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 準備が終わってみると出発の予定時間には僅かに時間があった。

 とは言え、既に紅を指しているから紅茶を飲むわけにもいかない。アデライーデは腕にオセの分身ーーセルを抱いて、母と姉の3人でサロンでお喋りをする事にした。

 だが、男性陣の方は既に身支度も終え、何やら仕事をしていたらしい。ほとんど時間を置かずに父と兄が現れた。

「お父様もお兄様もかっこいいですわ!」

 サロンに入って来た2人を見たとたん、姉が両手を合わせてはしゃぐ。それも仕方がない。アデライーデですら感嘆の溜息をもらしてしまった。

 首元までかっちりと詰めた肋骨服のストイックさよ。けれど後ろ身頃は長く燕尾服にも見える。

 父の服はもちろん母の瞳の色のフォグブルーで、きっちりと折り目のついたズボンとピカピカの黒い革靴を履いていた。胸元は詰襟を緩め、昨日と同じパール生地のクラバットとクラバット留めを見せつけている。

 父は結構、派手好きなのか、と最近アデライーデは思うようになった。

 何せ、前面の肋骨服の飾り紐は金鎖で編んだものに変えられ、前身ごろ部分のみ、銀糸で細かな刺繍が施されているのだ。これを地味とは言えないだろう。

 兄の方は、アデライーデのドレスよりも更に濃い灰色の肋骨服だ。ただし父とは違い、かなり細身の黒いズボンとアデライーデと同じように黒のロングブーツを履いている。

 そして兄の左胸の位置にある飾り紐の部分だけ、繊細な飾りを施されたルビーのブローチが燦然と輝いていた。若干、地味目な服装になってはいるが、髪色の鮮やかなスカーレットとそのブローチとの対比が美しい。

 そんな父と兄の姿にはしゃいでいる姉ではあるが、姉のドレスは母に合わせたかのようにエンパイアラインのドレスとなっている。ただ、左胸から斜めに鮮やかな黄色とオフホワイトで分けられているため、このドレスも型は普通なのに、やたらと目を惹く。

 さすがに左右の袖の色が違うのは、美しくないとノースリーブにしたからか、なんとミルクティー色のボレロを羽織っている。アデライーデとしては感無量である。なぜなら初めて姉がアデライーデ発案のものを着てくれたのだ。

 今まではどんなに可愛いと言っても、人形に着せるものしか作らせなかったのに。

 だが、実をいうとこのドレス、王妃の実子である王女殿下と色味は違うらしいがお揃いなんだそうだ。いったい、いつの間に王女と接点を持ったのか分からないが、その点については、これからお会いするから、楽しみではあるが気に入って貰えているかどうか不安でもある。

「さて、少し早いがもう出るとしようか」

 父の一声で、家令や執事、従者にメイドたちが動き出した。

 さあ、これから謁見が待っている。
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