51 / 52
51.
しおりを挟むアデライーデ達が魔法の研究や魔道具を作り出している「塔」に辿り着くと、そこにはルビード侯爵家が勢揃いしていた。とは言っても、セレスティナの兄二人は城のルビード侯爵家の部屋で待機中のため、ルビード侯爵とセレスティナだけだったが。
もちろんマルチェッロ公爵家の方も、兄と姉は王妃と王女と共に王城に用意されている部屋に向かった。
本来であれば精霊の儀で契約した精霊や幻獣は、見せびらかすものではない。ジュリアーノ王子の婚約者候補達の精霊や幻獣の存在を知るものも、王族を含む一部のものたちだけと徹底しているぐらいなのだ。
だから、この場には魔力量を測定する魔法師が1人と国王陛下、マルチェッロ公爵とアデライーデ、ルビード侯爵とセレスティナしかいない。
なのに、その場にはセレスティナに抱かれたグリフォンの幼体がいた。
鷲の頭に獅子の身体、だったっけ?
アデライーデも咄嗟にグリフォンがどんな姿で、属性が何だったか思い出そうとしたが、どうにも中途半端にしか思い出せず、眉間に皺を寄せてしまう。
そして、そんなアデライーデを見るセレスティナの口元が、一瞬、笑みの形に歪んだような気がした。気のせいだろうか。
彼女は何か勘違いをしているのかも、とアデライーデは思ったが、ここで何を言ってもしょうがない。だからアデライーデは、沈黙を選ぶ。
もちろんそんな2人の様子を見ている国王は、僅かに目を眇めただけだった。
『ほー、グリフォンか、この世界では中々珍しいんじゃねぇの?』
そうオセが呟く。
確かアデライーデの記憶では、幻獣との契約は元々かなり少ないのだ。確認されているだけでもペガサスやフェンリル、スレイプニル、カーバンクルくらい。後は数百年以上遡るとフェニックスやドラゴン、グリフォンの名も記録が残っているらしいが、どこまで本当かはアデライーデにも分からなかった。
だから、オセの言うようにグリフォンはとても珍しい。
アデライーデの腕の中にいるセルが、じいっとセレスティナを見つめていた。いや見つめているのはグリフォンの方だろうか。
そして、あちらのグリフォンもまた、セルを気にしているようではあるが、アデライーデは別の事を考えていた。
何せ2人の婚約者候補がペットのように幻獣と翼の生えた猫を抱えている。アデライーデが契約したのは時の大精霊だが、これではまるで腕の中のセルと契約したように見えないだろうかと。
だがグリフォンの視線が、セルからアデライーデの頭上の方へと移動している事に気づいてしまった。
『ちょっとアレ精霊が見えるとか言わないよね』
『いんやぁ見えてるんじゃねぇか』
『マジか! どうしようグリフォンがセレスティナと念話出来たらやばくない⁉』
『どうでしょうか』
『うーん、話しかけてみる?』
『ここは紫が行った方がいいっすかね』
今までだんまりを決め込んでいた3精霊たちまで念話に参加してきた。
『大丈夫じゃね? 見えてるようだけど、あの嬢ちゃんと念話する力はねぇみてぇだぜ』
『そんな事わかるの』
『んー、勘?』
『勘でもの言わないでくれる⁉』
セレスティナも無言だが、アデライーデも頭の中では煩くしていても、表向きには無表情でそこにいる。
まあ、それも仕方がない、何せセレスティナはアデライーデを敵視しているのだ。にこやかに挨拶を交わすような間柄でもないし、父同士も互いに会釈をするだけで、会話らしいものをする気もないようだった。
誰も何も喋らない。そして、独りポツンとそこにいる魔法師が、居心地が悪そうに身じろぎしていた。
何とも気の毒な事である。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
皇帝とおばちゃん姫の恋物語
ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。
そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。
てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。
まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。
女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる