上 下
19 / 82
第4話 奴隷の少女

スミレ

しおりを挟む
 「・・・・・・」

 「目が覚めたみたいね。大丈夫? 痛い所とか気持ち悪い所はない?」

 目覚めた青髪の少女。その顔を心配するように覗き込むイルザ。

 「いいえ、・・・大丈夫・・・です」

 「よかったわ! お腹空いてるだろうから、食べやすいもの何か持ってくるわね」

 「お構いなく・・・です」

 イルザは嬉しそうに部屋を飛び出していく。

 次々と浴びせるようにかけられた言葉に疲労感を覚えた少女は、大きく空気を吸って、息を吐いた。

 「・・・っ!」

 頭痛がする。この頭痛はいつもの“アレ”であった。

 (目覚めたか)

 頭に直接声が響く。主(あるじ)様からのテレパシーである。

 (はいです。予定通りです。)

 (ああ、それなら問題ない。手筈(てはず)通り事を進めろ)

 (了解しました・・・です)

 テレパシーが途切れた。それと同時に頭痛も治まる。

 「・・・大丈夫?」

 エルザは頭を辛そうに抑えている少女を見て声をかけた。その手には少女の服があり、綺麗に修繕されてあった。

 「問題ない・・・です」

 「・・・そう。これ、直しておいたから」

 汚れも落としてある巫女装束を少女に手渡す。

 「ありがとう・・・です」

 左肩の部分にはデフォルメされた熊のワッペンが縫い付けられていた。怪訝そうに少女はしばらく見つめていた。

 「・・・ああ、大きな穴が開いていたから縫い付けたの。 ・・・嫌だったら同じ色の布を当てるけど」

 「いえ、このままで大丈夫・・・です」

 少女は何か違和感を感じた。ただのワッペン、それだけなのに。だがその違和感は決して不快なものではなかった。

 「できたわよ~、ってエルザもいたのね」

 お盆の上に湯気が立っている皿を乗せて、部屋に入ってきた。甘く、いい匂いが部屋いっぱいに広がる。

 「お腹がびっくりしない様に、オグリの実を使ったお粥を作ったの。口に会えばいいけれど」

 「・・・オグリ粥!」

 「あんたのじゃないから、その手を放しなさい!」

 光の速さでお盆を掴んでいたエルザ。両手がふさがっているので、お尻で押し返す。

 大きいお尻で押し返されたエルザは軽く仰け反り、お盆から手を離した。

 「・・・残念」

 「はぁ・・・。焼きオグリ作ってあるから食べてきていいわよ」

 「・・・やった! 姉さん愛しているわ」

 「もう・・・単純なんだから」

 素早く部屋を出たエルザに呆れてため息を吐く。そこがまた可愛いのだが。

 「ごめんね、どう? 食べられそう?」

 「はいです。いただきますです」

 お盆を少女の膝に置き、スプーンを手に取る。

 マイ草の種を水で炊いて、ミグムの実からミルクのような果汁で粥を作り、駒切にしたオグリの実を散らばせたオグリ粥。

 湯気からはナモンの実の粉末の香ばしい匂いが立ち、食欲をかき立てる。

 気がつけば、少女は口に運んでいた。

 「おいしい・・・です」

 「よかった! 全部食べてもいいからね」

 次々と口へと運ぶ。不思議と体の重みがなくなっていく気がした。

 「私はイルザ。イルザ・アルザス。お名前、聞いてもいいかしら?」

 食べるのに夢中になっていた少女に自己紹介をし、名前を尋ねる。

 手を止めて少女は口に入っているものを呑み込んで名を告げる。

 「私の名前は・・・スミレ・オーバンです。スミレとお呼びください・・・です」

 スミレと名乗る少女は冷たく淡々とした氷のような声で、イルザの瞳を見つめる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

処理中です...