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 そしてさらに月日は過ぎていく。

 あれからアデライーデの服装は、徐々に貴族のご令嬢とはかけ離れて行った。

 アデライーデが普段から着ているものは、シンプルなシャツにキュロットパンツ、エプロンドレスかスモッグだ。おしゃれ着は甘ロリ服。もちろん使っている生地などは最高級のものを使っているので、他のご令嬢のドレスと遜色はなかった。それどころか、レースをふんだんに使ったヘッドドレスや淡い色から濃い色ーー時には灰色や黒ーーの生地を使った服は、色が濃くなるごとに豪奢が増していき、普通のご令嬢が着るドレスにも劣らず、アデライーデの可愛らしさを引き立てている。

 もちろん、そんなアデライーデを彩る装飾品は、レースで作られたリボンや薔薇がふんだんに使われ、宝石を使用したアクセサリーは、ほとんど身に着けていなかった。

 おかげで数か月に一度、王子殿下から贈られてくる装飾品にはアデライーデも頭を悩ませている。

 なぜなら王子から贈られてくる装飾品は、アデライーデの好みではないのだ。

 金の土台に大振りのサファイア、そのサファイアを囲むようにして蔦が絡まっているデザインだとか。繊細なレース編みのようなネックレスは、ポイント、ポイントで色とりどりの小さな宝石が散りばめられているもの、とか。

 婚約者候補に贈る品としては問題はないと思う。きっとアデライーデ以外の婚約者候補たちはこぞって喜んでいるはずだ。だって、ものは悪くないし、ネックレスの出来は見事な出来だった。これをデザインして作った職人の腕は素晴らしい。賞賛に値する。だが、アデライーデとしては使いどころが分からない。

 なぜなら、アデライーデが着ている服はドレスのように胸元が開いているものではないからだ。どちらかと言うと、これでもかというくらい、極力、肌を見せないような作りになっていると言ってもいい。

 だから、せっかく素敵なネックレスを頂いてもつけようがないのだ。無理につけても服とそぐ合わなさ過ぎて、せっかく貰った装飾品もかわいそうだと思う。どうせ宝石をチョイスするならチョーカーのトップに、ティアドロップ型のガーネットとか黒曜石がついたものなら良かったのに、なんて思ってしまった。そう思うアデライーデは悪くはないが、実に贈りがいのない相手である。

 いつもであれば、王子付きの侍従たちもご令嬢たちの趣味趣向を考慮するのだが、アデライーデの好む装飾品はマルチェッロ家のメイドの手作り品である事が多く、宝石の類も身につけるのは好んでいないという調査結果に、侍従たちは頭を悩ませた。

 王子の婚約者候補が三人もいるため、1人だけ値段が著しく違うものを贈る訳にもいかない。苦肉の策として、デザインや宝石を変えたものを贈ってきたようだ。

 花であれば部屋に飾るだけで済むし、気に入らないものなら屋敷のどこかに飾ってもらえば、それで済む。

 どうせ身につけない装飾品を贈られても、お金の無駄になるのに。そう進言してはいけないのかな。

 そんなどうしようもない事を考えるアデライーデだった。

ーーーーーーーーーーーーーー

 次は王子様視点が1話か2話続きます。


 2022.03.01 一部修正しました。
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