48 / 52
48.
しおりを挟む陛下に王妃様、王女様との謁見は、かなりあっさりと修了した。
何せ名目としては、アデライーデが無事精霊の儀を終え、時の上位精霊との契約を果たしたことを報告するための謁見である。
ただ、そこに、姉がこの2年で作り上げた自作のぬいぐるみを好む王女様がいても、母と姉、王妃様と王女様がほとんど色違いのエンパイアラインのドレスを着ていて(王女様は姉とは若干違い、腰の少し右上から左の裾部分までを金色に染められていたが)、とても仲がよさそうであったとしても、何も関係はないのだ。
そこで残りの婚約者候補の話も聞いた。
ビルシャンク家のアナスタシアは、光の下位精霊と契約、ルビード家のセレスティナは幻獣であるグリフォンと契約したとのこと。
それを聞いたマルチェッロ家の面々は、表情は微笑んでいても誰もが苦い思いを抱いていた。
それはそうだろう。その結果では時の上位精霊と契約を果たしたアデライーデが、一番婚約者になる可能性が高い。
ビルシャンク家のアナスタシアは、既に婚約者候補を辞退したらしいし、あとはルビード家のセレスティナの魔力量がどれほどかが鍵になる。
それについては、これから魔法の研究や魔道具の作成をしている「塔」に移動して、2人の候補者の魔力量を測る事になっていた。だから、どうしたって今日中に結果が出てしまう。
だが、陛下たちには知らせていないとはいえ、アデライーデは既に時、光、闇の精霊たちと契約を結んでいるため、余程の事がない限り魔力量もアデライーデの方が多いはずだ。
来た時とは違い、1台目の馬車に陛下と王妃、アデライーデの父と母が乗り、2台目には子供たち4人とセル、3台目に陛下の側近や女官、メイドに侍従、4台目にマルチェッロ家の使用人たちが乗っての移動というのも、アデライーデに取っては頭が痛い。
今、向かっている「塔」には、既にセレスティナのルビード家も揃っているらしいのだ。そんなところへ、王族とマルチェッロ家が仲良く現れるとなれば、魔力量を測る前から結果が見えていると誰もがそう思うだろう。
あの傲慢で強欲なセレスティナが、それを良しとする訳もなく、きっとまた睨まれるのだろうな、と思えばアデライーデは本当に気が重かった。
そんなに王子妃になりたいのであれば、セレスティナがなればいい。アデライーデとしては、これから先に起こるだろう、ジュリアーノ王子とミシュリーヌの三文芝居のような恋愛劇に巻き込まれたくはないのだ。
もちろん、学園の卒業パーティーで断罪されるのも、王子と結婚してお飾りの王妃として暮らすのも御免だ。訳の分からない冤罪をかけられるのも、それが理由で処刑されるのも。
思わず幾度となく繰り返された最後の瞬間を思い出し、アデライーデは胸に抱いていたセルを抱きしめる腕に力をこめた。
普通なら、そんなことをすれば嫌がって逃げるだろうに、セルはぎゅうっと抱きしめられても特に気にした風もなく、アデライーデの腕の中でおとなしくしている。
セルの、こういうところが普通の動物とは違う、魔法で作り出された生き物なのだな、と思う瞬間だ。そしてセルを抱きしめていれば、絶えず魔力が注がれているのが分かる。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】番が見ているのでさようなら
堀 和三盆
恋愛
その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。
焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。
どこかから注がれる――番からのその視線。
俺は猫の獣人だ。
そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。
だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。
なのに。
ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。
しかし、感じるのは常に視線のみ。
コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。
……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる