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第5話 隷属の鍵(エスクラブ・オブ・キー)

青黒の足音

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 イラエフの森を北西に進み、ヴィアーヌ湖を抜けた頃。

 二体の血に飢えた魔獣が命令を待ちながら、魔族と人間の集団を追跡する。魔獣除けが張られていて、普通の魔獣なら追跡などすることは無いが、彼らの意思には全く関係なかった。

 ガルムと呼ばれる中型の狼犬型の魔獣。
 
 スミレを襲った同じ種であるが、見た目はおろか精神状態も変化している。岩をも噛み砕く牙と爪は健在、刃を通さないダイアモンド並みの硬さを持った毛並みには、青黒いオーラを纏っている。
 
 群れを成さないで単独行動をする気高い魔獣であるはずが、二体で行動をしている。ガルムが相対するとき、それは縄張り争いが始まることを意味する。

 しかし、争いをすることなくただ静観するのみ。

 ガルムたちの意思は既に乗っ取られている。首筋には“隷属の鍵エスクラブ・オブ・キー”による鍵穴の印が刻まれている。
 
 計画は刻々と開始の合図を待っている。





 「しっかし、この森かなり広いよな」
 
 歩くことに飽きたのか、グレンは手を頭の後ろに組みながらあくびをする。

 「そうね、でも広い分迷いやすいから、太陽の位置確認は常にしていないと危ないわ」
 
 懐中時計をマントから時々取り出しては、太陽に向ける作業を行い方角を確認する。

 「時計で方角なんてわかんのか?」
 
 勘で方角が分かると自負するグレンであったが、物事を慎重に捉えるイルザには却下された。確実な方法で方角を確認する。

 「こうやって時計の短針を太陽に向けて、針と十二の間が南になるのよ。こうすれば確実に分かるから勘になんて頼らなくてもいいの」
 
 皮肉たっぷりでグレンに言葉を返す。

 「・・・姉さんまたグレンにいじわるしてる」

 「ソウダソウダー! 意地悪スルナー!」
 
 「し、してないわよッ! ってなんであんたは棒読みなのよ!」

 緊張感の欠片もないイルザ一行。その中で一人、無言で歩く少女スミレ。

 (どうしてこんなに緊張感が抜けてるですか。これから起こることも知らないくせに・・・です)

 無意識に風船のように膨らんでいく罪悪感は苛立ちを募らせていた。

 この場で一番緊張しているのは自分だろう。これから行うことに、感情が爆発しそうになる。

 (誰か、誰かこの鼓動を止めてほしい・・・です)
 
 胸が痛くなる。

 しかし、もう計画は止められない、制御できない。

 どうにもできないことに体と心が張り裂けそうだった。

 イルザ一行の最後尾を歩くスミレ。

 誰にも見えない様に小粒の魔宝石を砕いた。

 先行していたグレンとエルザ、それに後ろから付いていくようにイルザ、スミレの順で歩く。

 (・・・ッ!? 何かの気配がする!?)

 「・・・どうしたのグレン?」

 緊張した表情に突然変わってしまったグレンに尋ねるエルザ。

 「・・・! イルザ! 敵だ!」

 グレンが叫んで一瞬のことであった。

 二体のガルムがグレンとエルザ、イルザとスミレの間を割るように襲い掛かる。

 「ガルム!? 魔獣除けをしていたら近づいてこないはずよ!?」

 普通なら起こりえない出来事に驚愕の声を上げるイルザ。しかし、素早く“妖精の輝剣アロンダイト”を手に取り戦闘態勢に移ろうとした。

 「ごめんなさい・・・です」

 黄金の光がイルザの首筋を打ち、そのまま倒れこんだ。

 すると、一体のガルムが気絶したイルザを咥え、背に乗せる。

 「・・・姉さん!」

 もう一体のガルムはエルザとグレンを通さないように足止めをする。

 グレンはガルム越しに見ていた。スミレが、倒したはずのホルグが使用していた弓、“極光の月弓アルテミス”を使ってイルザを気絶させていたところを。

 スミレはイルザを載せたガルムに素早くまたぎ合図を送る。二人を乗せたガルムは森の中へ消えていった。
 
 「イルザァァァァァ!」

 グレンの悲痛の叫びは届かなかった。

 「・・・グレン!」

 「・・・・・・ああ、わかってる」

 目の前に対峙する不気味なオーラを纏うガルム。

 「邪魔だぁぁぁ!」
 
 グレンは短剣型の“妖精の輝剣アロンダイト”をガルムへ投擲(とうてき)した。

 「・・・駄目よ! 物理攻撃は効かないわ!」

 エルザが叫んだ通り短剣は弾かれた。

 「くそッ!」

 「・・・私が! “ボルティック”」

 光属性の下位魔術を放つエルザ。しかし、そのオーラは不気味なオーラによって弾かれてしまった。

 「・・・そんな! 魔術も効かないなんて・・・」
 
 圧倒的な防御力を誇るガルムがグレンとエルザの前に立ちふさがる。

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