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しおりを挟む人生なんて大抵は自分の思い通りになんてならないものだけれど、それでもアデライーデの境遇はあまりにも酷かった。
齢10歳で為された婚約のせいで、少女らしい楽しみなど味わう事もなく、勉強やらマナーやらダンス、果ては妻として王子の盾となるべく護身術やら剣術など過度な訓練を課され、より強力な召喚獣や精霊を召喚できるようにと、無理やり魔力を放出させられて魔力の枯渇に苦しむ日々。
泣き言なんて許されるはずもなく、みっともなく泣きわめけば容赦なく折檻された。
彼女にしてみれば王子妃教育という名目でなされる虐待にしか見えない。
しかも婚約者である王子様とやらは、少女の何が気に入らないのか、交流を目的とする週に1回のお茶会にも偶にしか現れない。現れたとしてもブスくれた顔で菓子を摘まみ、ジュースを飲み、少女の失態をあげつらうのだ。いったいお前は何様だ、と頭の一つでもひっぱたいてやりたくなる。
その上、その上だ。
学園に通うような年になると、見てくれだけは金髪碧眼の王子様になったヤツは、周りに美少女たちを侍らせた。少々釣り目勝ちで気の強そうに見える少女とは全くタイプの異なる、お目目パッチリ唇ぽってりの可愛らしい少女たちを、だ。
何かと言えば「王子様格好いい」、「王子様凄い」、「王子様素敵」を繰り返す阿呆どもは、婚約者であるのに王子様に顧みられない少女を見下して馬鹿にする。
特に酷いのはピンクブロンドのミシュリーヌとかいう子爵家のご令嬢だ。
アデライーデの目の前で勝手に転んだかと思えば、アクアマリンの瞳に涙を溜めて「足をかけて転ばされた」だの「突き飛ばされた」だのと泣き喚いてはアデライーデに罪を擦り付ける。
あまりにも目に余るマナーを注意すれば、「低位の貴族だからって馬鹿にしている」だの「低位の貴族なんて学園に必要ないと言うのですね!」なんて難癖をつけられ、最悪な事にアデライーデの目の前で泣き崩れている場面に、必ずと言っていいほど王子が現れ、アデライーデに弁明の隙もくれずに罵倒するのだ。
そして、「私の可愛いミミ、怪我はないか?」、「大丈夫ですわリオ様」なんて目の前でいちゃつきさえする。いったいなんの三文芝居を見せられているのかと何度思った事だろう。
でも本当に最悪なのは学園の卒業パーティだ。
謂れのない罪ーーミシュリーヌ嬢を虐めていたとかーーで婚約破棄され王都追放。のちに盗賊に扮した王子の取り巻きに切り殺されたり、娼館に売り飛ばされて複数人に辱められて首を絞められて殺されたり、卒業パーティを無事潜り抜け王子と結婚しても、後に国庫の使い込みだとか、姦淫したと貶められ投獄。処刑。
一体全体どういうわけか、アデライーデは何度も何度も殺されていた。
しかも己の婚約者や友人だった人間がアデライーデに牙をむき、覚えのない罪状を読み上げ罵りあげつらう。
ああ、胸糞悪い。
悪夢なら早く覚めろと思いながらも、アデライーデを敵視する人間どもに我慢がならなかった。
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