上 下
27 / 46

27.なんで私ばっかり

しおりを挟む


 ずるい、ずるい、ずるい!

 なんで私は応接間から追い出されるの。

 お兄様もお母様もお姉様も、まるで私が悪いみたいに這いつくばって謝罪なんかして。私なにも悪いことしていないでしょう? 

 確かに勢いよく王子様に抱きついちゃったかもしれないけど。ちゃんと挨拶だってしたし、カッコいいって褒めてあげたのよ。

 だって、黒髪に王族特有のターコイズの瞳を持っているのが、お婆様が言ってた後ろ盾もない役立たずの第三王子なんでしょ。

 私だって本当は、あの第三王子の側にいた銀髪にアメジストみたいな瞳の王子様の方が良かったもの。でもなんか女がへばりついていたし、お姉様をエスコートしてきたのは第三王子だったし。

 お姉様を見る瞳が優しそうだったから、第三王子でもいいかなって思ったのに。

 それに第三王子に気に入って貰えれば、あんな女学校に行かなくても済むかもって、ちょっと思ったの。なのにお姉様が王子に私が女学校に行くって告げ口してた! あれは絶対私の方が可愛いから王子様を取られたくなくてお姉様がわざと言ったに違いないのよ。

 私ばっかりお婆様に可愛がられているからって、本当、女の嫉妬は醜いわ。

 お姉様は昔からそうなのよね、私にお母様のおばあ様から頂いたブランケットやしょぼいブレスレットを見せびらかしたり、私のより大きなぬいぐるみをお父様におねだりしてみたり。

 だから欲しがってみせたの。だって、そうするとお婆様が味方になってくれるし、お姉様から色んなものを取り上げることができたから。

 でも、所詮お姉様の持っているものって安物だったりしょぼかったりするから、クローゼットにしまいっぱなしなんだけど。だって、私にはお婆様やお爺様がくださった綺麗なものやお高いものがたくさんあるんですもの。もちろんワンピースやドレスだって、お姉様のものより良いものを持っているのよ。

 だからお姉様のものなんて本当は要らないんだけど。

 でもお姉様がわざと私に見せびらかすからいけないの。見せびらかされたら腹が立つでしょ。要らないものでも、目につかないようにするなら奪っちゃえばいいのよ。


 だけど、今回は違った。相手はこの国の王子様だもの。そりゃあお姉様だって取られたくなんてないわよね。

 でも、やっぱりお姉様がわざと見せびらかすのが悪いのよ。

 だから第三王子なんて要らないけど、お姉様が見せびらかせないように奪い取らなくちゃ。でないと私はいつまでたっても苛々ムカムカしてしまうもの。

 でもこの家には私の味方がいないの。

 最近、お婆様が領地からタウンハウスに来てくれなくなっちゃったのも、お父様が邪魔してるからだって、お婆様はお手紙で言ってたわ。

 お父様はずっと領地にいるから私の可愛さに気づいてないだけだと思うの。だからお母様のいう事を真に受けて、お婆様の自由を奪ってるんだと思うわ。

 だったら私がお父様に直接お会いしておねだりすれば万事解決だと思わない? そうよ、何で今まで気が付かなかったのかしら。

 行きたくもない女学校に行くよりも、お父様の所に行ってお願いした方が早いわよね。そうしたら、あんなダッサイ制服も着なくていいし、お婆様とまたお買い物に行ったり観劇に行ったりもできるだろうし、王子様だってきっと私の事を好きになってくれるはず!

 ナイスアイデアだわ。

 でも、そうすると今すぐにでもお父様の所に行かなくちゃいけないわよね。

 ちらりと私の部屋の扉の横に目を向ければ、私を見ながら椅子に腰かけているメイドのエリスがいた。

 王子の側に居た偉そうな男が、うちの執事になんか指示を出したのよね。そうしたら執事が私を部屋に押し込んで、ついでにあの子を置いていったの。

 話し相手とか言ってたけど、あれ絶対見張りでしょ。

 というかねぇ、なんでうちの執事があんな男の指示を聞いてるのよ。お前らの主人はあの男じゃないわ、私でしょ。

 本当にお婆様がタウンハウスに来なくなってから、メイドも執事もお母様のいうなりで私のいう事なんて聞いてくれなくなったし、お姉様もやたらと反抗的だし、嫌になっちゃうわ。

