無能と追放された大賢者様は少女と共に悠々自適な旅をする。

Coco@

文字の大きさ
上 下
12 / 22

12.戦争の行方

しおりを挟む
1時間が経つ頃。
王国軍の使者がやってきた。
皇帝陛下の前まで通すとその場で跪く。

「申し上げます。
我がヒューゼル王国は奴隷制度の撤廃に賛同致します。
ただ、すぐに全てをとなると貴族の反感を買い内戦になりかねませんので徐々にとさせて頂きたいのです。
まずは王都から。
その後ゆっくりと国内全土へと広げるつもりです。」

使者が言った。
その声には強ばりを感じる。

「そうか、では我らは退こう。
しかし、もしそなたの言った事が嘘だった場合王国に雷が降り注ぐと思え。」

ルーギスがそう言うと使者は逃げるようにその場を去って行った。

「良かったですね。戦争にならず。」

俺が言うとルーギスが頷く。
しかし、その時の声には覇気が感じられなかった。
何かあったのだろうか?

─────────────

─30分前─
〈アリス視点〉

「陛下伏せて!」

私が叫ぶ。
ルーギスさんがしゃがんだ瞬間に私がルーギスさんの前に立ち塞がって短剣で毒針を弾く。
ガキンと音と共に針が地面に突き刺さった。
その瞬間に帝国の兵士達が周りを囲む。

「皆さん、時間稼ぎをお願いします!私は皇帝陛下を連れて1度離れます!」

私がそう叫んでルーギスさんの手を掴む。

「こちらに!」

「うむ、頼んだ!!」

私がルーギスさんを引いて逃げようとした時、目の前に黒ずくめのローブの男が現れた。

「俺は『ファントム』のユーグス。
ルーギス皇帝陛下、お初にお目にかかる。」

男はそう言ってお辞儀をする。

「先程の攻撃、申し訳ない。
だが、依頼の相手がどんな人間か気になったものでな。」

男はそう言って私の方を向いた。

「アリス。情報通りだ。
暗殺者としての実力も高い。
だが、慢心してはいけない。
お前はまだまだ弱い。
あの男に守られる立場に過ぎぬ。
強くなれ。
そうすれば道は開かれる。
そうお前に伝えるのが俺の仕事だ。
仕事は果たした。
お暇させて貰う。」

男はそう言うとまばたきをするわずかに眼を閉じる時間の間に消えた。
敵か味方かはわからない。
が、今は危害を加えるつもりは無いようだ。

「今のは・・・」

ルーギスさんが呟く。
ルーギスさんも動揺している様だった。
こんなときは私がしっかりしないとだよね。

「皆さん、周辺の警戒をお願いします!」

私が叫ぶと皆が頷いて周辺警護と陣の護衛を始める。

「アリス、あれをどう思う。」

「話している時、敵意を感じませんでした。
最初の攻撃も陛下からわずかに外れてました。
私が防がなくても陛下に当たりはしませんでした。
だから、敵意は無いのだと思います。
ですが、相手が誰だかもどの陣営かもわかりませんから、細心の注意をするべきです。」

私が言った。
今の私は陛下を護るのが仕事だ。
それが、オズから与えられた私の居場所だ。

「そうだね。だが、この事はオズに黙っていてくれないかい?」

ルーギスさんが言った。
オズに?
どうしてだろう?

「恐らくだが、オズに名前を言えばある程度陣営がわかると思う。
が、それと同時にオズはその陣営に対し敵対の態勢をとるだろう。
何時でも冷静で、完璧なオズだと思われている事も多いが本当のオズは仲間思いで仲間の為なら人でも平気で殺す様な人だ。
彼に知られれば・・・
後は言わなくともわかるだろう?」

ルーギスさんが真面目な顔で言った。
それは、私の知らないオズの話だった。
確かに、オズは優しくて旅の間も私の事を優先してくれた。
きっと、オズ1人ならもっと上手くやれていたであろう局面もあった。
それでもオズは私を優先してくれていた。
それを思えばオズが仲間思いなのも良くわかる。

「それに、オズも僕たちに秘密があるみたいだからね。」

ルーギスさんが言った。

「秘密?」

「あぁ、女の子が1人。たまにオズと密会していると言う噂を聞く。
帝国にオズが来て5日だがその間に数度目撃されているんだよ。
それが誰なのかはわからないけれどね。」

ルーギスさんが言った。
私もたまにオズと別行動をする。
多分その時なのだろう。
もしかして、今の別行動もそうなのかな。

「ま、お互い詮索は無しとした方が良い。
その方が良い友人関係を築けると言うものだ。」

ルーギスさんがそう言って微笑む。
私とルーギスさん2人だけの秘密だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...