23 / 82
第5話 隷属の鍵(エスクラブ・オブ・キー)
ダークエルフ
しおりを挟む夜が更け、朝を迎えたイラエフの森。
森の中央に位置するヴィアーヌ湖から少し南にある、ダークエルフの姉妹の住む家では煙を上らせていた。
箱型に焼き上げたマイの実パンをスライスし、断面をカリカリになるまで焼き上げる。焼き上げたパンにはマーガの実で作ったバターを塗り、オグリの実のジャムをのせる。
小さなキッチンに所狭しと並べられた器には、庭で育てている香草のスープが入れられていた。
最後に、大皿の中に次々と葉物野菜を盛り付けて、酸味を聞かせたオグリの実ドレッシングで味をつける。
イルザ達の定番ともいえる、朝食が完成した。
「今日も見事にやさ・・・いや、旨そうな朝飯だ!」
動物から採れるたんぱく源を苦手とするエルフという種族。魔族であるダークエルフも例外ではなかった。
魔界に来てから肉を食べる機会を失った人間のグレンは、思わず野菜まみれのメニューに愚痴をこぼしそうになったが、聞こえるか聞こえないギリギリのところで言い直せた。
「お肉が食べたいなら・・・」
「あー! 言ってない言ってない! イルザの飯は最高だな~!」
と思っていたが、ばっちりとイルザの耳には届いていた。
「エルフとダークエルフってなにが違うです?」
青髪の少女は虚ろな瞳でイルザに疑問を投げた。
エプロンの紐を解いて戸棚にしまい、テーブルに着いて全員で食事を始める。
しばらく黙っていたイルザだったが、ようやく口を開いた。
「エルフとダークエルフの違いはね、人間か魔族どちらに近いかっていうことよ」
黙々と食事を続ける一同に、少しだけ重い空気がのしかかった。
「といっても、起源(ルーツ)を知ったのは父が残した書物で、だけどね」
ははは、と困ったような表情を見せるイルザ。
「エルフはグレンと同じ人間族です?」
「そうよ、エルフは人間界で暮らしていたらしいわ。そして、あるエルフ一族の一人が魔族と交わ
ってしまって、誕生したのがダークエルフってわけ」
「ってことはダークエルフって人間と魔族のハーフってことなのか?」
純粋な魔族だと勘違いしていたグレンは、思わず食事の手を止める。
「んー・・・。起源(ルーツ)はそうらしいけど、私たちがそうなのかはわからないわ。私たちの他にもダークエルフはいると思うし、純粋な魔族と言っていいのかも」
ようやく食事を始めたイルザ。
「・・・だけど、家族以外のダークエルフは見たことない」
沈黙を続けていたエルザがようやくそれを破った。ずっと黙っていた理由は言うまでもない。
一人素早く食事を終わらせた姿に再び驚いた表情を見せるスミレ。
首をかしげてスミレを見つめ返すエルザをみてグレンはため息を吐いた。
「食欲旺盛なのはいいことだけどよ、もう少しゆっくり食えねぇのか?」
「・・・私は普通に食べてるだけ」
「それで普通って・・・本気を出したらどうなるんだ」
「・・・見てみたい?」
「いや、恐ろしいからやめておこう」
悪戯っぽく微笑むエルザと、手で頭を抱えるグレンのやり取りは本当の兄妹のようで微笑ましかった。
食卓に流れていたほんの少しだけ重い空気は、軽くなった。
イルザが何故、話すことを少しためらったのか、それはダークエルフが誕生した後にあった。
魔族と交わってしまった人間族は、咎(とが)として神に親子諸共魔界へと追放されたのである。
弱肉強食で秩序の無い魔界で人間族が生き残るのは簡単ではなかったが、子供を守るために生残った。
しかし、神は子であるダークエルフを人間族と認めず、魔族として生きることを強いた。
種を増やしたダークエルフの一族は、魔界へ追放した神への報復として神界へ攻撃し、神を殺した。
おとぎ話である書物だったが、そういう話の類の半分は真実で構成されている。恐らく、人間族として認めず、魔族として生きることを強いた部分までは、本当のことだろうと推測していたイルザ。
一族の起源(ルーツ)が悲しいものだと感じていたイルザはこの話は好まなかったのである。
「みんな食べ終わったわね?」
気持ちを入れ替えて全員に話しかける。
「準備が整い次第、救出に向かうわよ!」
「ああ!」
「・・・ええ」
「はいです」
イルザ達はスミレの仲間を奴隷商人から救うため、各々準備をするべく、部屋に戻る。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる