21 / 52
21.
しおりを挟むようやくアデライーデも10歳を迎えた。
10歳になった、という事はアデライーデも精霊の儀を受けられるという事になる。しかし、年の初めの方に生まれたアデライーデは、精霊の儀までもう少しだけ待たなければならなかった。なぜなら精霊の儀は、その年に10歳になった子供たちが対象のため、年の最後の月の初めに執り行われるからだ。
アデライーデは精霊の儀を心待ちにしている、という訳でもない。
彼女の意識がアデライーデに溶け込んでから約2年。この2年間は、とても楽しく過ごせていた。
彼女が着たい服を作り、小物を作り、彼女が何となく持ち込んだ前世の知識を、錬金術師のイルマと共に形にしたりと忙しかったからだ。
もちろん、公爵家のご令嬢としての教育も施されたが、何度も何度もループしたせいか、周辺諸国の言語も礼儀作法も刺繍の腕や楽器演奏についても、ほぼ学び終わっている。ついでに加えると王子妃教育も大まかなところは履修済みのため、今は月に2度ほど王子と親睦を深めるためのお茶会に参加しているくらいだ。
そして王子は、と言えば去年の精霊の儀で光の精霊の加護を得られた。それはとても喜ばしい事ではあったが、王子と契約した精霊は中位の精霊で、魔力量も上の下という結果に、周囲は喜びつつも戸惑いも隠せない。
なぜなら王族には結界の魔道具を動かすという大役があるからだ。
その魔道具を動かすためには、光の精霊の加護か膨大な魔力量が必要とされている。
元々、初代の国王が、光の大精霊の加護の元に造り出したと言われている魔道具で、起動には光の精霊の加護持ちが必要だった。そして、王都の全域を守護する結界は、少ない魔力では数時間も持たないため、膨大な魔力が必要となる。
それでも起動しさえすれば、後は誰の魔力でも大丈夫であったなら問題はなかったかもしれない。
確かに特上の魔力量を持つものは極々僅かだ。しかし、中の上から上の上の魔力量であれば高位貴族にも持っているものは多い。皆で交代で魔力を注げば、結界の維持ができるのなら貴族も協力したはずだ。
しかし、王族に連なるものの魔力しか、その魔道具は魔力を受け付けようとしなかった。
これは膨大な魔力量を誇っていたという初代国王と大精霊の、力がある故に見落とした部分だろう。
まさか彼らの子孫が大精霊や上位精霊以下の精霊と契約し、また魔力量も貴族並みになるなんて想像もしなかったのだ。
そして今回、王子が契約できた精霊は中位で、魔力量も貴族の平均よりは高い、という結果となり、王子のそれは全国民に知られている。そのせいで、次期国王に向かないのでは、などという不敬な発言が、そこかしこで囁かれるようになった。
アデライーデも、それについてはキツイな、と思う。
王子がただの貴族子弟の1人なら、自分の魔力量やら何やらが全国民に知られる事はなかったはずだ。いくら貴族の保有する魔力量が多いとはいえ、中には平民に劣るものもいる。精霊にしてもそうだ。最下級の精霊としか契約できないものも極まれにいる。
けれど貴族子弟であれば、それを家族以外に知られる事はない。もちろん13歳から入学する必要のある王立学園に入れば、全員魔法学を修める必要があるため、魔力量が推し量られる事はある。だが、契約した精霊の位について詮索してはならないと決められていた。それは最下級の精霊と契約していても、ある程度の魔力量があれば普通に魔法を扱う事が出来るし、精霊の位を比べるなど精霊にとっても失礼にあたるからだ。
しかし、王子だから、というだけで王子は精霊の位も、魔力量も知られている。
もうすぐ11歳を迎える王子は、それでも腐らず真面目に王子としての教育を受けていた。
アデライーデはその姿を知っているから、王子の気持ちを慮ると何とも言えない気分になった。
確かに6回のループの中での王子も、皆、真面目な人物だった。ただ違う点があるとすれば、最初の頃は大精霊と契約し、魔力量も特上だった事だろうか。
そう、王族として、次期国王としてなんの遜色もなかったのだ。
しかし、繰り返されるループの中で、王子の精霊は徐々に位を落としていった。魔力量も同様に。
ーーーーーーーーーー
202203.01 一部修正しました。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】番が見ているのでさようなら
堀 和三盆
恋愛
その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。
焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。
どこかから注がれる――番からのその視線。
俺は猫の獣人だ。
そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。
だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。
なのに。
ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。
しかし、感じるのは常に視線のみ。
コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。
……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる