無能と追放された大賢者様は少女と共に悠々自適な旅をする。

Coco@

文字の大きさ
上 下
7 / 22

7.帝都アルヴァ

しおりを挟む
俺達は国境からまっすぐにアルヴァへ向かった。
途中これと言ったハプニングも無く安全そのものだった。

「広いね。私は帝都初めてなんだ。
アリーシャって街出身だからね。」

アリスが言った。
アリーシャか。
確か王国とは反対方向のはずだ。
随分と遠いところから来たんだな。

「俺も久し振りに来たよ。前来た時は皇帝陛下もまだまだ小さくてね。
もう20年も前になるか。」

俺が言った。

「オズは来たことあるんだ。」

「まぁ、旅人だからね。」

アリスが言った。
アリスとしては観光もしたいのだろう。

「さて、まずは城に向かうよ。」

俺がそう言ってアリスと共に城へと向かう。
城門には黒い鎧を身に纏った兵士が2人、門を警備していた。

「私はオズと言う者だが、皇帝陛下はいらっしゃるかな?」

俺が言った。
確かこの2人は俺が20年前に来た時も門番をしていたはずだ。

「これはこれはオズ様。
お久し振りで御座いますな。
あなた様でしたら自由に出入りしても問題は無いでしょう。
皇帝陛下へはこちらから連絡しておきますのでどうぞ、お通り下さい。」

門番がそう言って微笑む。
覚えていてくれたと言うのは嬉しいものだな。

「オズって顔パスで城に入れる程凄い人だったんだ。」

「まぁ、旅をしながら色んな人と友達になるからね。
この城にも知り合いがいるだけさ。」

俺がそう言ってアリスの手をひいて謁見の間へと向かう。
黒い石レンガの壁に黒い大理石の床で赤い絨毯がしかれた内装でやはり城はどこも石レンガの壁と大理石の床なんだなと思う。
20年前と変わらない景色を懐かしく感じながら奥へ進むとゆっくりと謁見の間の扉が開かれる。

「お久し振りで御座います。ルーギス皇帝陛下。」

「貴方はオズ様っ!?
お久し振りです!」

そう言って立ち上がって俺を迎えたのは黒い衣装に赤いマントを羽織った金髪碧眼の青年だ。
彼こそがアーヴァス帝国皇帝のルーギスだ。
まだまだ若く26歳だったはずだ。

「少し見ない内に随分とご立派になられた様子で。」

「そう言うオズ様はお変わり無いですね。
20年前のままだ。」

「まぁ、たった20年では変わらないでしょう。
私は数百年前からこの姿ですから。」

俺がそう言って微笑むとルーギスが玉座に座る。

「して、そちらのお嬢さんは?」

「王国で出会って共に旅をしている仲間です。
帝国出身でして。」

俺が言うとルーギスが嬉しそうに微笑んだ。

「アリスと申します。アリーシャの街出身です。」

「おぉ、あそこか。
あそこは優秀なクラスタル所持者が護っていた街でな。
彼らこそ死んでしまったが彼らのお陰で戦争に勝てたと父様も喜んでいたよ。」

ルーギスが言った。
恐らくアリスの両親だろう。

「そうですか。
皇帝陛下にお喜び頂けたのでしたら両親も本望だと思います。」

アリスが言った。
その言葉にルーギスが少し驚く。

「君は・・・確かに似ている。
君の母親はセナだね?良く見れば似ているよ。
その艶やかな髪や目付きなんかそっくりだ。
口元は父親のエイガスに似ているね。
そうか、君が。
2人から娘がいるのは聞いていたよ。」

ルーギスが言った。

「アリスとは王国のスラム街で出会ったんだ。
戦争で両親を亡くしてスラム街で暮らすしか手段がないと聞いてね。」

俺が言うと途端にルーギスの顔が曇る。

「そうか。王国に。
大変だったろう。
だが、オズ様と共に旅するのなら安心だろうね。」

「はい。オズはとても優しいです。」

「さすがは王国の大賢者様だね。」

ルーギスが言うとアリスが驚いた表情で俺を見た。

「そう言えば言ってなかったか?」

俺が言うとルーギスが呆れた顔をする。
あれ、でもぽろっと言った気もするが・・・
まぁ、ほんとに話の最中にぽろっと言っただけだった気もするし聞いてなくても仕方ないか。

「オズ様はいつも大切な事を後回しにしますね。」

「昔からの癖でね。
つい忘れてしまうんだ。
それに、今は王国の大賢者様じゃないしね。」

俺が言うとルーギスが更に驚く。

「何かあったのですか?」

「王国には無能だと言われていわれのない罪で国外追放にされてね。
だから今はただの旅人さ。
そう言えばそれを君に伝えに来たんだった。
ルーギス、今王国に大賢者は居ないよ。
例え何処かの国に攻められても助けにも来ないだろうさ。」

俺が言った。
その言葉にルーギスが嬉しそうに俺を見た。

「そうか!これで奴隷制度の撤廃の為に動ける!」

ルーギスは優しい人間だからな。
本当に奴隷制度を何とかしたいと考えているのだ。
なら、俺も力を貸すか。

「それでは、俺から皇帝陛下にプレゼントを。」

俺がそう言って真っ黒いクラスタルをルーギスに渡した。

「これは・・・見たことの無いクラスタルだね、
流通していないものかい?」

察しが良くて助かるな。

「それは『皇帝』のクラスタルだ。
今のところ、世界にその1つだけだよ。
だからこそ、約束して欲しい。
間違えた使い方はしないと。
そして、誰にも渡さないと。
そのクラスタルは強力すぎる。
複製なんてされたら世界がまた混乱に陥る。
俺は今まで強力なクラスタルの複製は破壊してきた。
オリジナルも出来るだけ回収してきた。
そうしないと世界がまた戦乱の世に変わるからだ。
そして、そのクラスタルは1つで世界を戦乱の世に変えるほどの力を持つ。
だからこそ、信頼できる君に預けるんだ。」

俺がそう言って微笑む。

「ありがとうございます。
間違った使い方は決してしないと皇帝ルーギスの名に於いて誓いましょう。
この力で奴隷制度撤廃に尽力するつもりです。」

ルーギスが言った。
ルーギスなら間違えないだろう。
これで俺の目的は果たされた。
が、計画的に出てきたとは言えいわれのない罪位は弁明しておきたい。
もう少しだけ帝国に力を貸すとしようか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...