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第三章 サクラへのプレゼント

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 寮の自室、応接間。
「エルネスト様、ご相談があります」
 いつものように花を届けにきたエルネストに、わたしが切り出した。

「サクラ様の、ご友人……彼を解放していただけないでしょうか」
 わたしの隣に座っていた、サクラも驚いた顔をする。
「今ではエルネスト様も、人質で聖女様に救国を強いることは、得策ではないとお考えでしょう?」
 むう、と声を上げて、エルネストは考えこんだ。
「確かに、人質で脅されてる状態には、正直ムカついてまーす」
 サクラは嫌味を含みつつも、姿勢を正し、真剣な顔で言った。
「あいつは無害な男だし、私が面倒みるし、解放しても問題ないと思いますけど」

 囚われているサクラの友人。
 攻略キャラの一人、伊瀬亘(いせわたる)。
 サクラは、無害な男だから問題ないと言うが……実は、害はあるし、問題もある男なのだ。特にエルネストにとって。

「わかった。王に進言しよう」


 数日後、エルネストの計らいで、サクラの友人が解放された。
「ユウジぃ!やっと出られたよ~」
 緑色がかかった癖の強い黒髪に、茶色い瞳。
 魔法学園の男子用制服を着せられた、人懐こそうな少年。
 サクラの監視下に置くため、元は物置の、この埃っぽい寮の一室を与えられたようだ。
 硬いベッドに腰掛けながら文句を垂れる。

「ていうか、ひどくない?おれ、首に爆弾つけられてんだけど」
 軽快に喋るこの男が、攻略対象キャラの一人、伊瀬亘だ。
「つーか、お前そのかっこ、似合いすぎwww」
 サクラの格好を見て笑う。

「……で、そっちの、めっっちゃ、キレ~~なおねいさんはどなた?」
 わ、わたしのこと?
 チャラいな~。

「サクラ様の学友で、ドロシーと申します。」
「モデル?モデルすか?俺身長175あるんだけど、変わらないすよね」
 そうだったのか。
 サクラが小さいんじゃなくて、わたしがデカかったのか。
 周りの面々も西洋人体系だし、エルネストもでかいし、で、全く気づかなかった。

「おれともぜひ、仲良くしてくださいっ」
 腰を低くして握手を求めてくる。
「サクラ様とは女性同士、仲良くさせていただいておりますので……」
 わたしは亘との間に、『わたしは聖女様の正体を知らない』『あなたと仲良くする気はない』と言う一線を引いた。
「……」
 勘の良いサクラは何かを感じ取ったようだ。

 ゲーム『憂国聖女』の伊瀬亘。
 いせ わたる。
 いせかい わたる。

 亘は元々、こちらの世界の人間なのだ。
 暗殺を請け負ってきた一族の末裔。
 その力を恐れた現王に、一族は滅ぼされてしまう。
 処刑を免れた幼い亘は、母と共に、異世界へ追放されてしまったのだ。
 異世界での苦労の末、母は倒れ……。
 亘は、現王に、ヴァルストレーム家に復讐を誓うのだ。
 設定が重い、重すぎるよ~~!

 復讐の機会を狙っていた亘は、聖女召喚の儀を利用して、こちらの世界に戻ってくるのだ。近くにいた友人である、ヒロインを巻き込んで。
 召喚された時にヒロインが魔法を一切使えないのは、本来選ばれるはずの少女ではなかったからなのだ。
(サクラ、そもそも男の子だし)
 目の前の伊瀬亘も、現段階では危険人物である可能性が非常に高い。
 仲間に引き込むまでは、警戒するのが吉だ。
 特にわたしは、
 サクラにとっての弱点になる。
 慎重に物事を進めなくては…………

 !?
 サクラが亘にアイアンクローをかましている。
「がごぐぐっぐぐぐぐうっぐぐう」
 なんかバチバチ出てるのは拘束魔法だろうか。

「さ、サクラ様?!」
 なんで、こうなってるの?
 サクラは、亘に冷たい目を向けると、
「魔力を感じる。お前、何者だ?」
「ユウジぃ、ちょ、やめ、痛いぃ」
 亘は涙目だ。
 サクラはわたしが距離を置いたのを見て、亘を警戒したのだろう。
 勘が良すぎるのも困りものだ。
 もう、段取りめちゃくちゃ。

「召喚された時に、目覚めたみたいカナーって、あたたたた」
 バチバチバチ。
「あた、すみませぇん、バチバチするの、やめてもらえません?」
 バチバチバチバチ。
「元々持っていた、あたっ、才能が、あたったたたた」
 バチバチバチバチバチバチバチバチ。

「おれは元々この世界の人間です!すみません、バチバチやめてえええええ」

 サクラが拘束を解く。
 四つん這いになって肩で息をする亘。
(あー、もうバレちゃった)
 さて、ここからどう展開するだろうか。
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