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36.夏の休暇はとても有意義だったよ
しおりを挟む夏の休暇はとても意義のあるものになった。
初めて訪れたエイムズ伯爵領は、レオノーラ嬢が言うように可も不可もない街という印象ではあったけれど、それでも領民は皆、明るく快活で気前がいい。
これは、たぶん領主であるエイムズ伯爵家が、代々努力してきた結果なんだろうなと思った。
しかしもっと驚いたのは、領主一家と領民たちの距離が近かった事かな。
街を案内するレオノーラ嬢についていけば、どこに行っても挨拶をされる。私たちのことを余所者だと不審そうな視線を向けてくる事もなく。
そして私が隣国の王太子であると聞けば目を丸くして驚いたり、収穫したばかりの芋や野菜を籠いっぱいに渡そうとしてきたり、中にはエイムズ伯爵領でしか取れないという、ショーの実やソーの実という紫や茶の実を手渡してくるものまでいたんだ。
こんな風に気安く貴族や王族である自分たちに話しかけてくる平民なんて、今までいなかったから驚いたし、とても新鮮だった。
特にカレスティア王国では、貴族と平民の堺にはっきりと区別が付けられているからね。平民と話をするなんて城の文官たちか、視察で街に赴いた時くらい。
そのせいで貴族の一部ーー特に王都に屋敷を持つものたちーーは、平民を自分たちのためにある駒だと平気で言ったりもする。酷いと税金を納める家畜だと言い放つものもいるぐらいだ。
その考えには反吐が出る。
国王や貴族がいくらいても国は成り立たないのに。
土台となる国民がいるから国は成り立つ。それを理解していない貴族がどれほどいるのか、それを考えると頭が痛くなるくらい。
そして、その筆頭とも呼べるのがオースルンド侯爵家だったりするのだから、私も父も彼らのことが好きではなかったりする。
けれど、そのオースルンド侯爵家をどうにもできないのが、今の王族の不甲斐ない部分でもあるんだよね。
お爺様は民の事も考える優れた統治者ではあったけれど、同時に自分の周りにいる人間に甘さを見せる所があった。
だからこそオースルンド前侯爵の姉を婚約者として押し付けられたんだと思う。そしてなんとか婚約を破棄しても、結局は私にしわ寄せがきた。なんとも迷惑な話だよ。
そんな自国の一部の貴族たちを知っているからか、余計にこのエイムズ伯爵領の在り方は心に刺さった。もちろん私は一国の王太子だから、こういった民に寄り添った施策だけを行う訳にはいかないことくらいは理解しているけれど。
私たち王族の役割は、まず国益を考えなければいけないし、各地から納められる税金をどう割り振って使っていくのかも考えなくてはならない。
国民のための政策を施せば貴族は反発するし、貴族のいう事を一々真に受けていれば民が苦しむ。だからさじ加減が難しいんだ。父を見ていると本当にそう思うよ。
貴族の全てがエイムズ伯爵のような人物であれば、これほど私や父が悩むような事もないかもしれないけれど、こういう人物に限って中央での権力闘争には全く関心を示さないんだよね。
まあ、そのおかげでベルグヴァインで見つけた岩塩を、自分たちのものにするような事もなく、今回の調査に踏み切れている訳だけれど。
おかげで私は今後、クストディオから岩塩を手に入れる事が出来るようになるから、とてもありがたかった。
何せ、カレスティアは塩の取引のほとんどを1国に頼っているのが現状で、もしそことの関係が悪くなったら途端に塩が手に入らなくなる。
けれど、これでクストディオの領地から岩塩を購入できるようになれば、その1国だけに大きな顔をさせなくてもいい。そう思えば嬉しくて仕方がないよ。
だってその国は、何かあると、すぐに塩の値段を上げようとしてくるからね。
その度に父や外務大臣が眦を上げて特使と交渉しているんだよ。それをそのうち私がしなくてはいけなくなるわけだから、それを考えたらクストディオ様様なわけ。
まあ、私がそう思えるくらいにはベルグヴァインに眠る岩塩の量は多かった。
このために半年間頑張って魔法を勉強し、魔力量を増やしてきたレオノーラ嬢でも全体を把握できないくらいだったからね。今後も休み毎に調査範囲を広げていくと息まいていたから、出来れば私も付き合いたいと思うよ。
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更新頻度が落ちていて申し訳ありません。
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