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27.なんで私ばっかり
しおりを挟むずるい、ずるい、ずるい!
なんで私は応接間から追い出されるの。
お兄様もお母様もお姉様も、まるで私が悪いみたいに這いつくばって謝罪なんかして。私なにも悪いことしていないでしょう?
確かに勢いよく王子様に抱きついちゃったかもしれないけど。ちゃんと挨拶だってしたし、カッコいいって褒めてあげたのよ。
だって、黒髪に王族特有のターコイズの瞳を持っているのが、お婆様が言ってた後ろ盾もない役立たずの第三王子なんでしょ。
私だって本当は、あの第三王子の側にいた銀髪にアメジストみたいな瞳の王子様の方が良かったもの。でもなんか女がへばりついていたし、お姉様をエスコートしてきたのは第三王子だったし。
お姉様を見る瞳が優しそうだったから、第三王子でもいいかなって思ったのに。
それに第三王子に気に入って貰えれば、あんな女学校に行かなくても済むかもって、ちょっと思ったの。なのにお姉様が王子に私が女学校に行くって告げ口してた! あれは絶対私の方が可愛いから王子様を取られたくなくてお姉様がわざと言ったに違いないのよ。
私ばっかりお婆様に可愛がられているからって、本当、女の嫉妬は醜いわ。
お姉様は昔からそうなのよね、私にお母様のおばあ様から頂いたブランケットやしょぼいブレスレットを見せびらかしたり、私のより大きなぬいぐるみをお父様におねだりしてみたり。
だから欲しがってみせたの。だって、そうするとお婆様が味方になってくれるし、お姉様から色んなものを取り上げることができたから。
でも、所詮お姉様の持っているものって安物だったりしょぼかったりするから、クローゼットにしまいっぱなしなんだけど。だって、私にはお婆様やお爺様がくださった綺麗なものやお高いものがたくさんあるんですもの。もちろんワンピースやドレスだって、お姉様のものより良いものを持っているのよ。
だからお姉様のものなんて本当は要らないんだけど。
でもお姉様がわざと私に見せびらかすからいけないの。見せびらかされたら腹が立つでしょ。要らないものでも、目につかないようにするなら奪っちゃえばいいのよ。
だけど、今回は違った。相手はこの国の王子様だもの。そりゃあお姉様だって取られたくなんてないわよね。
でも、やっぱりお姉様がわざと見せびらかすのが悪いのよ。
だから第三王子なんて要らないけど、お姉様が見せびらかせないように奪い取らなくちゃ。でないと私はいつまでたっても苛々ムカムカしてしまうもの。
でもこの家には私の味方がいないの。
最近、お婆様が領地からタウンハウスに来てくれなくなっちゃったのも、お父様が邪魔してるからだって、お婆様はお手紙で言ってたわ。
お父様はずっと領地にいるから私の可愛さに気づいてないだけだと思うの。だからお母様のいう事を真に受けて、お婆様の自由を奪ってるんだと思うわ。
だったら私がお父様に直接お会いしておねだりすれば万事解決だと思わない? そうよ、何で今まで気が付かなかったのかしら。
行きたくもない女学校に行くよりも、お父様の所に行ってお願いした方が早いわよね。そうしたら、あんなダッサイ制服も着なくていいし、お婆様とまたお買い物に行ったり観劇に行ったりもできるだろうし、王子様だってきっと私の事を好きになってくれるはず!
ナイスアイデアだわ。
でも、そうすると今すぐにでもお父様の所に行かなくちゃいけないわよね。
ちらりと私の部屋の扉の横に目を向ければ、私を見ながら椅子に腰かけているメイドのエリスがいた。
王子の側に居た偉そうな男が、うちの執事になんか指示を出したのよね。そうしたら執事が私を部屋に押し込んで、ついでにあの子を置いていったの。
話し相手とか言ってたけど、あれ絶対見張りでしょ。
というかねぇ、なんでうちの執事があんな男の指示を聞いてるのよ。お前らの主人はあの男じゃないわ、私でしょ。
本当にお婆様がタウンハウスに来なくなってから、メイドも執事もお母様のいうなりで私のいう事なんて聞いてくれなくなったし、お姉様もやたらと反抗的だし、嫌になっちゃうわ。
だからやっぱりお父様にジカダンパンしないといけないわよね。
どうしようかしら。ここから抜け出すにしてもか弱い私ひとりじゃ難しいし。誰か協力者が必要よね。でも、前みたいに私のいう事を聞くメイドもいないし。
なんて私が考えていると扉をノックする音が聞こえた。
すぐそこに座っていたエリスが対応したみたい。そうしたら部屋の中にお母様が入って来たじゃない。しかも思いつめたような青白い顔をしちゃって。具合が悪いなら部屋に帰って寝ていればいいのに。いったい何の用?
「……反省は、していないみたいですね」
私の事をじろりと見たお母様は、これみよがしに溜息をついた。感じ悪いわ。
「エイヴリルはもうコルネリア女学校に行かなくて結構」
でも、まさかの言葉がお母様の口から飛び出した。
「本当?! 行かなくてもいいの?」
私思わず踊り出しそうになったわ。だってあんなダッサイ制服を着なくてもいいのよ! それだけでも嬉しいわ。
「ええ、その代わり修道院に入ってもらいます」
「はい?」
でも、そんな私の喜びは、一瞬のうちに消え去った。
え、今、お母様なんて言ったの? シュウドウイン? シュウドウインって何?
「お義母様があまりにも煩かったので、あなたの教育はお任せしたのですけれど、第三王子殿下へのあの態度を見る限り、まともな礼儀作法も学べてはいないようですからね」
そこで一息ついたお母様は、お姉様と同じ杏子色の瞳で私を睨みつける。
どうして? そんな冷たい瞳で私を見ているの?
いつもいつもお姉様ばっかり贔屓して、私の事を放っておいたのはお母様の方じゃない。
そんな私が可哀そうだからってお婆様は、私を可愛がってくれたのよ。なのに、そんな優しいお婆様まで馬鹿にするの?
「元々お義母様は子爵家の方でしたものね、高位貴族の礼儀作法も知らなかった可能性はあるのかしら。ああ、でもそうね、お義父様のご両親は早くに亡くなっておりましたわ。それにお義父様もあまり社交はお好きではなかったわね……」
青白い顔でボソボソと呟くお母様は、なんだか不気味だった。でも、このまま黙っていたら私はシュウドウインっていうところに行かなくちゃいけないみたい。
「お母様! 私は嫌よ、そんな訳が分からないところになんか行きたくないわ」
「……訳が分からない場所ではありません。神の御許で神のために祈り、清廉な生活を送る場所です。もちろん教養も礼儀作法も教えてくださるでしょう。女学校にも修道院にも連絡を取る必要がありますから、数日はこの部屋で大人しく過ごしててちょうだい」
お母様は、それだけ言うとエリスを連れて部屋を出て行ってしまった。そして部屋の外から鍵をかける音が聞こえて。
なんで? 神? 祈り? セイレンな生活って何よ? せっかく女学校に行かなくていいって言ったのに、教養に礼儀作法を教えてもらえる? 意味が分からないわ!
しかも部屋に鍵をかけるなんて、子供への虐待よ。早くお婆様かお父様に連絡をしなくっちゃ。
でも、どうやったら?
私は呆然とベッドに腰かけて部屋のドアを暫く見つめるしかなかった。
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