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第4話 奴隷の少女
スミレ
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「・・・・・・」
「目が覚めたみたいね。大丈夫? 痛い所とか気持ち悪い所はない?」
目覚めた青髪の少女。その顔を心配するように覗き込むイルザ。
「いいえ、・・・大丈夫・・・です」
「よかったわ! お腹空いてるだろうから、食べやすいもの何か持ってくるわね」
「お構いなく・・・です」
イルザは嬉しそうに部屋を飛び出していく。
次々と浴びせるようにかけられた言葉に疲労感を覚えた少女は、大きく空気を吸って、息を吐いた。
「・・・っ!」
頭痛がする。この頭痛はいつもの“アレ”であった。
(目覚めたか)
頭に直接声が響く。主(あるじ)様からのテレパシーである。
(はいです。予定通りです。)
(ああ、それなら問題ない。手筈(てはず)通り事を進めろ)
(了解しました・・・です)
テレパシーが途切れた。それと同時に頭痛も治まる。
「・・・大丈夫?」
エルザは頭を辛そうに抑えている少女を見て声をかけた。その手には少女の服があり、綺麗に修繕されてあった。
「問題ない・・・です」
「・・・そう。これ、直しておいたから」
汚れも落としてある巫女装束を少女に手渡す。
「ありがとう・・・です」
左肩の部分にはデフォルメされた熊のワッペンが縫い付けられていた。怪訝そうに少女はしばらく見つめていた。
「・・・ああ、大きな穴が開いていたから縫い付けたの。 ・・・嫌だったら同じ色の布を当てるけど」
「いえ、このままで大丈夫・・・です」
少女は何か違和感を感じた。ただのワッペン、それだけなのに。だがその違和感は決して不快なものではなかった。
「できたわよ~、ってエルザもいたのね」
お盆の上に湯気が立っている皿を乗せて、部屋に入ってきた。甘く、いい匂いが部屋いっぱいに広がる。
「お腹がびっくりしない様に、オグリの実を使ったお粥を作ったの。口に会えばいいけれど」
「・・・オグリ粥!」
「あんたのじゃないから、その手を放しなさい!」
光の速さでお盆を掴んでいたエルザ。両手がふさがっているので、お尻で押し返す。
大きいお尻で押し返されたエルザは軽く仰け反り、お盆から手を離した。
「・・・残念」
「はぁ・・・。焼きオグリ作ってあるから食べてきていいわよ」
「・・・やった! 姉さん愛しているわ」
「もう・・・単純なんだから」
素早く部屋を出たエルザに呆れてため息を吐く。そこがまた可愛いのだが。
「ごめんね、どう? 食べられそう?」
「はいです。いただきますです」
お盆を少女の膝に置き、スプーンを手に取る。
マイ草の種を水で炊いて、ミグムの実からミルクのような果汁で粥を作り、駒切にしたオグリの実を散らばせたオグリ粥。
湯気からはナモンの実の粉末の香ばしい匂いが立ち、食欲をかき立てる。
気がつけば、少女は口に運んでいた。
「おいしい・・・です」
「よかった! 全部食べてもいいからね」
次々と口へと運ぶ。不思議と体の重みがなくなっていく気がした。
「私はイルザ。イルザ・アルザス。お名前、聞いてもいいかしら?」
食べるのに夢中になっていた少女に自己紹介をし、名前を尋ねる。
手を止めて少女は口に入っているものを呑み込んで名を告げる。
「私の名前は・・・スミレ・オーバンです。スミレとお呼びください・・・です」
スミレと名乗る少女は冷たく淡々とした氷のような声で、イルザの瞳を見つめる。
「目が覚めたみたいね。大丈夫? 痛い所とか気持ち悪い所はない?」
目覚めた青髪の少女。その顔を心配するように覗き込むイルザ。
「いいえ、・・・大丈夫・・・です」
「よかったわ! お腹空いてるだろうから、食べやすいもの何か持ってくるわね」
「お構いなく・・・です」
イルザは嬉しそうに部屋を飛び出していく。
次々と浴びせるようにかけられた言葉に疲労感を覚えた少女は、大きく空気を吸って、息を吐いた。
「・・・っ!」
頭痛がする。この頭痛はいつもの“アレ”であった。
(目覚めたか)
頭に直接声が響く。主(あるじ)様からのテレパシーである。
(はいです。予定通りです。)
(ああ、それなら問題ない。手筈(てはず)通り事を進めろ)
(了解しました・・・です)
テレパシーが途切れた。それと同時に頭痛も治まる。
「・・・大丈夫?」
エルザは頭を辛そうに抑えている少女を見て声をかけた。その手には少女の服があり、綺麗に修繕されてあった。
「問題ない・・・です」
「・・・そう。これ、直しておいたから」
汚れも落としてある巫女装束を少女に手渡す。
「ありがとう・・・です」
左肩の部分にはデフォルメされた熊のワッペンが縫い付けられていた。怪訝そうに少女はしばらく見つめていた。
「・・・ああ、大きな穴が開いていたから縫い付けたの。 ・・・嫌だったら同じ色の布を当てるけど」
「いえ、このままで大丈夫・・・です」
少女は何か違和感を感じた。ただのワッペン、それだけなのに。だがその違和感は決して不快なものではなかった。
「できたわよ~、ってエルザもいたのね」
お盆の上に湯気が立っている皿を乗せて、部屋に入ってきた。甘く、いい匂いが部屋いっぱいに広がる。
「お腹がびっくりしない様に、オグリの実を使ったお粥を作ったの。口に会えばいいけれど」
「・・・オグリ粥!」
「あんたのじゃないから、その手を放しなさい!」
光の速さでお盆を掴んでいたエルザ。両手がふさがっているので、お尻で押し返す。
大きいお尻で押し返されたエルザは軽く仰け反り、お盆から手を離した。
「・・・残念」
「はぁ・・・。焼きオグリ作ってあるから食べてきていいわよ」
「・・・やった! 姉さん愛しているわ」
「もう・・・単純なんだから」
素早く部屋を出たエルザに呆れてため息を吐く。そこがまた可愛いのだが。
「ごめんね、どう? 食べられそう?」
「はいです。いただきますです」
お盆を少女の膝に置き、スプーンを手に取る。
マイ草の種を水で炊いて、ミグムの実からミルクのような果汁で粥を作り、駒切にしたオグリの実を散らばせたオグリ粥。
湯気からはナモンの実の粉末の香ばしい匂いが立ち、食欲をかき立てる。
気がつけば、少女は口に運んでいた。
「おいしい・・・です」
「よかった! 全部食べてもいいからね」
次々と口へと運ぶ。不思議と体の重みがなくなっていく気がした。
「私はイルザ。イルザ・アルザス。お名前、聞いてもいいかしら?」
食べるのに夢中になっていた少女に自己紹介をし、名前を尋ねる。
手を止めて少女は口に入っているものを呑み込んで名を告げる。
「私の名前は・・・スミレ・オーバンです。スミレとお呼びください・・・です」
スミレと名乗る少女は冷たく淡々とした氷のような声で、イルザの瞳を見つめる。
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