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しおりを挟む真っ当な人間であるならば、まず罪の正当性を疑うだろう。本当にアデライーデがその罪を犯したのか、証拠はあるのか、動機はなんだと、罪人にだって弁護をされる権利はあるはずだ。なのに、証拠は証言のみでーーしかも被害者とその取り巻きの証言だけというお粗末さ。
国庫の使い込みの時は一応裏帳簿らしきものは提出されたようだが、たぶん、きっと、それは王子とその愛妾になったミシュリーヌのものだろう。
何せ王子との結婚後、アデライーデが表舞台に呼ばれることはなく、ただひたすら王子と王子妃の執務を熟していた。
王宮で与えられた部屋だって、王子妃の部屋は愛妾に奪い取られ、使用人の部屋よりも多少マシなくらいなものを宛がわれた。部屋は日当たりも悪く、執務しかしないのだからと衣装ですらも最低限。
食事やお茶ですらも侍女長が厳しく管理していてアデライーデは、たた与えられるものを享受するしかなかった。そんなアデライーデに使い込みをする要素がどこにあるというのか。
その上、訳の分からない正義感をひけらかす騎士団長の子息だとかいう男は、アデライーデが反論しようとすれば激昂して剣をチラつかせて平気で脅してくる。これは学園時代から変わらずで、王宮で暮らしていても顔を合わせればミシュリーヌがどうしたとか、他の女性の名をあげてはアデライーデが悪いと決めつけていた。
さすがのアデライーデも冤罪をかけられては堪らないと声をあげたが、無視をしたのは王子で、そんなアデライーデを嘲笑い処刑台で得意気に剣を振り下ろしたのもこの男だった。
だから、この男に殺された回数が一番多い。
アデライーデの人生は早い時で18、遅くても23,4で終わり、どういった理屈でなされるのかは分からないが7,8歳まで時が遡る。
どうやらその都度その都度の記憶はないようで、でもだからこそ同じことを繰り返していた。
王子様に傾倒して、王子様のために頑張って、そして王子様のせいで死ぬ。しかも見下され蔑まれ貶められながら。
いったいアデライーデが何をしたと言うのだろう。
数える限り6回の人生を繰り返し、無駄に消費されることになんの意味があるというのか。
「……そう言えば」
彼女はふと呟いた。
「悪夢の中で精霊だけは毎回違っていた……」
この世界では術者と一生涯を共にするために、10歳の儀式で召喚の儀を行う事になっている。
それは教会で行われる行事で、教会の奥庭に召喚用の魔方陣が刻まれた広場があり儀式の時だけ解放される場所だ。10歳を迎えた子供は必ず教会に連れてくるよう国も法を定めているし、平民であれば特に費用も掛からない。貴族の子弟の場合は、もちろん心付けが必要だが。まあ、それはどうでもいいだろう。何せ金額の多寡で呼び出すものの優劣はつけられないのだから。
召喚の儀で必要なものは魔力。
そして呼び出されるものは幻獣などの召喚獣や精霊や妖精といったところで、その人が持つ魔力に相応しいものが召喚される、らしい。
一応アデライーデの悪夢の中でも何度も召喚の儀は行われていた。そしてアデライーデは必ずと言っていいほど中位や上位の精霊を呼び出すのだ。それに保有魔力量も王族に次ぐほどに多く、だからこそ王子の婚約者に選ばれてしまう。それに王族に嫁ぐにも爵位に問題がなかったというのもある。何せ公爵家のご令嬢だ。これを分不相応としたら誰も王族には嫁げない。
けれどアデライーデには、それが悲劇にしかならなかった。
深層のご令嬢だったが故に望まれるままに王子の婚約者となり、文句の一つも言わずに王家の望むがままに生きて死ぬ。いっそどこかでブチ切れてしまえばいいものを、そうする事さえ知らずにただひたすら耐えるだけ耐えて。
ループする度に記憶はリセットされてはいたようだが、それでも魂に刻まれた恐怖や苦しみ、痛み、哀しみは完全に消えることはなく、一回一回、繰り返される時間にアデライーデの魂は削られて。
「聞くことができるとしたら精霊しかいない、はず……」
とは言え新しく召喚する精霊が、ループする前の事を覚えているのかなんて彼女にも分からない。
それにアデライーデが彼女になってしまった影響が出てくる可能性だってあるかもしれない。
暫くはもぞもぞと寝具の上で起き上がろうとしてはいた彼女は、ついに諦めて身体の力を抜いた。
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ご一読ありがとうございます。
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