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44.学園長室での話はここだけに

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 そしてフリーダ嬢であるが、学園長の説明では短期留学という名目でやって来たらしい。

 取り合えず彼女の対応を終わらせた学園長が、涙目で俺たちに事情を説明してくれと言って来たのには、本気で驚いた。

 学園長だって、随分とお年を召した方で、それなりに色々と経験してきているはずなのに、それほどまでにフリーダ嬢は強烈だったんだろうか。

 もちろん学園長に説明を! と詰め寄られたエルネストは、乾いた笑いを浮かべていたんだが。

 なんだかよく分からないが、エルネストの苦労が偲ばれる。

 しかも学園長によると、彼女の編入試験の成績はあまり芳しくないらしい。一応、隣国の王太子の婚約者だという肩書に遠慮しているのか、持って回った言い回しをしていたが、要は頭が悪いってことだろう。

 フリーダ嬢もオースルンド侯爵家の令嬢としての教育を受けてきたはずだし、王太子妃教育も受けているのはずなのに、どうして編入試験の成績がそんなに悪いのか。

 そんな疑問が俺の表情に出ていたのだろう。エルネストは疲れたように溜息をついた。

「オースルンド侯爵家は、女性に高度な教育は必要ない、可愛く着飾って家の財を示せっていう感じでね」
「は? いや、王太子妃になるつもりなんだろう? 俺だって周辺諸国の言語は幾つか学んでるし、各国の歴史や国との関係やら知らないとまずいと思うんだが」
「うん、そうだね。普通は、そうなんだけどね……そんなもの分かる方に任せればいいのですわ、って言って聞く耳もたないんだ」
「うわぁ……本気で言って、るんだな、それ。相手国の王族が出てきたらどうするんだよ、一介の外交官が相手にできる訳ないだろうが」

 話を聞いていた学園長までもが渋い表情を浮かべ、どんどんエルネストに同情的になっている。さっきまでは学園長も、なんで隣国の厄介ごとをこの学園に持ち込んできたんだ、みたいな空気を出していたのに。

「しかも取り巻きの男どもも連れてきたんだろう? あいつらオースルンド侯爵の系列だから、基本フリーダ嬢の機嫌を損ねることは言わない。彼らの全員がそうではないが1人は完全に情夫みたいなものだし」
「ああ、そんな感じでございましたな。いきなり学園に編入させろ、エルネスト王太子殿下と同じクラスにしろ、編入試験? なぜ我々がそんなものを受けなければいけない、とこうでしたからな」

 どこか遠い目をしている学園長に、エルネストは頭を下げる。

「いやいや、エルネスト王太子殿下に頭を下げていただく必要はありませんぞ。この学園に入りたいのであれば入学試験を受けるか、編入試験を受ける必要があるのは当たり前のことですからな。それに年齢が違うものを同じ学年に編入させるなど、余程の事がない限りあり得んのですからな」

 まあ、それに関しては学園長もプライドがあるんだろう。

 ちなみに、余程の事とはどういった事かと尋ねれば、学園長は悲しそうな表情になった。何か不味い事でも聞いてしまったんだろうか。

「極まれにあるんですがな、年相応の勉強をさせて貰えなかったという子がいるんですよ」
「は?」
「この学園は貴族であれば15歳から必ず通わせなくてはなりません。これは我が国の法で決まっておりますからな。しかし、15歳で入学せずに16歳になってから、という者もいるのです」
「それは、どういう状況でそうなるんです?」
「……各家庭の事情は分かりませんが、嫡男だけに教育を施して、それ以降の子にはあまり手をかけない場合や、本人が病弱で療養していたため、とかですな。後は、まあ、色々とあります」

 あ、これは誤魔化したな、と思った。

 まあ、貴族は政略結婚が当たり前だから、基本的に嫡男以外の子供への関心は低い。そこは仕方がない事なのかもしれないが。しかし、だからと言って、二親の関係が子供にまで影響するのは、どうかと思った。

 けれど、それを俺がどうにかできるはずもない。ただ、そういう事実があるのだと、覚えておくことくらいだ。

 せめてベルグヴァイン領を賜った時に、少しでも生かせればいいのだが、いかんせんあの領には村民しかいないからな。

 隣領となるエイムズ伯爵領や、反対側にある領地の領主とは仲良くやっていきたいものだ。そして少しでも領民たちの生活を豊かにしてやれればいいのだけれど。

「取り合えずですな、フリーダ・オースルンド侯爵令嬢並びに令嬢が連れてきた御仁たちは、2学年のBクラスへの編入となっております。ただ留学期間は社交シーズン前までではないかと」

 俺が考え込んでいると、学園長がまた話し出した。しかし、フリーダ嬢はBクラスなのか。

 隣にいるエルネストを見れば、半目になっている。まさか自分の婚約者を名乗る女性が、そんな成績だという事実に、驚いているのか呆れているのか。

 けれどエルネストから告げられた言葉は、俺の予想を超えていた。

「これから多大な迷惑をおかけすると思いますが、何かあれば強制送還で構いませんので、よろしくお願いします」



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 新作「Good-bye Darling」(全12話執筆済)をUPしております。

 ついつい長編になってしまうので、短編を練習しようと思ったのと、今書いているものが長くなっているので、息抜きを兼ねて。
 話を短くまとめるのは中々難しいんですよね。あれこれ設定を考えてしまったり、人物像を掘り下げて行ってしまうと長くなるというか。あと1人称だと主人公の名前や容姿が出しずらい。ここら辺も気を付けて、これからも短編の習作がたまに上がると思いますので、そちらもよろしくお願いします。
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