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第5話 隷属の鍵(エスクラブ・オブ・キー)
神界器(デュ・レザムス) 後編
しおりを挟む「ふむ、“隷属の鍵”はちゃんと掛かっているようだね。戻ってきたときは効力が切れかかっていたから驚いたよ」
スミレの主、ブランはぶつぶつと独り言を呟く。
(“隷属の鍵”? 何を言っているの?)
「全く、心というものは御(ぎょ)しにくくて困る。私の能力も万能ではない証拠か」
独り言を続けるブラン。イルザやスミレの存在は完全に無視で、自分の世界に入り浸っている。
「あんた、スミレの心を操ってるのね」
イルザの指摘がブランの耳に届いた。独り言を中断したブランは檻の近くまで歩み寄り、目線をイルザに合わせた。
「ああそうだ。私の能力“隷属の鍵”で操らせてもらっている。そんな目で見ないでおくれ、勃(た)ってしまうだろ?」
息を荒げ興奮気味で語り掛ける。そんな男の姿に激しく嫌悪感を抱く。
(何なのよ気持ち悪い・・・)
「どうやら混乱しているようだね。手段とは言え、手荒な真似でここに連れてきた詫びとして、君にはこれまでの状況と私の目的を説明してあげよう」
混乱はしていないが、状況を聞けるのは不幸中の幸いだ。
「スミレを使って森まで誘導し、ガルムを仕向けたのはもちろんこの私だ。そして君はスミレに気絶させられ、一体のガルムに乗せられてここまで連れてこられた。君のお仲間は今頃、私が能力によって改造したガルムと戦っている頃だろう」
エルザがスミレを助けた時から、仕掛けられていた計画だということに気がついたイルザは静かに息を呑む。
「そして何故! 私が! 君を狙ったのか! 感づいているだろうが、君の持つ“妖精の輝剣”が欲しいのだよ。鷲の魔族を使ったが見事な失敗に驚いたよ。あの時は思わず絶頂を迎えてしまったね!」
「あんたも武器狩人ってわけね。残念だけど“妖精の輝剣”を奪っても必ず私の手に戻るから無駄よ」
狂ったように高笑いをするブランに言葉を返すイルザ。
それを聞いたブランは高笑いを止め真顔になるが、再び狂気ともいえる笑い声でイルザの言葉を否定した。
「ふはははははは! 私を低俗な武器狩人とやらで呼ばないでおくれ。虫唾が奔(はし)るだろ? それにしても君は何も知らないようだね」
指摘された通り、イルザはこの剣についてほとんど知っていることは無い。
「あんたは何を知っているというのよ!」
自分の無知に苛立ち、それをぶつけるようにブランに問いかける。
「よろしい、目的ついでに教えてあげよう」
ブランは立ち上がり、部屋の中を歩き回りながら説明を始めた。
「その武器は神が宿る武器、神界器(デュ・レザムス)と呼ばている。二万年前におきた千年戦争の際作り出された武器さ」
(千年戦争!? あれはおとぎ話のはず・・・)
「その戦いに勝利した魔族は魔王によって戦争で使われた神界器(デュ・レザムス)を魔界各地に封印したそうだ。もっとも、封印を解く条件や人間が召喚されるなど、不明な点は山積みだがね」
「魔王ですって? この魔界には魔王なんて存在しないわ」
統治するものがいない自由の象徴である魔界。魔王などという存在はおとぎ話の中だけの存在である。
「そうさ、今はいない」
彫りの深い顔に含みのある笑みを浮かべる。
「私は神界器(デュ・レザムス)を統べ、魔王となる!」
「バッカじゃないの? 武器を集めた程度で魔王なんてものになれるわけがないわ」
突拍子の無い幻想を聞かされ鼻で笑うイルザ。
「無知な君にはわかるまいよ」
静かに怒りの声を響かせる。その後、右手に魔力を込め乳白色の鍵を生成した。
「今から“隷属の鍵”を君に使う。そして、その隠す気のない神界器(デュ・レザムス)の紋章を切り落とす。なに、心は施錠(ロック)してあるから痛みは感じない、安心したまえ」
鍵をイルザの喉元へ近づける。抵抗することを許されない状態にあるイルザは、ただ目を瞑って無意味なことしかできなかった。
鍵の先端が喉元へ触れようとした瞬間。蒼白の光が鍵を弾き返した。
「・・・っ! 妖精の加護か!」
弾き飛ばされた鍵は空中で霧散した。
瞳を開き、目の前には屈辱感を露わにしたブランが歯を食いしばっていた。
「生かしてモルモットにしてやろうと思っていたが計画変更だ。能力が効かないとならば殺すまで」
ブランの左手には黄金の魔力が収縮されていく。やがて、黄金の魔力は見覚えのある弓を形取った。
「それはホルグの“極光の月弓”!?」
鷲の魔族、ホルグが使用していた弓と瓜二つ、しかしホルグの鈍く輝く黄金とは違い、新月を迎えた月のようにくっきりと黄金に輝いていた。
「奴に渡したのは贋作(レプリカ)さ。まぁ、知識のない鳥頭には本物と勘違いしていたようだがね。さぁ、さぁさぁ! 死んでもらおうか!」
黄金の弓を引く。桁違いの魔力量が矢となる。
ブランが弦を放そうと、息を止め、時間が止まる。
氷の世界の様に緊張感が時間を支配する。しかし、その世界は大きな地響きと共に打ち壊した。
「・・・“ボルティック・メテオ”!」
流星の如く、紫電が部屋の、建物全体を次々と貫いた。
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