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第5話:剣と鎧の神隠し
しおりを挟む戦場は、町が一望できる丘の上だった。
僕たちがそこに着くと、武装したシャーラプールの住民が、口々に雄叫びを上げて、今にも戦闘が開始される様子だった。
「今度こそ勝つぞー!」
「俺たちの顔の表情を返せー!」
「殺っちまえー!」
武装した集団に、魔王が叫ぶ。
「お前たち! ワシの許しも得ずに勝手に殺し合うなんぞ、許さんぞ!」
魔王、頼むから煽らないでくれ。
僕たち全く関係ないのに、攻撃の対象にされちゃ敵わない。
「なあ、魔王。ここにいたら僕たち危ないんじゃないか?」
魔王は、武装した集団を睨みながら答えた。
「ふん。こんな奴らのいくさ、他愛もない!」
魔王がそう言った直後、魔王の頭の上に文字と数字か浮かび上がってきた。
僕の頭上にも文字と数字が浮かび上がっている。
「えっ、何これ!?」
どういう原理で頭上に文字と数字が浮かんでいるのか分からないが、魔王の頭上には、HP2、MP9999と記されている。
僕の頭上には、HP96、MP214と記されていた。
「なんか、HPとMPが浮き上がってきたんですけど!?」
「なんと! やはりおぬしは転生者じゃな! そのようなものが見えるとは!」
どうやら魔王には見えないらしい。
「ってか、MP9999って……。あんた本当に魔王だったんだ!」
自分のMPと比べて、魔王が桁外れなMPだということが分かる。
魔王は鼻で一笑し、ドヤ顔で言った。
「まあな。この世で魔力が一番高いから、魔王なのじゃ」
「だけど、HP2って、その瀕死のような数値は……」
そう聞くと、ドヤ顔だった魔王が渋い顔になる。
「勇者の呪いじゃ。ワシのHPは、この小説のブックマークの数と同じになる呪いがかかっておる。まあ、おのずと増えていくから問題ない」
ブックマーク少なっ!
……って、そうじゃなくて。
「そんな設定いいの!?」
「おのずと増えていくから問題ない!」
大事なことだから2回言ったな、この人。
「でも、そんなに少ないと勇者に復讐なんてできないんじゃ……」
いや、むしろブックマークが少なすぎて、この小説の作者のやる気が無くなって完結できない可能性も……。
「それ以上は言っちゃいけない!」
魔王に考えを抑止された。
まあ、僕が考えることじゃなかった。
魔王が勇者に復讐できなくても、僕には関係のない話だ。
「そんなことより今は……」
いつになく低い声で魔王は言う。
「こいつたちの始末が先じゃ……」
始末って……。
えっ、殺すってこと!?
ヤバい。この桁外れな魔王のMPが何を指しているのか、ゲーム好きの僕には分かる!
ここら一帯、とんでもないことになってしまう!
「始末って、ヤメロ魔王!」
僕の言葉を無視し、魔王は大きく深呼吸をした。
「風の呼吸……壱の型」
「その技名も色々怒られそうだからヤメロ!」
魔王は腰を落とし、拳に力を込めている。
「俺のこの手が光って唸る……お前を倒せと輝き叫ぶ!」
「分かんねえ、その元ネタ何か分かんねえ!」
そして魔王は、日本で一番有名であろう必殺技のポーズを取った。
「かぁ……めぇ……はぁ……めぇ……」
「それダメぇ! 小説掲載できなくなる!」
「はあぁぁ!」
僕の言葉は魔王には届かず、魔王が必殺技を放つと辺り一面、白い光に包まれた。
何も見えなくなり、僕の鼓動は早くなった。
なんでだよ!
なんでなんだよ、魔王!
確かに、戦争をする人間は悪い!
だけど、何でみんな殺しちゃうんだよ!
なんで他の方法を考えないんだよ!
これじゃあ、戦争より酷いじゃないか!
しばらく経つと、目が慣れてきて視界が開けてきた。
魔王を止められなかった自責の念にかられ俯いていると、周囲からザワザワ声が聞こえ、僕は周囲を見渡した。
「なんだこれーっ!?」
「俺の剣がゴボウになってるぞー!?」
「俺の盾が白菜に変わってやがる!」
武装していた兵士たちの鎧は解け、アンダーシャツにタイツといった出で立ちに変化している。
そして、兵士たちの周囲には野菜が散乱していた。
「えっ……どうなったんだ、これ……」
そう呟くと、隣にいた魔王が言った。
「金属を野菜に変える魔法を使ってやったわい。これでもう戦争はできんじゃろう」
金属を野菜に変えただって!?
確かにそれならもう、戦争なんてできない。
これは凄い。この魔王、ただのオジサンじゃなかった!
「なんて平和な魔法……」
僕はそう呟いて、羨望の眼差しで魔王を見つめた。
ふと、頭上に浮かぶ数値に目をやる。
すると、9999あった魔王のMPが199に変化していることに気付いた。
「えっ、魔王のMP199になってる! 僕より少なくなってるじゃん!」
魔王が苦い顔をして答える。
「勇者に消費魔力100倍になる呪いをかけられておるからな」
じゃあ、魔王はMP9999あっても、大して強くないのでは……。
実質MP100も無いってことだよね?
「呪いばっかだな……。どんな勇者だよ……」
そう言って悪態をついた僕だけど、内心ホッとしていた。
人を簡単に殺すような魔王じゃなくて良かった。
この戦場が殺戮の場にならなくて良かった。
無事に町に帰れるようになって良かった。
あと心配事は、魔王の技の名前を何とかすることぐらいかな。
この小説がBANされないように、魔王を説得する必要があると、心に誓った僕だった。
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