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14.クストディオ殿下は天然タラシでございますの?
しおりを挟む「それにしても、確かに妹を甘やかす祖父母も悪いのでしょうけれど、あなたが我慢すればいいっていうのはおかしいわ。それに祖父母にとったらあなただって孫でしょうに」
わたくしは、まだそれほど親しくはないのに怒ってくださるアリソン様のお気持ちが嬉しいですわ。
「わたくしの髪も目の色も母譲りの色なので、とくに祖母が、わたくしは可愛くないと」
「いや、なんだそれは。レオノーラ嬢は充分可愛いと思うんだが」
いきなりクストディオ殿下にそう言われて、わたくしはびっくりしてしまいました。でも、そう言ってくださるお気持ちが、やはり嬉しいですわ。
「そうよ、そんな理由であなたを否定するなんて、なんて人なの! お兄様だっているのでしょ、どうして誰も反論してあげないの」
「いいえ、お兄様もお母様もお婆様に文句を言ってくださいました。けれどお兄様はまだ瞳の色がお父様と同じ色ですし、嫡男でもありますから何となく話は聞いてくださるんですけれど、お母様が文句を言うと、あなたは生意気だと、なんであなたのような者が嫁なのだとお婆様がヒステリーを起こすので」
「お爺様は?」
「お爺様は、わたくしも可愛い孫には変わりはないと。けれど、お婆様がああだから、すまんなとよく謝られましたわ」
わたくしがそう言いますと、みなさん溜息をつかれました。本当に申し訳なく思いますわ。こんなどうしようもない話をお聞かせする事になるなんて。
「そんな髪の色とか瞳の色とかだけで孫を差別するの? そういうお婆様はどんな色をしているというの」
理解できないものに出くわしたような、戸惑いを含んだ声に、わたくしは苦笑いを浮かべます。
「お婆様は髪は金髪、瞳は鮮やかなエメラルドグリーンですわ」
わたくしが応えますと、皆様が納得した顔をされました。
「そういうことか」
「自分の目の色を継いでいるからなのね」
「でも、酷いよな」
幼い頃はわたくしもエメラルドグリーンの瞳だったら良かったと、何度そう思ったか分かりません。
「艶々としたチョコレート色の髪も、温かな太陽のような瞳の色も、俺はとても綺麗だと思うんだけどなぁ」
お父様もお母様もお兄様も、お婆様の言葉など気にするなとわたくしを慰めてくださいましたが、お婆様の横暴も、妹の欲しがる癖も、どうにもならないものとして諦めていたように思います。そして、わたくしだけが被害を受けているうちは、結局、どうにもなりませんでした。
わたくしが頑張ってお小遣いを貯めて、マジックポーチを手にするまで、そして被害がお母様やアポロニア様に向かうまで、わたくしは耐えさせられたのです。
でも、今、クストディオ殿下がわたくしの瞳を温かな太陽のような色と仰ってくださった。
「それに杏子色なんて、秋の実りの色だろう? 喜ばしい色で悲しむ必要なんてどこにもないよ」
秋の実りの色。喜ばしい色。
そんな優しくも温かい言葉をクストディオ殿下に言われたわたくしは、自分の顔が真っ赤になっているのが分かりました。だって、頬に両手を当てると熱いですもの。
「ちょ、おま」
「あら、あらあら」
ふとアリソン様に視線を向ければ、再び扇子で口元を隠していらっしゃいますけれど、目がニヨニヨと笑っていらっしゃいましたわ。
「ん? どうした?」
そしてアリソン様とエルネスト王太子殿下から、視線を向けられたクストディオ殿下は、ちょっと小首を傾げていらっしゃいます。
「「無自覚か!」」
アリソン様とエルネスト王太子殿下の声が重なりました。たぶん、思わず突っ込んでしまったのでしょうけれど、お二人とも仲が良くていらっしゃいますのね。
「何がだ」
けれど何を言われたのか分からないクストディオ殿下は、憮然とした表情を浮かべました。
わたくしはまだこの方たちとの付き合いは数時間ではありますが、一つだけクストディオ殿下について分かった事がありますわ。
クストディオ殿下は天然タラシでございますのね。
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