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しおりを挟むふとアデライーデが目を覚ますと、見慣れた天蓋があった。
サロンで気を失ったアデライーデを、誰かが部屋まで運んでくれたらしい。
そして偶々なのか、寝室の扉が開いてターニャが顔を覗かせた。
「お嬢様!」
デジャブである。だからアデライーデは、ついつい聞いてしまった。
「今回は何日眠っていたのかしら」
「半日ほどですぅ」
おや、今回はそれほど寝込まずに済んだらしいと思ったアデライーデは、ターニャの視線がベッドの足元に向けられている事に気づいた。
「お嬢様ぁ~、いつの間に野良猫を拾ってきたんですか? ダメですよぉ、野良猫はばっちいんです」
『誰が野良猫だ、俺様は常に身ぎれいにするよう心掛けてるってぇの』
「は?」
しかもアデライーデが予想だにしない言葉を告げられて、思わず足元にいる物体に目をむけた。そこにはなぜか、黒い塊がいる。
だが今聞こえてきた声は。まさか。
『おはようさん、ようやく起きたな』
「……まさかオセ?」
『おうよ、俺様がそのままそっちにいったら大混乱だろうからなぁ、分身を作ってやったぞ』
まさかの悪魔が、ぐぐっと猫のように伸びをして、くあっと欠伸をしながら答えた。声を聞けば確かにオセだと分かるのに、アデライーデの視覚情報では可愛らしい黒猫(たぶん豹柄)にしか見えない。
本体は、あのバカでかい黒ヒョウだと頭では理解しているのに、ぺろぺろと前足を舐め、くしくしと顔を撫でる仕草が可愛らしくて仕方がなかった。思わずそっと手を伸ばしてしまう。だが、アデライーデの足元とは言っても、大きめのベッドの端の方にいたオセには手が届かなかった。
『ん? どしたよ、まだ魔力が足りないか』
そんなアデライーデに、オセは魔力を催促されたと思ったのだろう。ベッドの上に立ち上がると、なんとぶるりと身体を震わせたかと思えば、ばさりと翼を広げてアデライーデの元へと飛んできた。
「はい?」
あまりの事にアデライーデの動きが止まる。もちろん今まで一部始終を眺めていたターニャも、目を丸くして彼女曰く、野良猫を見つめた。
『どうした?』
ふわりとアデライーデの胸元へと降り立ったオセは、ペロリとアデライーデの頬を舐める。
「……」
「……だ、旦那様ぁ、奥様ぁ、猫、野良猫に翼が、猫に翼がぁ!」
『だから俺様は野良猫じゃねぇっての』
とは言え、アデライーデの寝室から飛び出して行ったターニャに、オセの言葉が聞こえるはずもなく。
明日のパーティのために既に休んでいた屋敷の人々を叩き起こしたのだった。
ーーーーーーーーーー
ストックが切れました。少し時間が空くかもしれないですが、まだまだ続きますのでよろしくお願いします。
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