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第二章 ドロシーの婚約者

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 王都・魔法学園。
 寮に帰って来た、わたしとサクラ。
 わたしの部屋に二人きり、ローテーブルを挟んで、向かい合って座っている。
 エルネストは報告書をまとめに行った。

 人が死んだ。目の前で。

 多分ヤルマルは、自分が信じる、何か、のために、自ら命を断ったのだ。
 『前世』を思い出してからわたしは、ここでの出来事をゲームの中の物語だと錯覚していた。
 目の前で人が死ぬのを見て、ようやく気づく。
 ここは現実だ。
 この世界で、誰もが人生を送っているのだ。必死で。

 サクラの顔も暗い。
 帰りの道中、サクラも、エルネストも、誰も何も喋らなかった。

 サクラは短く息を吐き、
「どんだデートだったな」
 そう言って、笑顔を作った。

 おそらく日本人であろうサクラ。
 彼も、人が自ら死ぬ瞬間を見るのは、初めてだっただろう。
(強い子だな)
「ああいう自己中ヤローには、ハゲる呪いをかけるしかないな。……聖女パワーで本当に効いたりして」
 エルネストの話?
 わたしは想像して、吹き出してしまった。

「ドロシーはどんなデートがしたい?例えば俺が相手だとして」
 わたしを元気付けようとしてくれているのだ。
「……女装姿で想像するなよ」

 デートね、デート……。
 今まで考えたこともなかった。
 えーと……。

「ここだと、王都城下町かしら」
「お忍びデートだな」
「あなたは本当の姿で、わたくしも庶民の格好をして?」
 楽しそう。

「露天で買い物したり。買い食いしたり。アイス……は、こっちにはないか」
「少し足を伸ばして、ピクニックもいいですわね」
「ドロシー、料理できるの?」
 自炊できる程度の腕前ですが……
「が、頑張りますわ」

「海水浴もいいなあ」
「海は危険が多いので、あまりお勧めは致しませんわ」
 害獣とか、海賊とか。スラムも近い。
 そっか、とサクラは納得すると、真剣な顔になった。

「俺さ、剣、きちんと習おうと思うんだ。今日は、危険な目に合わせたから……」
「お誘いしたのはわたくしです。それに、サクラ様がいなかったら、わたくしはもう、ここにおりません」
「今回は運が良かっただけだよ」
 それは、そうかもしれない。
「あいつの言うことも一理あるんだ。俺は今まで危機感が足りなかった」
 サクラはすくっと立ち上がり、
「大人にならないと」
 拳を握る。

「大切な友達を守るために、色々考えて動かないとな」
「サクラ様……」

 サクラは聖女として、戦いから逃れられない。
 わたしに出来ることはなんだろう。
 あまりにも少ない。

「君は本当にドロシーのことが好きなんだな」
 いつの間にか、ドアの前にエルネストが立っていた。
「好、き……?」
 サクラの顔が驚いた顔のまま、真っ赤に染まる。
 そうだったら嬉しい。
 わたしもサクラのことを、今では親友だと思っている。

「ドロシーと二人で話したい。そう睨むな。危害を加えたりしない」
 サクラはエルネストのことを睨みつけながら、考えて、
「わかった、今日は帰る。……大人になるって決めたからな」
 わたしに小さく手を振って、部屋を出て行った。

 残ったエルネストの顔を見る。
 エルネストの話とはなんだろうか。
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