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41.婚約者候補とは、どういうことですの?

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「あのね、あのね、お姉様、私、エルネスト殿下の婚約者候補になれそうなの」
「は、い?」

 一瞬わたくしは変な声が出そうになりましたわ。

 わたくしたちが王太后様の向かいのソファに座るとすぐに、得意げな表情のエイヴリルがいきなりそう言ったのです。

 妹は何を言っているのでしょう? 婚約者候補? 既にフリーダ様という婚約者がいらっしゃるのを知らないのかしら。それにフリーダ様と婚約を解消しても、アリソン様がいらっしゃるのよ?

 頭の中で色々な事がぐるぐると回りますが、妹に何を言えばいいのか分からず、わたくしはただ茫然とするしかありませんでした。

「エイヴリル」
「はい」

 すると王太后様がまたもや妹の名を呼びます。しかし今度は、妹もなぜ名前を呼ばれたのか分からなかったようですね。彼女たちの後ろに控えている年配の侍女の方が、静かな声で「エルネスト王太子殿下です」と言われましたので、敬称をつけろということなのでしょう。

 その言葉に、ほんのわずかではありますがエイヴリルの顔が顰められました。きっと煩いとでも思ったのかしら。 所作はマシになったようですが、やはり妹は相変わらずのようですわ。

 でも、それよりも婚約者候補という言葉を誰も指摘しないのでしょうか。わたくしとして、そちらの方が余程、重要だと思うのですけれど。

「そのように顔を顰めてはいけません」

 侍女の方には妹の表情は見えなかったと思うのですが、これもまた静かに訂正されましたわ。中々侮れない方のようです。

「まあ、それは置いておきましょう。それよりも暫くこちらに逗留させていただきたいのよ」

 そう言った王太后様の視線は、真っ直ぐクストディオ殿下に向けられておりました。

 聞けば今回の来訪は前もって予定を組んでいたものではなく、王太后様の周辺が姦しくなってきたため、そろそろ頃合いだろうとエルネスト王太子殿下の元へ来たのだとか。

 王太后様は、誰がとか、何がとか、そう言った事は何も仰いませんでしたが、エルネスト王太子殿下の事情を知っていれば、なんとなく察せてしまいます。

 それに夏の休暇前に、わたくし達はフリーダ様が来るかもしれない、というお話しも聞いていますので、ある意味納得してしまったといいますか。

 そんなわたくし達を見て、王太后様はほんの少し口元を綻ばせたように思えます。

「分かりました。至急、南の離宮に滞在できるよう取り計らいましょう。その前に一度、国王陛下にお会いしていただく事になるとはおもいますが」

 クストディオ殿下がそう口にすれば、背後で控えていらしたクレメンス様が、すっと学園長室から出ていきました。

 これは南の離宮への滞在許可と国王陛下への謁見の手配をしに行ったのでしょう、たぶん。

 なんとなく部屋から出ていくクレメンス様を視線で追いかけていると、ニマニマと笑う妹の顔が目に入りました。何をあんなに楽しそうに笑っているのか、わたくしには分かりませんわ。
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