[完結]Good-bye Darling

村上かおり

文字の大きさ
11 / 12

11.

しおりを挟む

 
「偽造した書類だと知りながら、お前は陛下に押印をお願いしたらしいな」

 そう言ったエヴァン殿下の隣で、オースティン王太子殿下が深い、深いため息をつかれました。

「そのせいで陛下は兄上に王位を譲って退位される事が決まった」
「王妃も泣いて喚いていましたが、陛下と共に退位されます。お兄様はまだご成婚されておりませんので、王太后様が一時的に職務に復帰し、大急ぎで婚姻の儀をしなくてはならなくなりました」

 まるで私たちの存在を忘れたかのように、殿下方がリーリア殿下に向かって話を続けます。

 どう聞いても国の大事が目の前で話されている事に、頭が痛くなってきました。

「私も血の繋がった妹を処刑するのは気が塞ぐ。だから、という訳ではないがお前たちには二つの選択肢を用意した。一つは貴族としての存在は抹消されるため、平民として生きて行く。しかしリーリアに王族の血が流れていることには変わりがない。そのために妊娠できないよう処置をしてからという事になる。二つ目は2人揃って北の塔に幽閉。さあ、どちらを選ぶ」

 この時になってようやくリーリア殿下の猿轡が外されました。

 先ほどまで元気よく暴れておりましたが、最後のオースティン王太子殿下の言葉が衝撃的だったのでしょうか、大きな目を見開いてボロボロと涙を零しております。

「……そ、んな、お兄様、ひ、どい事おっしゃら、ないで……」
「酷い事? お前はまだ自分の犯した罪が分かっていないのか」
「罪ってなによ、わたくしはクライヴを好きになっただけ。だから一緒に居たくて」
「クライヴが既婚者なのは知っていただろう」
「知らないわ! 他の騎士たちは奥様の話とか子供の話をしていたりするけど、クライヴはそういう話はしなかったもの」

 泣きわめくわけではありませんが、次々と紡がれる言葉に、私も溜息をつきたくなりました。

 確かに私とクライヴは政略結婚です。侯爵家の三男だったクライヴは、私と結婚することで平民になる事もなく、近衛騎士になる事も出来ました。

 そしてランバート侯爵家としても、テレンス家という王家の信用が厚い家と繋がりを持て、嫡子も得られたのです。

 ですがリーリア殿下の今の言葉で、クライヴに私への愛情の一欠けらも存在していない事が証明されたような気がしました。

 これで私がまだ結婚したばかりの頃であれば、悲しくて胸が張り裂けるような思いをした事でしょう。けれど今の私には、あの頃のようなクライヴに対する気持ちはありません。

 ボロボロに擦り切れて、乾いてヒビの入った枯れ葉のように、ぐしゃりと握りつぶされて粉々になった恋心は、決して元に戻る事はないのです。

 そして何故か縋るような視線を向けてくるクライヴに、私は首を傾げました。

 さすがに何か言おうとはしておりませんが、その琥珀色の瞳が私に助けてくれと言っているようです。

 どうして、ここで私に縋ろうとするのでしょうか。

 だって、あなたは私と娘を捨て、リーリア殿下を選んだのでしょう? 偽造の離婚届まで作成して、なのに助けて欲しいだなんて虫が良すぎるとは思わないのかしら。

 それにいくら偽造であっても陛下の押印があるのなら、あなたと私はもう既に他人なの。アマンダの事を考えると、それだけは悔しくて許しがたいけれど、あなたとヨリを戻すつもりなんて更々ないわ。

「シェリル嬢」

 微かな声で呼ばれた名前に、私は唇の端を持ち上げて笑ってしまいます。

 そんな私の様子に、オースティン王太子殿下やエヴァン殿下の視線が向けられました。

「何か言いたい事があるのなら今のうちに言ってしまった方がよろしくてよ?」

 その上、ケイリー殿下が、そんな事を仰ってくださいます。

「……初めてお名前を呼んでいただけましたわね、クライヴ・ダーリン……様でよろしいのかしら。クライヴ・ランバートとは既に離婚が成立しているようですから、私には何も申し上げる事はありませんわ」

 私がそう言うと、ケイリー殿下の目が吊り上がりました。たぶん、初めて名前を呼んだ、という部分に引っかかりを覚えたのでしょう。

 そうなんですよ殿下。私が婚約者だった時も、結婚してからもシェリルという名前を呼んでいただいたことはなく、クライヴにはいつもランバート嬢と呼ばれていましたわ。

「ああ、でも、私の細やかな思い出のために、最後に一言だけ」

 そう言ってクライヴの目をしっかりと見つめます。私の思いを知ってか知らずか、クライヴはごくりと喉を鳴らしたようです。

「……さようなら、Ms.ダーリン、もう二度と会う事もないでしょう」

 私のその一言で、クライヴはなぜか俯いて涙を流し始めました。けれど今さら悔やんでも遅いのです。全てはあなたが選んだものなのだから。

 本当に、さようなら、私の恋心クライヴ






Fin.



ーーーーーーーーーー

 長編になりがちなので、息抜きもかねて短編を書いてみました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つき

金峯蓮華
恋愛
辺境伯令嬢のマリアリリーは先見の異能を持っている。幼い頃、見えたことをうっかり喋ってしまったばかりに、貴族学校で5年もの間「嘘つき」と言われイジメを受けることになった。そんなマリアリリーのざまぁなお話。 独自の世界観の緩いお話しです。

夫は運命の相手ではありませんでした…もう関わりたくないので、私は喜んで離縁します─。

coco
恋愛
夫は、私の運命の相手ではなかった。 彼の本当の相手は…別に居るのだ。 もう夫に関わりたくないので、私は喜んで離縁します─。

陰で泣くとか無理なので

中田カナ
恋愛
婚約者である王太子殿下のご学友達に陰口を叩かれていたけれど、泣き寝入りなんて趣味じゃない。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

それでも好きだった。

下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。 主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。 小説家になろう様でも投稿しています。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

幼なじみの王子には、既に婚約者がいまして

mkrn
恋愛
幼なじみの王子の婚約者の女性は美しく、私はーー。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

セラフィーネの選択

棗らみ
恋愛
「彼女を壊してくれてありがとう」 王太子は願った、彼女との安寧を。男は願った己の半身である彼女を。そして彼女は選択したー

処理中です...