 だからやっぱりお父様にジカダンパンしないといけないわよね。

 どうしようかしら。ここから抜け出すにしてもか弱い私ひとりじゃ難しいし。誰か協力者が必要よね。でも、前みたいに私のいう事を聞くメイドもいないし。

 なんて私が考えていると扉をノックする音が聞こえた。

 すぐそこに座っていたエリスが対応したみたい。そうしたら部屋の中にお母様が入って来たじゃない。しかも思いつめたような青白い顔をしちゃって。具合が悪いなら部屋に帰って寝ていればいいのに。いったい何の用?

「……反省は、していないみたいですね」

 私の事をじろりと見たお母様は、これみよがしに溜息をついた。感じ悪いわ。

「エイヴリルはもうコルネリア女学校に行かなくて結構」

 でも、まさかの言葉がお母様の口から飛び出した。

「本当?! 行かなくてもいいの?」

 私思わず踊り出しそうになったわ。だってあんなダッサイ制服を着なくてもいいのよ! それだけでも嬉しいわ。

「ええ、その代わり修道院に入ってもらいます」
「はい?」

 でも、そんな私の喜びは、一瞬のうちに消え去った。

 え、今、お母様なんて言ったの? シュウドウイン? シュウドウインって何?

「お義母様があまりにも煩かったので、あなたの教育はお任せしたのですけれど、第三王子殿下へのあの態度を見る限り、まともな礼儀作法も学べてはいないようですからね」

 そこで一息ついたお母様は、お姉様と同じ杏子色の瞳で私を睨みつける。

 どうして? そんな冷たい瞳で私を見ているの? 

 いつもいつもお姉様ばっかり贔屓して、私の事を放っておいたのはお母様の方じゃない。

 そんな私が可哀そうだからってお婆様は、私を可愛がってくれたのよ。なのに、そんな優しいお婆様まで馬鹿にするの?

「元々お義母様は子爵家の方でしたものね、高位貴族の礼儀作法も知らなかった可能性はあるのかしら。ああ、でもそうね、お義父様のご両親は早くに亡くなっておりましたわ。それにお義父様もあまり社交はお好きではなかったわね……」

 青白い顔でボソボソと呟くお母様は、なんだか不気味だった。でも、このまま黙っていたら私はシュウドウインっていうところに行かなくちゃいけないみたい。

「お母様! 私は嫌よ、そんな訳が分からないところになんか行きたくないわ」
「……訳が分からない場所ではありません。神の御許で神のために祈り、清廉な生活を送る場所です。もちろん教養も礼儀作法も教えてくださるでしょう。女学校にも修道院にも連絡を取る必要がありますから、数日はこの部屋で大人しく過ごしててちょうだい」

 お母様は、それだけ言うとエリスを連れて部屋を出て行ってしまった。そして部屋の外から鍵をかける音が聞こえて。

 なんで? 神? 祈り? セイレンな生活って何よ? せっかく女学校に行かなくていいって言ったのに、教養に礼儀作法を教えてもらえる? 意味が分からないわ!

 しかも部屋に鍵をかけるなんて、子供への虐待よ。早くお婆様かお父様に連絡をしなくっちゃ。

 でも、どうやったら?

 私は呆然とベッドに腰かけて部屋のドアを暫く見つめるしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を顧みず幼馴染ばかり気にかける旦那と離婚して残りの人生自由に行きます

ララ
恋愛
夫と結婚してもう5年経つ。 私は子爵家の次女。 夫は男爵家の嫡男。 身分的には私が上だけれど下位貴族なのであまりそこは関係ない。 夫には幼馴染がいる。 彼女は没落した貴族の娘。 いつだって彼女を優先する。 結婚当初からちょくちょく相談を夫に持ちかけたり呼び出しがあったり‥‥。 最初は彼女も大変だろうから行ってあげて、と送り出していたがあまりに多い呼び出しや相談に不快感は増すばかり。 4話完結のショートショートです。 深夜テンションで書き上げました。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

処理中です...