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しおりを挟むでも、母との会話で一つだけ気になった事があった。
「婚約者候補、かぁ」
そう呟いて、あまりの覇気の無さに自分でも驚く。
確かに6回の人生の中でもアデライーデは王子殿下の婚約者だった。1回だけ公爵家子息の婚約者だったことがあったが、やはりその時間軸でもミシュリーヌに婚約者を奪われ、確かこの時は修道院に行く羽目になったのだったか。
いや違うか。修道院に行ったのは、別の時だったか。
でも、毒を飲まされたような気がするのだ。はっきりとは覚えていないのだけれど。
だとしても、全く意味が分からない、アデライーデはそう思う。
確かに、ミシュリーヌに婚約者を奪われたと知った時は、悔しい思いをした。
ただひたすら悲しくて、泣いて、泣いて。
しかし、アデライーデは内向的で大人しく、心の内をさらけ出して相手を責めることもできなかった。
それに、ミシュリーヌに文句や嫌味を言った覚えもない。
なのに毒を盛られた。でも、誰に、どこで?
こうやって思い出そうとすると、記憶があやふやになる部分がある。それはアデライーデ自身が覚えていないのか、それとも何かに思い出すのを遮られてでもいるのだろうか。
しかし、アデライーデが死ぬのが当然とでも言うかのように、その時だけではなく残りの時間軸でもアデライーデは殺されるのだ。
まるで、ドラマや映画の配役ででもあるかのように、身分違いの恋人たちを引き裂く役を割り振られたのがアデライーデだーー貴族の令嬢だから、悪役令嬢、とでも言ったところか。
確かに小説や漫画なら、そういった役割も必要だと思う。そういう役がいることで物語は盛り上がるからだ。でも、現実はそうじゃない。王子とミシュリーヌは恋人同士だったかもしれないが、アデライーデは婚約者だった。しかも王命の。
もし本当にミシュリーヌと一緒になりたいのであれば、まず最初にアデライーデとの婚約を白紙にするべきだし、そのまま婚姻にまで話を進めるのであれば、婚姻後、3か月も経たないうちに愛妾として王宮に招くこともしてはいけなかった。
けれど王子は勝手に婚約を破棄し、婚姻した時もすぐにミシュリーヌを王宮に招き入れた。しかも本来であれば愛妾など、王宮から離れた場所にある宮にでも住まわせればいいものを、わざと王子の近くの部屋にミシュリーヌを、アデライーデには上級使用人の部屋を宛がった。
屑だ。この上なく屑男の所業だ。
今までの事を思い返すとアデライーデはムカムカしてくる。それはもちろん王子に対してでもあるけれど、何も言い返さず屈辱を感じながらも受け入れていた自分にもムカつくのだ。
ただ、二人と取り巻きのくそ野郎どものために、「婚約者を奪われた哀れな令嬢」、「愛されないお飾りの王子妃」なんてものになりたくなんかなかった。
だったら婚約者候補から外れるのが一番。
アデライーデはそう結論付けた。
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文字数が安定しませんね。
2022.03.01 一部加筆修正しました。
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