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第9話 追求
悪癖
しおりを挟む「は?」
どういう流れでそうなるのかさっぱり分からなかった。俺と一戦交えないか? 、は? 何を言っているのだこのおっさんは。
「ちょっと待って、意味が分らないのだけれど」
「意味も何もそのままの意味だ。俺と、戦わないか? ってぇお誘いかけてんだ」
「だから、なんで私があなたと戦わないといけないわけ?」
「ああ? んなもん、俺が戦いたいからに決まってんだろ?」
頭が痛くなる。自分の勝手な都合、もとい欲望に巻き込まれる身にもなって欲しい。
「あー、イルザさん申し訳ないっスがヴェンデに付き合って貰えないっスかね~。このオッサン、強い人見ると誰これ構わず決闘を申し込むんスよ~」
「悪癖、迷惑」
やれやれと言わんばかりの態度を見せるアウラとコルテ。この二人もヴェンデの悪癖に迷惑しているのだろうと察する。
「ま、嬢ちゃん程度の力じゃあ俺は倒せねぇだろうけどよ」
ハッハッハと高笑いするヴェンデ。
ならどうして戦いを申し込むのか、余計に訳が分からない。それに、明確に力の差があるのは事実だとしても馬鹿にされるのは癪に障る。
「いいわよ、その挑発に乗ってあげようじゃない」
「そう来なくっちゃあなぁ? ま、安心しろ、ハンデはたっぷりつけてやる」
やっぱりイルザはヴェンデのことが少し苦手と感じた。
庭の中央で対峙するイルザとヴェンデ。イルザの右手には"|妖精の輝剣(アロンダイト)"が握られている。それに対してヴェンデは武器らしい武器はない。
「もしかしてハンデって素手で戦うことなのかしら?」
「ああ? まぁ素手といえば素手だがな。おい、少年。お前さん、俺の鎧が見たいつってたよなぁ?」
ヴェンデはグレンに振り向き、呼びかける。
「え? まぁ言ったけど」
貰った鶏肉を仕舞いに行っている間に突然始まった決闘。状況が飲み込めないまま、ヴェンデは再びイルザと向き合う。
「"|闘神の戦鎧(グラディウス)"」
静かに|神界器(デュ・レザムス)の名を告げると赤銅の輝きがヴェンデの全身に|迸(ほとばし)る。
激しい光が収まると同時に、ヴェンデの全身は赤銅色の騎士甲冑を身に纏っていた。だらしなく飄々としていたヴェンデの姿は大きめの体格もあり、息が詰まるほどの力強さを溢れ出していた。
グレンは感嘆の声を上げている。だが、真正面で圧倒的な力を目の当たりにしているイルザはそれどころではなかった。
(震えが止まらない・・・。怯えているというの?)
突然の正体不明の震えが襲ってくる。
こちらの様子を伺うような間を経て、ヴェンデが口を開く。
「決闘つっても模擬戦だ、殺しはしねぇ。だが、お前さんは俺を本気で殺しにこい。でなければ、ここにいるお前さんの家族を殺す」
「・・・ッ!」
その言葉はハッタリなどではない気迫を感じた。恐らく簡単にここにいる皆を殺してしまうだろう。
「おい、おっさん!」
グレンが一歩踏み出したところでアウラに腕を引っ張られて止められる。
「やめておくッスよ。勝負の邪魔をすると敵味方関係なく本気で殺るっスよ」
陽気なアウラが声色を変えて忠告する。その声は氷のように冷ややかだった。
「・・・ッ。わかったわ、だけど怪我をしても文句言わないでよね」
剣を構えて戦いの体勢に入る。引くことが出来ないのなら押し切るしかない。
「ああ、それでいい。来い」
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