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 ようやくアデライーデも10歳を迎えた。

 10歳になった、という事はアデライーデも精霊の儀を受けられるという事になる。しかし、年の初めの方に生まれたアデライーデは、精霊の儀までもう少しだけ待たなければならなかった。なぜなら精霊の儀は、その年に10歳になった子供たちが対象のため、年の最後の月の初めに執り行われるからだ。

 アデライーデは精霊の儀を心待ちにしている、という訳でもない。

 彼女の意識がアデライーデに溶け込んでから約2年。この2年間は、とても楽しく過ごせていた。

 彼女が着たい服を作り、小物を作り、彼女が何となく持ち込んだ前世の知識を、錬金術師のイルマと共に形にしたりと忙しかったからだ。

 もちろん、公爵家のご令嬢としての教育も施されたが、何度も何度もループしたせいか、周辺諸国の言語も礼儀作法も刺繍の腕や楽器演奏についても、ほぼ学び終わっている。ついでに加えると王子妃教育も大まかなところは履修済みのため、今は月に2度ほど王子と親睦を深めるためのお茶会に参加しているくらいだ。

 そして王子は、と言えば去年の精霊の儀で光の精霊の加護を得られた。それはとても喜ばしい事ではあったが、王子と契約した精霊は中位の精霊で、魔力量も上の下という結果に、周囲は喜びつつも戸惑いも隠せない。

 なぜなら王族には結界の魔道具を動かすという大役があるからだ。

 その魔道具を動かすためには、光の精霊の加護か膨大な魔力量が必要とされている。

 元々、初代の国王が、光の大精霊の加護の元に造り出したと言われている魔道具で、起動には光の精霊の加護持ちが必要だった。そして、王都の全域を守護する結界は、少ない魔力では数時間も持たないため、膨大な魔力が必要となる。

 それでも起動しさえすれば、後は誰の魔力でも大丈夫であったなら問題はなかったかもしれない。

 確かに特上の魔力量を持つものは極々僅かだ。しかし、中の上から上の上の魔力量であれば高位貴族にも持っているものは多い。皆で交代で魔力を注げば、結界の維持ができるのなら貴族も協力したはずだ。

 しかし、王族に連なるものの魔力しか、その魔道具は魔力を受け付けようとしなかった。

 これは膨大な魔力量を誇っていたという初代国王と大精霊の、力がある故に見落とした部分だろう。

 まさか彼らの子孫が大精霊や上位精霊以下の精霊と契約し、また魔力量も貴族並みになるなんて想像もしなかったのだ。

 そして今回、王子が契約できた精霊は中位で、魔力量も貴族の平均よりは高い、という結果となり、王子のそれは全国民に知られている。そのせいで、次期国王に向かないのでは、などという不敬な発言が、そこかしこで囁かれるようになった。

 アデライーデも、それについてはキツイな、と思う。

 王子がただの貴族子弟の1人なら、自分の魔力量やら何やらが全国民に知られる事はなかったはずだ。いくら貴族の保有する魔力量が多いとはいえ、中には平民に劣るものもいる。精霊にしてもそうだ。最下級の精霊としか契約できないものも極まれにいる。

 けれど貴族子弟であれば、それを家族以外に知られる事はない。もちろん13歳から入学する必要のある王立学園に入れば、全員魔法学を修める必要があるため、魔力量が推し量られる事はある。だが、契約した精霊の位について詮索してはならないと決められていた。それは最下級の精霊と契約していても、ある程度の魔力量があれば普通に魔法を扱う事が出来るし、精霊の位を比べるなど精霊にとっても失礼にあたるからだ。

 しかし、王子だから、というだけで王子は精霊の位も、魔力量も知られている。

 もうすぐ11歳を迎える王子は、それでも腐らず真面目に王子としての教育を受けていた。

 アデライーデはその姿を知っているから、王子の気持ちを慮ると何とも言えない気分になった。

 確かに6回のループの中での王子も、皆、真面目な人物だった。ただ違う点があるとすれば、最初の頃は大精霊と契約し、魔力量も特上だった事だろうか。

 そう、王族として、次期国王としてなんの遜色もなかったのだ。

 しかし、繰り返されるループの中で、王子の精霊は徐々に位を落としていった。魔力量も同様に。


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 202203.01 一部修正しました。
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