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しおりを挟む結局、あの後、再びサロンに家族全員が集合して、今後の事について話し合った。
結果としては、羽付きの黒猫はとても珍しいものではあるが、ノアの眷属だというのならこの屋敷で過ごしても問題はないだろうと、父から許可を貰うことに成功した。
それに家族にはまだ伝えてはいないけれど、3人の精霊と契約したアデライーデには、悔しい事にオセの力が必要だった。
アデライーデの本来の魔力が全回復していないという事もあるけれど、目が覚めて少ししか経っていないのに既に身体が怠い。
ようやく姉たちから解放されたオセが、サロンのラタンチェアに凭れるアデライーデの足に、すりっと身体を摺り寄せてきた。それだけで、なんとなくオセから魔力が流れてくるのが分かる。
精霊については、精霊の儀で契約したのは時の精霊の紫だけーーこれは教会の司教にも見られているから当然として、紫が大精霊だという事は陛下にのみ奏上し、光(中位精霊)と闇(上位精霊)の精霊については家族だけの秘密にする事になった。
その事についてはアデライーデとしても文句はない。いくら中位の精霊だとしても光の精霊とも契約したとなれば、王家は絶対にアデライーデを婚約者に望むに決まっている。その上、闇の上位精霊とも契約しただなんて事を報告したら、それこそ結果は知れる。
アデライーデとしては、やはり逃げ道は残しておきたかった。でも、魔力枯渇はつらいし、怖い。
そのためには、やはりオセの分身を側に置くしかないのだ。
家族には周囲のマナを集めて魔力譲渡が出来る猫らしいとだけ伝えてみたが、父は黒猫の特殊性よりも、アデライーデが3人の精霊と契約したせいで、魔力枯渇に苦しむ可能性がある事の方を嘆いていた。
まあ何せ闇の精霊の眷属で、羽根が生えている猫だ。普通でない事は最初から分かっていたのだろう。
しかし父の嘆きを見れば、アデライーデも心が痛んだ。
うん、心配かけてごめんなさい。
素直にアデライーデはそう思う。まあ、でも、どうしてこうなったのかは分からないけれど、魔力譲渡のできるオセの分身がアデライーデの元に現れてくれたおかげで、その心配はなくなった。
ただ、闇の精霊の眷属で羽根が生えた猫なんて、どうやったら連れ歩けるのかが今、問題になっている。アデライーデとしては、なぜ普通の猫でなかったのかと、思ってしまうのだけれど。
『俺様が普通の猫なんて擬態できるわけねぇだろ』
それがオセからの答えだった。
思わず、成程と頷いてしまう。
『それに、お前らがなんと言っても、俺様はお前についていくからな』
合わせてストーカー宣言された。
『ストーカー……ってそんなんじゃねぇぞ。マナも吸収するが、悪魔の俺が真に欲するのは、欺瞞や欲望に満ちた心。貴族社会なんてそんなもんだらけだろ』
などと言ってケラケラと笑うのは、さすが悪魔だと言える。だとすると城にも平気でついてきそうだなとアデライーデは思い、少しだけ眉間に皺が寄った。たぶん、夜会なんかはオセの大好物だろうが、残念な事にアデライーデは未成年だ。夜会に参加できる年齢に達していない。
明日、開かれるパーティは、精霊の儀を受けた10歳の子供たちを祝うためのパーティのため、普通の夜会とは違い、夕刻の早めの時間から始まる。
招待されているのは、その子供たちと両親、兄弟姉妹全員だ。となると、それなりの数が集まるだろう。
特にアデライーデの年代は、王妃が懐妊した(実際は違うが)知らせを受けて、貴族たちがこぞって妊活に励んだ結果、それなりの数の貴族子弟がいる。
おかげで国一番に広いと言われる、大聖堂の祈りの間ですら埋まったのだから推して知るべしだ。
明日のパーティには兄弟姉妹まで増えて集まってくる。もちろんオセもついてくるはずだ。
「でも、さすがに猫ちゃんを連れてはいけないわ」
一応、魔力譲渡の能力については理解してくれたようだが、母に相談してみれば、やはり渋い顔をされた。しかしオセの分身を連れて行かないと、いつ倒れるか分からないという不安がある。
ちなみにオセの分身を連れ歩いても、他に影響はないのか聞いたところ、オセは笑って言った。
『お前の記憶の中にあった、ほら、携帯の充電器みたいなもんだ』
携帯の充電器。
この世界では馴染みのない言葉に、アデライーデは思わず半眼になった。
『俺様が表に出ると、それこそどんな影響がでるか分かんねぇし、それに、そいつはそのためだけに作った分身だからよ、他への影響も気にしなくていい。後いい加減そいつにも名前くらいつけていやれよ、分身分身ってよぉ』
得意気に語るオセの言葉には、俺様を褒めろという圧力が行間に込められている。しかも、また名づけだ。
アデライーデとて、早々に名前なんて思いつかない。でも、確かにオセの分身と呼ぶわけにもいかず、今のところ「黒猫」、「猫」と呼んでいる有様だ。早急に名前をつける必要がある。
『凄いねぇ、さすが悪魔だねぇ』
取り合えず、棒読みで念話を飛ばすアデライーデだった。
そして何事かを考え込んでいた父が、明日の早朝に王城に馬を飛ばし、変わったペット(ではないが)を手に入れたので、是非、王女様に御覧になっていただきたい、という旨の手紙を送る、ということになった。
取り合えず城に連れて行ける理由が出来ればそれでいい。そんな投げやりな父の言葉に、アデライーデは苦笑を浮かべるしかない。
ーーーーーーーーーー
時間は24時間ですが、1刻(2時間)で作中では表現しています。
朝の6時くらいに1の鐘が鳴り、そこから1刻ごとに2の鐘、3の鐘と呼びます。鐘は0時に鳴る事はありません。9の鐘(22時ごろ)が1日の最後の鐘の音になります。
1刻=2時間、半刻=1時間、四半刻=30分
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