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第6話:パンケーキ──選んでるよん──

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 シャーラプールの町に戻ってきた僕たちは、早速ご飯を食べることにした。
 適当に町の人に声をかけ、おすすめのレストランを教えてもらい、そこへ行く。
 レストランは噴水のある綺麗な広場の脇に店を構えていた。

 どんな異世界料理が食べれるんだろう!

 ワクワクしながら入店した僕だったが、出された料理を見て、意気消沈した。
 カチコチの硬いパン。
 米の研ぎ汁のような味しかしないスープ。
 何の味付けもしていない、ただ洗って切っただけのニンジン。
 なぜに生のニンジンをカリコリ食べているのだろう?
 僕は馬かっ!
 無性に、ふわふわのパンケーキが食べたくなった。
 転生前の世界のパンケーキが恋しい。
 フジパン食品が異世界転移してきてくれないだろうか?

「さっき聞いたおすすめのお店じゃなくて、間違った所に来ちゃったのかな?」

 僕がそう呟くと、魔王は首を傾げ、不思議そうな顔をした。

「間違っておらんと思うぞ?」

 僕はニンジンを口に投げ入れ、米の研ぎ汁スープで胃の中に流し込み、苦い顔をしてフォークを皿の上に置いた。

「もしかして、この食事がこの世界では普通なの?」

 僕がそう言うと、魔王は僕の質問の真意が分かったようだ。

「ああ、口に合わぬか。まぁ、そうじゃな。この店の料理が不味い訳ではない」

 魔王の言葉に、僕は周りを見渡した。
 店員が聞くと気分を害する会話かもしれない。
 僕たちのことを気にする人がいないことを確認し、僕は会話を続けた。

「じゃあ、この世界の食べ物は、みんなこんなのなんだ」

「そうじゃな。この世界はおぬしが元いた世界と比べると、食文化は発展途上じゃ。腹さえ膨れればいいという考えの者しかおらん」

 メシマズ系の異世界だったか。
 僕が料理得意なら、ここでこの世界の食文化を発展させようなんてことを高らかに宣言してみせるところだけど、残念ながら僕に料理の知識はない。

「なあ魔王。転生前の世界に行って、甘い物でも食べに行かない?」

 僕がそう言うと、魔王はフォークをテーブルに置いて言った。

「行きたいのは山々じゃが、それはできん」

「えっ、何で?」

「ワシは今、勇者に呪われておる。ブラックホールを精製する魔法は、魔力消費が高いのじゃ。今それだけの高度な魔法はワシには使えん」

「そうなのか……」

 残念だ。
 もし元の世界に戻れるなら、パンケーキを食べる他に、料理のレシピを持参してこの世界の料理に革命をもたらすことができたのに。

 気を落とした僕に、魔王は言った。

「残念がることはないぞ。おぬしの元いた世界に行ける方法は2つある」

 僕は目を輝かした。

「どんな方法なの!?」

 魔王は米研ぎ汁を飲んで布で口周りを拭き、一息ついて言った。

「まず1つ目は、ワシらが勇者を倒すことじゃ。そうすれば呪いが解けて、高度な魔法が使えるようになる。そうするためには皆がこの小説をブックマークしてワシのHPを増えるよう──」

 僕は魔王の言葉を遮った。

「もう1つの方法は!?」

 1つ目の方法は全部聞かなくても分かる。
 うん。無理だ。
 あまり魔王に好き勝手言わせてこの小説の評判を下げる訳にはいかない。

「返しが、早すぎんか?」

 魔王は今のセリフを全部言いたかったのだろう。
 セリフを遮ぎられてブツブツ文句を言っている。
 
「もう1つの方法は何?」

 もう一度聞くと、観念したのか魔王はブツブツ文句を言うことを止めた。
 この魔王、案外押しに弱い。

「もう1つの方法は、おぬしがブラックホールの魔法を使えるようになることじゃ」

 予想しない答えだった。

「えっ、僕、魔法使えるの!?」

 魔王が頷く。

「妖精族のおぬしは、むしろ魔法が得意なはずじゃ」

 そうだったんだ!
 言われてみたら、さっきの戦場で現れた数値に、僕にもMPがあった!

