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23.知恵を貸して欲しいと言ったのだが
しおりを挟む「実は、学園を卒業した後なんだが、私はベルグヴァイン公爵を賜る事になっている」
俺の言葉に、アラステアは驚いたのか目を見開いた。彼の隣に座っているアポロニア嬢もまた、微笑みを浮かべているが、手にした扇子を広げた事から、やはり驚いたのだと思う。
「まあ、まだ3年あるから決定ではなく、予定ではあるのだが。その反応を見る限り、ベルグヴァインの所領がどんなものか分かっているようだな。そこでエイムズ伯爵の知恵を借りたいのだ」
「……成程、確かに、あの領は人が暮らせる領地はそれほど広くはありませんし、領民も自分たちが食べていくのが精いっぱいな所です。税金に関しても物納で、確か一番安い税率だったかと。それに商店も宿屋もありませんし、生活するにはかなり不便な場所ですね」
アラステアの言葉に、俺はやはりな、という思いが強かった。
何代か前の王弟だかが、同じようにベルグヴァインを賜ったようだったが、何もない領地は代官に任せ、本人は王都で暮らしていたと聞いている。それに、父も屋敷を建ててやるなんて言っていたぐらいだから、貴族が住むような屋敷も何もないんだろう。
これは、やはり嫌がらせかな。なんだか哀しいような哀しくないような、何とも言えない気分になった。
「……商店も宿屋もないのか」
「はい。月に何度か我が領の商人が行商に行っております」
「……やはり、あまり期待されていないのだな」
ぽそりとそんな事を呟けば、一瞬あたりがしんとした。
不味い、そう思っても口にしてしまった言葉が戻る事はない。
「……そ、そんな事はないと思いますわ!」
俺の隣で、少しだけ身体を俺の方に傾けたレオノーラは言った。
優しいな、なんて思ったが、なんだか気を遣われているようで居た堪れない。
「いや、今のは失言だった忘れて……」
「違います! おと、いえ、陛下はクストディオ殿下に期待されているのだと思います」
俺の方をしっかりと見て、レオノーラはやけにはっきりと言い放った。
その言葉の強さに、俺は何を根拠に、なんて思う。
「お兄様、地図はお持ちですわよね?」
だがレオノーラは俺の思いに気が付くはずもなく、何故かアラステアに地図を要求していた。
地図?
そんな高価なものをエイムズ伯爵家は所有しているのか? まあ、自領の地図であれば、どこの領主もそれなりに作成していたりするものだが、基本的に地図は秘匿されるものだ。
それは、自領の街道やら主要都市、町、村の場所が記載されていたり、畑の割合や森に鉱山、辺境伯領のような場所では関や砦なども記載されるからで、その情報が握られれば、他国から攻め込まれたり、他領に乗っ取りをかけられたりする可能性がある。
だから、それを他人にほいほい見せる事はあり得ないし、いくら嫡男だとてそんな貴重なものを所持しているなんておかしいのだ。
しかし俺の戸惑いを余所に、アラステアは着ていたフロックコートの内ポケットから長方形の何かを取り出した。地図にしては小さすぎるし、厚みもない。
「えーと、わたくしの方は、これですわね」
レオノーラの声に隣を見れば、レオノーラはレオノーラで、ドレスの隠しポケットからマジックポーチを取り出していた。
そして2人して何やらじいっと、それを見つめている。
「もしかして、それもマジックバックなのかな?」
2人の行動に興味をそそられたのだろうエルネストが、椅子から立ち上がって俺たちの方へとやってきた。
「あ、はい、そうです。これ自体は、それ程容量はありません。たぶんこの部屋の半分もないかと」
「そうなのか」
「ええ、でも、容量が少なくても、こうやって使えば」
そう言いながらアラステアは、長方形のそれの口を開くと中からまた同じものを取り出した。エルネストの目がキラキラと輝く。
「同じものを幾つもそれに入れているのか!」
そう言われて俺も、その事に気づいた。
確かに容量の少ないマジックバックなら、値段もそこそこ安いだろう。それなら沢山は無理でもいくつかは購入する事が出来るはずだ。
「ええ、研究に必要な資料ですとか、領の経営に関するものですとか、必要なものごとに分けて入れておけば執務室が紙に埋もれる事も、部屋が本に埋もれる事もないんです」
アラステアの言葉に、思わず俺たちは唸ってしまった。
俺にはそれほど国の仕事が回ってくることはないが、エルネストは王太子だから、それなりに仕事というか書類が回ってくるのだろう。控えていた侍従を呼び寄せて、早速マジックバックの購入を指示していた。
ーーーーーーーーーー
兄のマジックバックは長財布のイメージです。とは言っても紙幣がある世界ではないので、間仕切りはなく、折り返しで蓋があるような感じですね。ちなみにお値段は金貨1枚。
レオノーラのマジックポーチよりも安いのは、容量が少ないのと、普通に小切手帳くらいしか入らない見た目だからです。一見、魔道具には見えないシリーズらしいですよ。
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