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第9話 追求
たたかう鬼
しおりを挟むグレンとスミレに魔力を注ぎ終えた後、二人は高熱を出し寝込んだ。イルザとエルザも二人ほどではないが、若干の熱っぽさがある。
何より驚いたのが、魔力を注いだ本人であるヴェンデがその場で倒れたことである。どうやら、他者に魔力を注ぐ必要があるこの鍛錬はかなりの量の魔力を消費するらしい。それを四人分も行ったので倒れる気はしていた。と、アウラは困ったような笑みをみせて言う。
イラエフの森が夜を迎える頃にヴェンデは目覚めた。イルザとエルザに話があるということで、夕食を終えたテーブルにグレンとスミレを抜いた五人が並ぶ。
「面倒かけちまったなぁ、嬢ちゃんら四人の魔力保有量が予想以上で驚いたわ」
ハッハッハと大笑いしながらオグリの実をかじる。魔力の激しい消耗は命の危機にも繋がる。ヴェンデの回復の早さと今の元気があれば問題は無いだろう。
「それで、話って何かしら?」
早速本題に入ろうと話を切り出すイルザ。
「なぁに、せっかく出会った縁だ。|神界器(デュ・レザムス)についての情報のすり合わせをちょいとしておきたいと思ってな。嬢ちゃんらはどこまで知ってる?」
「そうね、あなたに比べたら知っていることは砂粒のようなものだけれど。|神界器(デュ・レザムス)の装備、譲渡、成長、遺跡、さっき聞いた|神蝕(しんしょく)くらいかしら。あとは"|妖精の輝剣(アロンダイト)"に宿る|妖精神(フィーディア)というのに会ったわ」
「ほぉ、神に会ったのか。それでなんと言われたよ?」
泡沫の夢のような出来事だったので、はっきりと思い出せない。唯一覚えている言葉は。
「|神界器(デュ・レザムス)を多く手にせよ・・・。最後にそう言っていたわ」
それを聞いてしばらく黙り込むヴェンデ。
「・・・もしかして、ヴェンデ達も|神界器(デュ・レザムス)の神に会ったの?」
「ああ、コルテと出会う前に一度な。同じことを言いやがった、全くいい迷惑だぜ」
「ボクはヴェンデに出会えたからむしろラッキーっスよ~」
ヴェンデの不機嫌をあっという間に打ち消すアウラの笑顔。照れ隠しなのか、アウラの頭をくしゃくしゃにする。
「うわぁ、せっかく整えたのにボサボサじゃないっスか~。あ、そういえばボク達が知らないことあったっスね。遺跡ってなんのことっスか?」
見事なまでにくしゃくしゃになった髪を手櫛で直しながらヴェンデのアゴ髭を引っ張る仕返しをするアウラ。
賑やかなのはいい事だが真面目な話の途中なのでどうかと思うが気にしないことにした。
話すよりもブランの研究所から持ち帰った資料を直接見せた方が早いと思ったイルザは、ヴェンデ達の前に資料を広げる。
「これが私たちの知っていることの全てよ。遺跡は鍛錬が終わり次第、向かおうと考えているわ」
「ほぅ・・・。こいつはどこで?」
「青い髪の子いたでしょ? スミレの元主の研究所にあった資料よ」
「その顔を見る限りあまりいい思い出はなさそうだな。まったくもって・・・研究者つーのはどいつもこいつも・・・」
「そんなに顔に出ていたかしら?」
イルザ自身はいつも通りの表情でいたつもりだが、感情が顔に出ていたらしい。ヴェンデの言う通り、いい思い出ではないので仕方ないのではあるが表情を悟られてしまうのは些か不快である。
「・・・姉さんは昔から素直だからすぐ顔に出る」
一番付き合いの長い妹に言われてしまってはぐうの音も出ない。どうやら性格上、表情を隠すのは根気がいりそうだ。
「素直、いい事、可愛い」
「なッ・・・!」
無表情で無機質な声でコルテはぼそりと呟いた。恐らくグレンの二つぐらい年下の少女に褒められる(?)とムズ痒い。
「こいつも嬢ちゃんとこのスミレと似たような境遇だったんだよ。今はマシになったが、俺が拾った時はそりゃ酷く心が壊れてた。」
「そりゃもう当時は見るに堪えない姿だったっスから。感情が少しでてきた分、根暗なところがムカつくっスけど」
アウラはコルテの額を人差し指で軽くつついた。嫌味を言っているが嫌悪感は感じない。なんだかんだ言いつつ、アウラはコルテが嫌いではないのだろうと感じた。
「アウラ、素直じゃない、可愛くない」
「うるさいっスよ! ボクに向かって可愛くないとほざくとは、喧嘩売ってると捉えていいっスね」
「あーあー騒ぐなガキ共、話が逸れちまったじゃねぇか」
と、ヴェンデのデコピンが喧嘩を始めかける二人を止めた。
「その様子だとまるで父親みたいね」
三人のやり取りを見てクスクスと笑う。闘いの鬼とは思えない面倒見のよさはちょっぴり意外だった。
「まぁある意味では保護者だな。んで、本題に戻るがサッと目を通したところ、遺跡とやらは俺達は行ったことがない。情報としては重要な場所だろう。それと、"|躍進する者(エボブラー)"に関しては昼間言った通り、俺の鍛錬で身につけさせるから気にするな」
「鍛錬についてはお願いするわ。遺跡の方はさっきも言った通り鍛錬が終わり次第、向かおうと思っているの。貴方達はどうするの?」
イルザの問いかけから数秒沈黙。ヴェンデ達にとって新しい情報だったので、彼の中で優先順位を決めているのだろう。
「俺達は遺跡の探索は後回しにする。先にカタをつけなきゃならねぇことがあるからな」
「確か追っているとか言っていたわよね?」
「ああ、そういうことだ。とっとと終わらして、楽しい楽しい謎解きワールドの探索を再開してぇぜ」
楽しいかは置いておいて、ヴェンデの言う通りこの世界は謎が多い気がする。そもそもイルザ自身、イラエフの森から外に出たことがないので魔界については全く知らないと言ってもいい。
得られる情報は時たま森に迷い込む大荷物を背負った魔族を森の外へ案内して、その荷物とエルザが作る魔法石と物々交換で得られるものに限られる。何故か書物関係は|幻想物(ファンタジー)ばかりなのは不思議ではあるが。
「確かにこの魔界は謎だらけよね・・・。人間界から人間を召喚するだなんて思いもしなかったもの」
「ん? 嬢ちゃん今、魔界っつったか?」
何かおかしな事を言っただろうか? 突然の質問によく分からないまま頷く。
「なんか勘違いしてるみてぇだが、この世界に魔界とか人間界とかの区別はねぇぜ?」
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