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第3話 鷲と蛇

罠師

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 罠を仕掛け終わり、イルザの元へと急ぐグレン。走り抜けた道の後には硝煙しょうえんが立ちのぼっていた。

 (罠師が罠にかけられてどうすんだよ! っと!)

 道には数々の罠が仕掛けられ、足を阻む。その罠は魔力で作られ、一種の地雷となっていた。

 罠の上を通ると一秒後に魔力爆発を起こして殺傷させる。最初にこの罠にかかったときは、エルザに持たされた防御の魔宝石まほうせきのおかげで怪我はまぬがれた。

 しかし、魔宝石は一度きりしか使えないので、次は残されていない。

 (この手の罠は厄介だ。地雷に気を取られて二段目の罠にかかってしまう)

 二重で仕掛けられている場所はまばらだが、地雷原を一気に駆け抜けようとすると、地雷の三歩先に仕掛けてある魔力光弾による射撃によって蜂の巣にされる。

 (地道にゆっくり、だけど急いで進まねぇとな・・・)

 石や枝を投げて地雷を破壊し、一つずつ罠を解除して前へ進む。

 グレンの足止めには充分すぎる罠の数だった。




 「・・・姉さん右!」

 「はぁぁぁっ!」

 姿を消したホルグは見えない場所から魔力光弾による狙撃で姉妹を狙う。

 エルザは“守護方陣”を広域展開し、光弾が飛んでくる方向を察知。イルザはエルザの指示通りに光弾を“妖精の輝剣アロンダイト”で叩き切る。

 「まるでキリがないわ!」

 休みなく光弾は次々と襲ってくる。一発一発の光弾は強力でエルザの“プロテクション”や“防御結界”では防ぎきれない。仕方なく剣で捌くしか他に防ぐ方法はなかった。

 「・・・後ろ!」

 「はぁっ!」

 魔力を無効化する“妖精の輝剣アロンダイト”は敵の魔力光弾に触れると爆発することなく消すことが出来る。
 肉体的なダメージはないものの、防戦一方な状況とミスを許されない緊張感で、ダークエルフの姉妹は疲弊していった。

 「ねぇ、走りながら“守護方陣”を使うことはできる?」

 「・・・出来るけど、範囲は狭くなる」

 「どのくらい?」

 「・・・半径十メートルの結界半分の五メートルくらい」

 イルザは今いる場所からヴィアーヌ湖が近いことを思い出し、今の状況を打破するための作戦を立てる。

 「いい? エルザ。今から北に全力で走るから、“守護方陣”で攻撃を察知して。湖に到着するまで頼むわ」

 「・・・わかった」

 短く答えるエルザ。

 ヴィアーヌ湖は広めの湖で、木々からは離れている。姿を隠しているホルグと戦うには開けた場所の方が有利だと考えた。

 「三つ数えたら行くわよ・・・いち・・・に・・・」

 光弾をいなしつつ数を数え呼吸を整える。

 「さん! 行くわよ!」

 イルザの掛け声と同時に大地を力いっぱい蹴り、走り出す。“守護方陣”の範囲は狭まり、より一層の集中力を必要とするエルザの表情は気迫に満ちている。

 (ほう・・・? ついに動き出したか。奴らの向かう先は・・・湖か)

 魔眼で行き先を見通すホルグ。開けた場所へ誘導するのだろうと予測した。

 (はっはっ! 良いだろう! 姿を現して欲しいのならご要望に応えようではないか!)

 翼を広げ上空から姉妹を追跡する。

 「・・・ッ! 姉さん後ろ!」 

 後ろを振り返り、剣を振るう。その上にはホルグが鈍く輝く黄金の弓を構えていた。

 「はっはっ! 姿を見せてやったぞ! 俺様の“極光の月弓アルテミス”から逃げられると思うな!」

 こちらの作戦を読まれていたことにイルザは唇を噛みしめる。わざわざ姿を現したということは、あちらにはデメリットが無いということを示していた。

 しかし、作戦に変更はない。木々がひしめき合う森ではエルザの攻撃魔法を当てることすらままならないからだ。

 「エルザ、そのまま行くわよ!」

 ホルグを無視して再び走り出す。言葉を無視されたことに憤りを覚えたホルグは、弓に魔力を込め大型の魔力矢を生成する。

 「俺様を無視するでないッ!」

 弦を引き、手を放す。

 大型の矢は姉妹めがけて一直線に突き進む。

 「・・・また後ろから来るわ」

 「無駄だっていうことわからないのかしらっ!」

 飛んでくる矢に向けて同じように剣を振るう。だが、打ち消した手応えを感じなかった。

 (空振り・・・っ!?)

 「・・・っ! プロテクション!」

 大型の矢は剣に触れる寸前に小型の矢へと複数に分裂し、剣尖けんせんを避けた。分裂した小型矢は再びイルザに向かって軌道を変えた。

 それにいち早く気がついたエルザは防御魔法をイルザの前へ展開した。

 「きゃあああぁぁ!」

 再び、大型の矢へと変形した魔力矢は防御魔法によって威力は落ちたものの、爆風によってイルザ達へ轟音と共にダメージを与える。

 「はっはっ! これが俺様の“極光の月弓アルテミス”の力よ!」

 大声で歓喜の声をあげるホルグ。

 爆風によって巻き起こった砂埃すなぼこりの中から、服が破け褐色の肌を露わにするダークエルフの姉妹をまじまじと見つめる。

 「ほう・・・? 今の攻撃を耐えたか。 ふむ、なかなか美しい姿をしているではないか。俺様の女にならないか?」

 ボロボロになったイルザは態勢を整えて顔についた泥を払い、はだけた服を元に戻す。

 「誰があんたみたいな男の女になるもんですか! エルザ! ブラスト行くわよ!」

 “妖精の輝剣アロンダイト”を短剣に変形させ、イルザとエルザは時限式の爆裂魔法を込める。蒼白の輝きが増した短剣を全力でホルグに向けて投擲する。

 「はっはっ! 気が強い女は結構結構! だが、その攻撃は無駄だ!」

 弓を引いたホルグは短剣を小石で撃ち落とす。物理弾であれば弾を消されることはなく、投擲された短剣は空中で爆発した。

 (私の投擲技術じゃ無駄みたいね・・・。あの厄介な攻撃を避けながら湖へ急がないと・・・!)

 エルザの手を引き走り出す。イルザ達は楽に倒せる相手ではないと、長期戦を覚悟した。

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