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31.アルフォンソ殿下からの提案
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そう考えますと、わたくしもかなり好き勝手やらさせていただいておりますわね。
でも陛下も王妃様も文句の一つも仰いませんの。
それどころかわたくしが次に何をするのか大変興味をお持ちですわ。
「だから今さらアデリア嬢を手放すことはないと思う」
シフォンケーキにたっぷりと生クリームをつけて、アルフォンソ殿下は結構大きめの一口をぱくり、と。
わたくしの場合、やはり淑女ですから大きな口を開けて食べるわけにはまいりません。それに幾ら甘さは控えめにしているとはいえ、生クリームは少しでいいのです。小さく切ってちょこんと生クリームをつけてわたくしもいただきます。
んー、美味しいですわ。
このシフォンケーキの型も、鍛冶職人の親方さんに頼んで作って頂きましたの。
今では王城からも幾つか注文を受けて親方さんたちは、張り切ってシフォンケーキの型、パウンドケーキの型、食パンの型なども作っておりますわよ。
「でもわたくし王太子殿下には嫌われておりますし。さっきも仰ってましたけど、婚約破棄するつもりのようですし」
お口の中にシフォンケーキが詰まっておりますのね。
せっかくお話ししておりますのに、アルフォンソ殿下はもきゅもきゅとお口を動かしているだけですわ。
姿はすっかり大人のようなアルフォンソ殿下ですが、こういうところを見るとまだ可愛らしい男の子なのですわ。
しっかりとシフォンケーキを味わい、こくりと紅茶を飲み干して、ようやくアルフォンソ殿下は口を開きました。
「やっぱりアデリア嬢の作るお菓子は最高に美味しいよ。この美味しいものを僕はこれからもずっと食べたいと思うんだ。だからねアデリア嬢、もう兄様は仕方がないから好きにさせて僕と婚約しなおすつもりはないかな」
「はい?」
ちょっとお待ちになって?
今さらりと仰いましたけど、婚約者を自分にしないかと仰ったのかしら?
しかも美味しいものが食べたいから? え、食いしん坊さんなの、アルフォンソ殿下。
なんだかまるで、君の作った味噌汁が飲みたい、って言われているような気がしますわよ。
「ふ、うふふ」
でも、わたくしは殿下なりの励ましだと思いましたの。
だってアルフォンソ殿下はお優しいですから。
きっとジュリオ殿下に蔑ろにされている婚約者を、哀れだと思ってくださったのでしょう。
「冗談ではないからね? 僕はいたって本気なんだ。折角こんなに可愛くて将来も有望な女性を、婚約破棄しようだなんてふざけてる」
わたくしが笑ったからでしょうか、アルフォンソ殿下は真剣な表情でそう仰いました。
でも、アルフォンソ殿下が真剣であれば真剣であるほど、わたくしは困ってしまいます。なぜなら、わたくしは王太子殿下の婚約者なのです。
いくらジュリオ殿下がわたくしを嫌っているとしても、王太子殿下の婚約者である、という事実は変わりません。
そしてその事実はアルフォンソ殿下であっても覆すことは出来ないのです。
だって、これは王命ですもの。
幸いな事に、この部屋には侍女のソフィアしかおりませんから、アルフォンソ殿下の言葉が外に漏れることはないはずです。ソフィアは王城に来てから、わたくしに付けられた侍女ですが、彼女の事は信用していますのよ。
ならばこのまま冗談にしてしまった方がいいでしょう。わたくしはそんなずるい考えを致しました。
「ふふ、そうしたら第二王子妃ですわね? それとも臣籍降下しますの?」
「どちらでも! 僕はこの国が良くなっていく手助けがしたいだけなのだから。第二王子でも臣下でも構わないんだ」
迷いのない綺麗な青い瞳は、室内だというのにやたらとキラキラしておりますわ。いったいなんの効果でしょう。
それにわたくしの問いかけにも平然とお答えになって。
わたくしは益々困ってしまいましたわ。
わたくしは余程、困った表情をしていたのでしょう。アルフォンソ殿下は、ふっとお笑いになりますと、大丈夫だよ、と小さくおっしゃいました。
「でも、まずは兄様のやろうとしている婚約破棄を阻止しないといけないね」
シフォンケーキを綺麗に平らげたアルフォンソ殿下は、ソフィアが新しく淹れてくれた紅茶の香りを嗅ぎながらそう仰います。
「そうですわね、できれば円満に解消していただいて」
「領地に帰るっていうのはなし、だから、覚悟してね」
むむう、領地にかえりますわ、と言おうとしてアルフォンソ殿下に遮られてしまいましたわ。