「僕、魔法使ってみたい」

 そう言うと魔王は、ニカッと歯を出して笑った。

「じゃあ、練習してみるか?」

「うん、やってみる!」

「よし、それじゃあ早速、さっきの森に戻って魔法の練習じゃ!」

「うん、すぐ行こう!」

 はやる気持ちを抑え、食べた食器を洗い場に持っていく。
 この世界では、客が食器を洗うのが基本なんだそうだ。
 この世界でサービスを求めてはいけないらしい。
 もちろん、出前のようなデリバリーサービスなど皆無だろう。
 僕は食器を洗いながら、隣で食器を洗っている魔王に質問した。

「なあ、魔王。魔王ってさっき森でウーバー頼もうとしてたよね?」

「ああ。結局ペイペイの残高がなくて頼めなかったがな」

「あれって、どうやって頼もうとしたの?」

「どうって? 普通にスマホのアプリで頼もうとしたが?」

「いや、そうじゃなくて。今の魔王って、ブラックホールが精製できなくて異世界転移できないんでしょ? どうやってウーバーの人をこっちの世界に呼ぼうとしたの?」

「別にブラックホールを精製できなくても、こちらに呼ぶ方法はあるぞ」

「えっ、どうやって!?」

 僕は食器を洗う手を止めて、魔王を見た。
魔王も食器を洗う手を止めている。

「なんじゃ、テュエよ。おぬし、バックトゥザフューチャー見ておらんのか?」

 唐突に訳の分からないことを言われて、怪訝な眼差しで魔王を見る。

「ハァ? 今それ関係ある?」

 僕の眼差しをスルーして、魔王は言った。

「あの物語りで言っておるじゃろう。時速88マイル以上で走行している時に、1.21ジゴワットの電流を当てると、時空を越えられると。つまり、自転車に乗って140キロ以上で爆走してるウーバーの人に、雷の魔法を食らわせてやる──」

 僕はすかさず突っ込んだ。

「ウーバーの人、死ぬわ!」

 しかもそれウーバーの人、元の世界に帰れなくなるよね?
 本気なのか冗談なのか、たまに魔王は怖いことを言う。
 僕は突っ込みを続けた。

「ってかそれ、タイムスリップ条件だよね? 異世界転移の条件じゃないよね?」

「タイムスリップも異世界転移も、原理はだいたい一緒じゃぞ」

「時空を越えるという点では一緒ってこと?」

「そうじゃ。だから野比家の子供机から異世界転移することも可能じゃ」

 唐突に何言い出すんだ、このアニメ好き魔王は。
 老若男女誰もが愛する国民的アニメをネタにするんじゃない!

「やめろ。日本中敵に回す気か!」

 やめろと告げたが、魔王はやめない。

「他に時空を越えることができる条件といえば、岐阜県飛騨地方の山奥の村に隕石が落ちた後、突如とある男女が入れ替わった──」

 僕は魔王の言葉を遮った。
 好きな作品だから全部は語らせない。

「僕の名前はテュエです……って何言わせんだ!」

「あとは、嫉妬の魔女に取り憑かれて死に戻りした時とか」

 おいおい。
 メインヒロインのはずなのに肩身の狭いエミリアファンの僕にそれを突っ込ませるのか?
 
「それ、死んで戻るんでしょ! 時空越える前に過去に戻っちゃうじゃん!」

「あとは、トラックに轢かれて死んだ時とか……」

「それはさすがにベタすぎるよー」

 トラックに轢かれて異世界転生とか、どれだけやり尽くされた展開なんだよ!
 
 そう思った所で、僕はあることに気付いた。

 僕、それじゃん!
 えっ、何だろう……。
 ありきたり過ぎて、なんか、今さら転生理由が凄い恥ずかしいんだけど。
 
「そういえば、テュエよ。おぬしはどういう経緯でこの世界に転生したんじゃ?」

 やめろよ!
 聞いてくるなよ!

「りゅ、竜宮城から帰ったら、この世界に来てたんだ……」

 僕はこの世界で、初めて嘘をついたのだった。



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