たちで消しておりましたの」
嘘つけ!現行犯逮捕!
「待って、後ろの方は……」
わたしは後ろを振り向いた。
「誰を偽ろうとも、あなた自身は真実を知っているのです。自分を貶めるのはおやめなさい」
サラサラの白い髪に、大きな青い瞳。
リースベット・カロラ・ヴァルストレーム。
この国の王女様だ。
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