思わずわたくしは淑女らしくなく、唇を尖らせてしまいます。
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でも陛下も王妃様も文句の一つも仰いませんの。
それどころかわたくしが次に何をするのか大変興味をお持ちですわ。
「だから今さらアデリア嬢を手放すことはないと思う」
シフォンケーキにたっぷりと生クリームをつけて、アルフォンソ殿下は結構大きめの一口をぱくり、と。
わたくしの場合、やはり淑女ですから大きな口を開けて食べるわけにはまいりません。それに幾ら甘さは控えめにしているとはいえ、生クリームは少しでいいのです。小さく切ってちょこんと生クリームをつけてわたくしもいただきます。
んー、美味しいですわ。
このシフォンケーキの型も、鍛冶職人の親方さんに頼んで作って頂きましたの。
今では王城からも幾つか注文を受けて親方さんたちは、張り切ってシフォンケーキの型、パウンドケーキの型、食パンの型なども作っておりますわよ。
「でもわたくし王太子殿下には嫌われておりますし。さっきも仰ってましたけど、婚約破棄するつもりのようですし」
お口の中にシフォンケーキが詰まっておりますのね。
せっかくお話ししておりますのに、アルフォンソ殿下はもきゅもきゅとお口を動かしているだけですわ。
姿はすっかり大人のようなアルフォンソ殿下ですが、こういうところを見るとまだ可愛らしい男の子なのですわ。
しっかりとシフォンケーキを味わい、こくりと紅茶を飲み干して、ようやくアルフォンソ殿下は口を開きました。
「やっぱりアデリア嬢の作るお菓子は最高に美味しいよ。この美味しいものを僕はこれからもずっと食べたいと思うんだ。だからねアデリア嬢、もう兄様は仕方がないから好きにさせて僕と婚約しなおすつもりはないかな」
「はい?」
ちょっとお待ちになって?
今さらりと仰いましたけど、婚約者を自分にしないかと仰ったのかしら?
しかも美味しいものが食べたいから? え、食いしん坊さんなの、アルフォンソ殿下。
なんだかまるで、君の作った味噌汁が飲みたい、って言われているような気がしますわよ。
「ふ、うふふ」
でも、わたくしは殿下なりの励ましだと思いましたの。
だってアルフォンソ殿下はお優しいですから。
きっとジュリオ殿下に蔑ろにされている婚約者を、哀れだと思ってくださったのでしょう。
「冗談ではないからね? 僕はいたって本気なんだ。折角こんなに可愛くて将来も有望な女性を、婚約破棄しようだなんてふざけてる」
わたくしが笑ったからでしょうか、アルフォンソ殿下は真剣な表情でそう仰いました。
でも、アルフォンソ殿下が真剣であれば真剣であるほど、わたくしは困ってしまいます。なぜなら、わたくしは王太子殿下の婚約者なのです。
いくらジュリオ殿下がわたくしを嫌っているとしても、王太子殿下の婚約者である、という事実は変わりません。
そしてその事実はアルフォンソ殿下であっても覆すことは出来ないのです。
だって、これは王命ですもの。
幸いな事に、この部屋には侍女のソフィアしかおりませんから、アルフォンソ殿下の言葉が外に漏れることはないはずです。ソフィアは王城に来てから、わたくしに付けられた侍女ですが、彼女の事は信用していますのよ。
ならばこのまま冗談にしてしまった方がいいでしょう。わたくしはそんなずるい考えを致しました。
「ふふ、そうしたら第二王子妃ですわね? それとも臣籍降下しますの?」
「どちらでも! 僕はこの国が良くなっていく手助けがしたいだけなのだから。第二王子でも臣下でも構わないんだ」
迷いのない綺麗な青い瞳は、室内だというのにやたらとキラキラしておりますわ。いったいなんの効果でしょう。
それにわたくしの問いかけにも平然とお答えになって。
わたくしは益々困ってしまいましたわ。
わたくしは余程、困った表情をしていたのでしょう。アルフォンソ殿下は、ふっとお笑いになりますと、大丈夫だよ、と小さくおっしゃいました。
「でも、まずは兄様のやろうとしている婚約破棄を阻止しないといけないね」
シフォンケーキを綺麗に平らげたアルフォンソ殿下は、ソフィアが新しく淹れてくれた紅茶の香りを嗅ぎながらそう仰います。
「そうですわね、できれば円満に解消していただいて」
「領地に帰るっていうのはなし、だから、覚悟してね」
むむう、領地にかえりますわ、と言おうとしてアルフォンソ殿下に遮られてしまいましたわ。
思わずわたくしは淑女らしくなく、唇を尖らせてしまいます。
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