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魔法大会

第二三話:紫式部とサクヤ

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 石山寺東大門をくぐり、拝観料を払って道なりに歩いて行くと、手水舎があり、その横に、くぐり岩と呼ばれる岩がある。

 親父が、拝観料を払った時にもらった案内資料を見ながら言う。

「願い事をしながら、このくぐり岩を通り抜けると、願いが叶うらしいぞ」

 いち早く反応するアイ。

「えっ、とびっきりパワースポットじゃん!」

 そう言って、でかいリュックをその場に置き、親父と共にくぐり岩へ勇んで行く。

 そんなバカ親娘に、俺は溜め息を吐いた。

「あのなぁ、神様ならここにいるだろ」

 親父は進みながら反論する。

「神様がいるなら、如意輪観音様もいるだろ」

 いや、そうかもしれないけど……。
 サクヤ様がいる所で、観音様に願い事するとか、失礼だろ。

 サクヤ様を見ると、目が合ってしまい、俺は苦笑いをした。

 サクヤ様は俺たちの会話には気にせず、辺りを見回して言った。

「不思議ね。私はここに来たことはないし、歴代のコノハナノサクヤビメの記憶を辿っても、ここに来るのは初めてなのに、以前来たことがある気がするわ」

「デジャヴってことですか?」

「そうね。ウカノミタマ様が言ってたの。私は、紫式部の4回目の生まれ変わりだって」

「紫式部の!?」

 突然、有名な歴史人物の名が出てきて驚愕する。
 そこへ、くぐり岩を通って来たアイが会話に割って入った。

「つまり、サクヤ様は前前前前世が紫式部ってこと?」

 急に痛めた胸に手を当てた。

「お前、その言い方わざとだろ!」

 拳を振りかざし、アイの頭にゲンコツを落とそうとしたが、ヒョイッとかわされる。

 でかいリュックを背負い直しながら、アイは言った。

「ねぇねぇ、じゃあさ、このお寺のどこかに紫式部の銅像があるらしいから、サクヤ様と似てるか見比べてみようよ!」

 それはちょっと面白そうだ。
 ここ、石山寺は紫式部ゆかりの地として、銅像が建てられている。

「えっ、でも、そこの階段を登って行けば、珪灰石の所まで行けるわよ?」

 そう言うサクヤ様は、少し照れているように見える。
 銅像と自分を見比べられるのが恥ずかしいのだろうか。

 アイは、サクヤ様の背中を押しながら、言った。

「いいじゃんいいじゃん、急がば回れだよ、サクヤ様!」

 いいぞ、アイ、もっとやれ。
 全っ然、ここで使うことわざじゃないけどな!

「もー! 分かったわよ!」

 アイに背中を押し続けられたサクヤ様は観念したようで、俺たち一行は紫式部像を見に行くことになった。



「えっ、とびっきり似てない……」

 紫式部像を見た、アイの率直な感想だ。
 俺も同じ感想……いや、ここにいる全員が同じ感想だろう。

 紫式部像をまじまじと見て、アイが言う。

「なんでこんなに目が細いの?」

 バカ!
 銅像の見た目の話を掘り下げるな!
 サクヤ様がショック受けてるだろうが!

 誰も何も言わないので、仕方なく俺が答える。

「ほら、何か書いてるだろ。だからだよ」

「でも、普通何か書いてる時って、目開けるよね?」

「あれだ、あれ。なんかこう……ミクロな物……そう、ミクロな物書いてたんだよ」

「こんなに太い筆で?」

「そのー……うん。ツリ目ね。そうそう。ツリ目なのは、ツリ目がモテモテの時代だったんだよ」

「モテるの? この目が? 決闘中の侍みたいな目してるよ?」

「うるせーな! 知らねーよ、そんなこと!」

 いつまでも銅像のツリ目でウダウダ言うアイに、キレてしまった。
 サクヤ様を見ると、恥ずかしさで死にそうなくらい顔を真っ赤にしている。

「輪郭もちょっと、太り過ぎっていうか……」

 まだ銅像にケチをつけ続けるアイの手を引き、俺は言った。

「サクヤ様、行きますよ! こんな所で時間潰すのは勿体無いです」

 サクヤ様は気を取り直して、「えっ、ええ、そうね」と、歩き出した。

 ここで、親父がトドメの呟きを放つ。

「俺は、銅像も美人だと思ったがな……」

 気を取り直したサクヤ様の顔が、真っ赤に返り咲いたのだった。



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