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10.魔法の詠唱は必要ですか?

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 どうやらやってしまったようです。でも、インベントリの広さは自分以外には分からないみたいですから、このまま黙っていましょう。

「どうですか?」
「え、ええ、別の場所に繋がった感覚がいたしますわ」
「本当ですか? 詠唱もなしで?」

 あら、インベントリも詠唱が必要ですの? でもわざわざ「インベントリ」なんて口にしたら、恥ずかしくありません?

「と、とりあえず、何か入れてみましょう。ちゃんとインベントリになっているか確認しませんと」
「確かにそうですわね。じゃあ、ウィンドカッター」

 あまり大きな声では言いたくありませんの小声で魔法を唱えます。

 本当は魔法を使うためには詠唱が必要らしいんですけれど、「風よ、鋭い刃となりて彼のものを切り刻め!」とか言わなくてはならないのですよ? わたくし見た目は9歳ですけれど、おばさんなんです。そんな恥ずかしいセリフは言いたくありません。

 それでしたら子供たちがやっていたゲームみたいに、技名? それとも魔法名? だけ呟けば魔法は発動しますもの、それでいいじゃありませんか。

 わたくしが「ウィンドカッター」と呟きますと、見る間に周辺の稲穂が刈り取られてばたばたと倒れていきます。一応根元の方に向かって魔法を放ちましたので、時折草葉の陰にいた虫やら小動物やらが飛び出してきますが、いやですわ、スプラッタになっていたりしませんわよね。

「お嬢様、いきなり魔法を放たないでください。もしイナホの陰に人がいたらどうするんです」

 呆れたようなため息と共に、バスティスがそう言ってきました。確かに、それはまずいですわね。

「賊とかが襲ってきたのなら仕方がありませんが、まず魔法を使う時は周囲に人や動物などがいないか索敵魔法を使って確認してください」
「索敵魔法、ですわね。分かりましたわ。サーチ」

 「サーチ」と呟きますと、わたくしを中心に魔法が広がっていきます。確かに、リスやいたち? のようなものがぽつりぽつりと稲穂の中で落ちたお米を食べているようです。

 どうしましょう、と思いつつも既に刈り取ってしまった分は収納します。もちろん「収納」の一言で刈り取った稲穂はインベントリに消えていきました。うふふこれは便利です。

 でも今は稲穂しか入っておりませんからいいですけれど、物がいっぱいになったら何が入っているか覚えていられるでしょうか。そんな事をわたくしが考えていましたら、目の前に半透明のボードのような物が現れまして、そこには稲穂の数が書き込まれておりました。ついでに言いますと、地面に落ちていた小石やらお米の粒やらも収納してしまっているようです。

 なんだか分かりませんけれど、これも便利ですわね。収納している物が一目でわかりますもの。でも小石は要りませんし、米粒はどうやら動物たちのご飯になってもいるようです。それに陸稲の場合、この落ちた米粒から次の芽が出てくるはずですから、全部回収してはいけません。

 小石は要らない、と思った瞬間にはばらばらと足元に小石が現れました。
 落ちていた米粒も同様です。

 思わずわたしは足元を見つめてしまいましたわ。

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