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第二章 ドロシーの婚約者

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 今度はエルネストと二人。
 ローテーブルを挟んで、向かい合って座る。

「今日はすまなかった」
 ドロシーを見捨てようとしたこと、ね。
「いいえ、王子として適切な判断だったのだと、思います」
 今までのドロシーからは絶対に出てこない言葉に、エルネストが小さく驚く。

 わたしもエルネストと変わらない。
 わたしは彼のことを、ただの『キャラクター』としか考えていなかった。
 考えていなかったから、彼が死ぬバッドエンドルートを、なんの感情もなく選ぼうとした。

 彼も人間だ。
 人間だから、エルネストだって傷つく。
 腹心の部下に裏切られたのだから。

「今一番傷ついてらっしゃるのはエルネスト殿下です。責めることはできません」
「私が、傷つく?」
 エルネストが嘲笑した。
 彼は今までも、何度も、暗殺や裏切りを経験してきたのだろう。
 何度もあったことに、いちいち傷ついていられない、という強がりに見えた。

「人は、予測したことなら、どんなに辛い現実でも耐えられましょう。ですが、予測しない相手の裏切りには、誰しもが傷ついてしまうものなのです」

 ヤルマルは最期に、エルネストの家名を呟いて死んだ。
 それが、何を意味するのかはわからない。

「…………」
 エルネストが真剣な顔つきになった。
「君は本当に変わったんだな」
 自嘲気味に笑うと、
「変えた相手が、自分でないことを悔しいと思う日が来るとは」
 ???

「信頼のおけぬ相手の前で本心は出さない、と言ったのを覚えているか?」
 伯爵が魔物化する前に、サクラに言った言葉だ。
「僕は君のわがままに対して、いつもめんどくさそうな顔をしていたと思う」

 僕?
 ゲームでも見たことない一人称だ。
 それはそうか。
 彼は彼で、ゲームのエルネストとは違う。
 わたしが知らない一面があって当然だろう。

「君がバカだから、侮っているだけだと思っていたが。僕は君のことを、昔から信頼していたのかもしれない」
 それは気のせいだと思います。

「……国も伯爵も、聖女を従えるために、人質という手段をとった」
 エルネストがわたしに近づく。
「真心で聖女の信頼を得たのは君だけだ」
 そっと手をとり、
「本当に国を救うのは君のような人なのかもしれない」
 わたしを立たせて、

「これからは、時間がある限り会いに来ることにする」
 頬に優しくキスされた。

 い、
 イケメンに、キスされたっ!!!

 部屋を出ていくエルネストを見送りながら、
 自分に全力でツッコんだ。

(わたしがフラグ立てどうすんじゃい)
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