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魔法大会

第三八話:魔法大会のルール

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 α世界の日本は、民衆に曜日の習慣はない。

 β世界で日月火水木金土の七曜の習慣が根付いたのは、明治初頭にグレゴリオ暦を導入した為だ。
 明治以前は、先勝、友引、先負、仏滅、大安、赤口の六曜が用いられていたが、それも江戸時代に入ってから用いられるようになった為、江戸時代、明治時代を経過しないα世界は、戦国時代からの概念を引き継ぎ、現在も民衆に曜日の習慣は存在しないのだ。

 しかし、七曜が確かに存在していることが窺えることがある。
 それは、魔法の授業だ。
 火系統の魔法の次の日の授業は、水系統。その次の日は、植物系、次の日は金属系、次に土魔法、次に光魔法、次に闇魔法と続き、闇魔法の翌日はまた火系統の授業に戻る。
 これはβ世界の七曜と連動している。
 光魔法の授業の日はβ世界は日曜、闇魔法の授業の日はβ世界は月曜、火魔法の授業の日は火曜、水魔法は水曜、植物魔法は木曜、金属魔法は金曜、土魔法は土曜といった具合だ。
 
 なぜ曜日に連動させて魔法の授業を行うのか女教師に聞いてみたが、α世界の日本では曜日を習慣がない為、よく分からないという答えだった。 

 しかし、火の魔法の授業の日は、火の魔法だけがいつもより少ない魔力で魔法を使うことができるということを、女教師は言っていた。

 つまりは、火曜日は火の魔法をいつもより多く使えるということだ。
 これはこの魔法学園の教師が独自に研究して得た知識であり、一般的に知られていない。
 後にこの知識が、幾度の戦いで勝利に導くことになる。



「今日は闇魔法の授業だったから、明日は火魔法か……嫌だなぁ……」

 肩を落としてそう言うアイに、励ましの言葉の代わりに背中をポンと叩いてやる。

「まだ火魔法のコツは掴めそうにないか?」

「うん。コツなんて、とびっきり分かんない」

 魔法学園に入学して、五ヶ月が経ったが、未だにアイは火魔法を使うことができずにいる。

 編入翌日にβ世界に行き、セーラー服を数着購入したアイは、学園で毎日セーラー服を着ている為目立つ存在となっているが、それだけに火魔法を使えない奴という噂がすぐに広がり、それを面白がって悪口を言う者もいた。

「火魔法は一番簡単だけどな。本当に手から屁をこくイメージだぞ」

 親父が得意そうに言う。
 今や親父の火魔法は、教師より優っているが、その娘が火魔法を使えないというのは、格好のネタなのかもしれない。

「私、おならなんてしないもん」

 ふて腐れた顔でそう返すアイ。

 お前は昭和のアイドルか。

「まあ、そうは言っても俺も闇魔法が今いち分からんがな」

 親父はそう言って、今日の授業を振り返る。

 闇魔法は相手の状態異常などを誘う魔法だ。
 俺が魔法玉で使えるようになった魔力吸収の魔法も、闇魔法に分類される。

「私も闇魔法分かんない」

 アイが親父に同意する。
 闇魔法に関しては、使える者が少ない。
 その為、闇魔法が使えなくてもあまり悪く言う者はいない。
 まぁ、俺は魔法玉のお蔭で闇魔法を使えるが……。
 闇魔法の授業自体、早々と切り上げられ、月曜はいつも午前中で授業が終わる。
 今日の午後は休みだ。

 家族三人で校舎の廊下を駄弁りながら歩いていると、前からサクヤ様がやって来るのが見えた。

「みんな、魔法大会の概要が開示されたわよ」

 そう言ったサクヤ様が指差した先の職員室の前に、人だかりができている。 
 魔法大会の概要が貼られているようだ。

「おっ、ついに魔法大会が始まるのか」

 親父はそう言って、人だかりを押し退けていく。 
 俺とアイは、でかい図体の親父の後ろに張り付いて人混みの中へ入って行った。

「えーと、何々……」

【明日より三日間、近年川沿いで大量発生している一反木綿を退治し、亡骸の木綿を一番多く納めた組が予選優勝とする】

 魔法大会の概要は、予想外のルールだった。
 魔法大会というからには、魔法をドンパチ打ち合うバトルを繰り広げるのかと思っていたからだ。
 まさか、魔物退治の数を競う内容だとは思わなかった。

「期間、明日からかよ。えらく急だな」

 そう言った親父に、職員室から出てきた女教師が言う。

「急な日程にしないと、前々から魔物の死骸を用意する不正を働く者が出てくるからね」

「なるほどな……」

 親父が納得して頷く。 

「昼御飯食べたら、参組のみんなは教室に集まってね。作戦会議するから」

 女教師はそう言って、職員室へと入って行った。

「よーし、なんか面白そうだな!」

 親父はそう言って、手をパンッと叩いた。

「初めて魔物見ることになるね。楽しみ」

 アイがそう言って笑う。
 魔物を楽しみだなんて、度胸のある妹である。
 かくいう俺も楽しみだ。
 魔法の訓練ばかりで飽きてきたところだった。
 みんなやる気十分だ。

「サクヤ様が待ってるし、昼飯食いに行こうぜ!」

 俺がそう言うと、親父とアイが元気よく返事した。


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