悪役令嬢は悪魔と復讐のダンスを踊る

７．

　
　
　それからはお抱えの医師が到着して、家族たちは部屋を出ていく事になった。

　その際に、アデライーデはターニャに幾つかのものを用意しておくようにお願いする。

　泣かせてしまった姉へのお詫びの品だ。幾ら匂いの事が本当の事とは言え、10歳の女の子に「臭い」だなんて言っていい言葉じゃなかったと反省したから。

　それに10日も寝込んでいた身体は、いくらターニャがこまめに拭いていてくれていたとしても汗臭かった。

　医者の許可がおりたら是非ともお風呂に入りたい。

　アデライーデがそう思うのも、お風呂大好きな日本人の記憶がある今、仕方のない事だろう。

　ちなみにお抱え医師の診断は身体に悪いところはなく、お茶会の時は緊張のために倒れたのではないかということだった。ただ、どうして10日間もの間目覚めなかったのかは医師にも分からないとのこと。

　まあ、そうだろうなぁ、とアデライーデは思う。

　10日前に受けたアデライーデの衝撃は彼女にもよく分からない。それでもこの10日間で見た悪夢を鑑みれば何となく理解できる。

　今現在のーー第一王子も側近候補たちもアデライーデの一つ年上の9歳だそうだーー第一王子の事は知らないけれど、彼女は悪夢の中で散々彼らの所業を見さつけられた。

　だから今現在の王子を知らないとしても知っている。

　甘いマスクに金髪碧眼の、典型的な王子様ザ・プリンス。

　アデライーデの婚約者だというのに、「神の愛し子ミシュリーヌ」とやらに懸想し、アデライーデを捨てたろくでなしだ。

　いや違う。最初は「神の愛し子」なんて呼ばれてはいなかった、ような気がする。

　アデライーデは悪夢の中の記憶を辿りながら唸った。

　確かにそうだ。そのはずだ。

　最初はただの子爵家令嬢で。

　次の時もそうだったはず。

　じゃあ、いつから「神の愛し子」なんて大層な呼び名で呼ばれるようになったのか。

　それを考えるとアデライーデもよく分からなくなった。

　何せ6回分の人生だ。たとえ1回が10年から15年程のものだとしても、記憶としては膨大になる。それをたったの10日で消化できる訳がないのだ。

　でもいつからかミシュリーヌ子爵令嬢は、「神の愛し子」と呼ばれるようになり、アデライーデは王子と「神の愛し子」との仲を裂く悪しきものとされた。

　アデライーデと王子の婚約は、アデライーデが10歳の精霊の儀が終わった後に王家からの打診で決まったというのに。

「……だったら婚約者になんてならなければいい」

　アデライーデは、ボソリとそう呟いた。


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　ご一読ありがとうございます。


　アデライーデを指す言葉が彼女であったり自分であったりするのは、彼女の意識が日本人女性からアデライーデになる経過でごちゃっとしている感じを表現しているつもりです。読みづらかったら申し訳ありません。