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異なる歴史の二つの世界

第十八話:いざ、新宿へ

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 新宿までの道中、俺には様々な試練が待ち受けていた。
 禁忌の刑による異世界送りということが、実はサクヤ様の優しさだったのだと推察する。
 あっちの本流世界には、著作物は見られなかったから、何も考えなければ禁忌は発動しなかった。
 しかし、この世界の街には、著作物が溢れかえっている。
 この田舎の富士宮の街でさえ、歩いていると禁忌の刑が発動しっぱなしだ。
 あの情報量の多い東京を歩くなんて、考えただけでも恐ろしい。
 しかし、新宿に行かないと禁忌は解除されない……。
 これが、最後の山場。
 そう思うより他なかった。



 神社の境内でしか神通力を使えないサクヤ様を再度背負い、俺は富士宮の駅を目指した。
 途中、マツモトキヨ……黄色い看板の薬局で、サクヤ様の足に塗る薬と、包帯、サンダルを購入する。
 包帯をし、サンダルを履いて、サクヤ様はなんとか歩けるようになった。

 ヤキソバを食べてから電車に乗る。

 電車から見える景色を眺めたいところだが、いつ著作物を目の当たりにしてしまうか分からない為、あまり外を眺めないようにする。

 富士宮駅から身延線で富士駅まで行き、東海道本線に乗り換える。
 眠気に誘われ、ウトウトしていると、気が付けば電車は沼津駅を出たところだった。
 まだまだ東京まで遠い。

 特にすることがないため、車内の広告を避けるように、車内を見回した。
 すると、ある親子に目が止まった。
 半袖で筋肉質の、ガタイのいいオヤジに、高校生くらいの、背の低いポニーテールの女の子。

 俺は驚愕し、身を縮めた。

「どうしたの?」

 そう聞くサクヤ様に、冷や汗をかきながら答える。

「な、何でもありません」

 目に止まったオヤジと女の子。
 ……俺の親父と妹だ。

 二人は、異常と言ってもいいくらいに仲が良い。
 格闘家の親父に、妹は16という歳にもかかわらず高校にも行かず、親父に格闘技の弟子入りをしている。
 そして、休日はいつも二人で外出をしている。

 こんな所に、なんであの二人が……。
 そう疑問に思ったが、答えは車内を見ればすぐに分かった。

 沼津駅を出たところから、車内には妙に同じアニメのグッズを持った若者が多い。

 妹は、ラブライバーと呼ばれるアニメファンだった。
 きっと、興味のない親父を引き連れて聖地巡礼をしていたに違いない。
 こんな所で出くわすなんて最悪だ。
 女神とはいえ、女性と一緒にいるところをあの二人に見られたら、絶対に面倒臭いことになる。

 俺は、激痛の走る胸を抑えながら言った。

「サクヤ様、次の三島駅で新幹線に乗り換えましょう!」

「えっ、何? 別にいいけど……」

「じゃあ、決まりです!」

 電車はすぐ三島駅に着き、俺はサクヤ様と電車を降りた。

 しかしその時、親父と妹が同じように電車を降りたところを目撃し、俺はサクヤ様の手を引っ張って、急いで電車の中に戻った。

「ちょ、ちょっと、何なのよ!」

 ……ふぅ、間一髪。
 奴等も新幹線に乗るつもりだったか。
 今のは危なかった……。

 元の席に戻るとドアが閉まり、電車は走り出した。

「実はですね、サクヤ様……」

 弁解をしようとした時、急に横から声をかけられた。

「何コソコソしてるのかな?」

 声の方を見上げると、そこにはあれほど見つけられたくなかった妹がいた。

 そして妹は、満面の笑顔だった……。



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