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 陛下に王妃様、王女様との謁見は、かなりあっさりと修了した。

 何せ名目としては、アデライーデが無事精霊の儀を終え、時の上位精霊との契約を果たしたことを報告するための謁見である。

 ただ、そこに、姉がこの2年で作り上げた自作のぬいぐるみを好む王女様がいても、母と姉、王妃様と王女様がほとんど色違いのエンパイアラインのドレスを着ていて(王女様は姉とは若干違い、腰の少し右上から左の裾部分までを金色に染められていたが)、とても仲がよさそうであったとしても、何も関係はないのだ。

 そこで残りの婚約者候補の話も聞いた。

 ビルシャンク家のアナスタシアは、光の下位精霊と契約、ルビード家のセレスティナは幻獣であるグリフォンと契約したとのこと。

 それを聞いたマルチェッロ家の面々は、表情は微笑んでいても誰もが苦い思いを抱いていた。

 それはそうだろう。その結果では時の上位精霊と契約を果たしたアデライーデが、一番婚約者になる可能性が高い。

 ビルシャンク家のアナスタシアは、既に婚約者候補を辞退したらしいし、あとはルビード家のセレスティナの魔力量がどれほどかが鍵になる。

 それについては、これから魔法の研究や魔道具の作成をしている「塔」に移動して、2人の候補者の魔力量を測る事になっていた。だから、どうしたって今日中に結果が出てしまう。

 だが、陛下たちには知らせていないとはいえ、アデライーデは既に時、光、闇の精霊たちと契約を結んでいるため、余程の事がない限り魔力量もアデライーデの方が多いはずだ。


 来た時とは違い、1台目の馬車に陛下と王妃、アデライーデの父と母が乗り、2台目には子供たち4人とセル、3台目に陛下の側近や女官、メイドに侍従、4台目にマルチェッロ家の使用人たちが乗っての移動というのも、アデライーデに取っては頭が痛い。

 今、向かっている「塔」には、既にセレスティナのルビード家も揃っているらしいのだ。そんなところへ、王族とマルチェッロ家が仲良く現れるとなれば、魔力量を測る前から結果が見えていると誰もがそう思うだろう。

 あの傲慢で強欲なセレスティナが、それを良しとする訳もなく、きっとまた睨まれるのだろうな、と思えばアデライーデは本当に気が重かった。

 そんなに王子妃になりたいのであれば、セレスティナがなればいい。アデライーデとしては、これから先に起こるだろう、ジュリアーノ王子とミシュリーヌの三文芝居のような恋愛劇に巻き込まれたくはないのだ。

 もちろん、学園の卒業パーティーで断罪されるのも、王子と結婚してお飾りの王妃として暮らすのも御免だ。訳の分からない冤罪をかけられるのも、それが理由で処刑されるのも。

 思わず幾度となく繰り返された最後の瞬間を思い出し、アデライーデは胸に抱いていたセルを抱きしめる腕に力をこめた。

 普通なら、そんなことをすれば嫌がって逃げるだろうに、セルはぎゅうっと抱きしめられても特に気にした風もなく、アデライーデの腕の中でおとなしくしている。

 セルの、こういうところが普通の動物とは違う、魔法で作り出された生き物なのだな、と思う瞬間だ。そしてセルを抱きしめていれば、絶えず魔力が注がれているのが分かる。
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