[完結]Good-bye Darling

村上かおり

文字の大きさ
6 / 12

6.

しおりを挟む
 


 思わず呆然とオースティン王太子殿下を見つめてしまいました。

「これが、その証拠だね」

 トレバー様がテーブルの上に、幾つかの書類を広げて置いてくださいました。

「クライヴ・ランバートに与えられた家名は、ダーリンというものだ。よってクライヴ・ランバートはクライヴ・ダーリンと改名された。そして誠に申し訳ないのだが、我が妹リーリアの我儘により、クライヴとリーリアの婚姻が成されたのだ」

 私に事情を説明してくださっているオースティン王太子殿下の表情は、かなり厳しいものです。なんだか私が怒られているような気分になってしまいますが、私の腕の中にいるアマンダはきょろり、きょろりと殿下を見たり、テーブルの上に広げられた書類を見たりしているので、緊張感がそがれます。

 ですが、殿下の言葉をしっかりと理解している事を示さなくてはなりません。ですから私は確認のためにも口を開きました。

「……功績で男爵位を頂いて、その際に新しい家名を貰った、と。それでその新しい名前で王女様と結婚したという理解でよろしいでしょうか」
「ああ、その理解で間違いはない」

 オースティン王太子殿下は概ねの部分だけやたらと強調されましたけれど、それはいったいどういう事なのでしょう。けれど私の疑問が解消する間もなく姉がいきなり立ち上がりました。

「それは、家名が違えば別人だと判断されるという事でしょうか」

 そして質問というよりは追及のような厳しさで、姉がオースティン王太子殿下に問いかけます。

「よしなさい、アメーリア」

 父が慌てて姉を止めようとしましたが、オースティン王太子殿下は特に気にされていないようでした。

「よい、その質問は最もである。こちらでも法典などを漁ってみたのだが、こういう事例は初めての事で、これからその抜け道を塞ぐために法の整備をする事になっている。それで問題になるのが、そのアマンダ・ランバート嬢についてなのだ」

 娘の名前を呼ばれ、私は何を言われるのか分からずに、びくりと身体を揺らしてしまいます。

「こちらの書類の日付を確認していただきたい。まずアマンダ嬢が生まれたのは、7の月の28日であっているか」
「はい」
「では、次にクライヴの新しい家名の申請書類だ。これは、7の月の20日に提出となっている。その数日前の7の月の18日に離婚届の書類が提出されているのだが、この記載に間違いはないか」
「……私はサインをした覚えはありません」

 まじまじと手元に置かれた書類を見つめた私は、思いのほか冷静に否定の声を上げていました。

 確かにそれは離婚の申請をする書類で、クライヴと私の名前が記入されています。けれど、どうみてもそのサインは私の字ではなかったのです。

 となると誰の字かという事と、偽造書類ではないかという問題が浮かび上がってきます。

 クライヴ、あなたは何をやっているの。

 思わず私はそう叫んでしまいそうでした。

 それに、夫は知らなかったと思いますが、この書類が提出された日付はアマンダの出産予定日とされていた日です。

 元から予定通りに出産する人は稀だとお医者様にも言われていたので、出産日になっても陣痛が始まらず、なんとなくソワソワしつつ過ごしていた日に、この人は。

 そう思うと目頭がじんわりと熱を帯び、今にも涙が溢れてしまいそうです。

 けれど、あんな男の前で涙なんて流したくはありません。

 だから私は、力の限り奥歯を噛み締めて涙を堪えました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。 侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。 そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。 どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。 そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。 楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。 ※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡

わたしはただの道具だったということですね。

ふまさ
恋愛
「──ごめん。ぼくと、別れてほしいんだ」  オーブリーは、頭を下げながらそう告げた。  街で一、二を争うほど大きな商会、ビアンコ商会の跡継ぎであるオーブリーの元に嫁いで二年。貴族令嬢だったナタリアにとって、いわゆる平民の暮らしに、最初は戸惑うこともあったが、それでも優しいオーブリーたちに支えられ、この生活が当たり前になろうとしていたときのことだった。  いわく、その理由は。  初恋のリリアンに再会し、元夫に背負わさせた借金を肩代わりすると申し出たら、告白された。ずっと好きだった彼女と付き合いたいから、離縁したいというものだった。  他の男にとられる前に早く別れてくれ。  急かすオーブリーが、ナタリアに告白したのもプロポーズしたのも自分だが、それは父の命令で、家のためだったと明かす。    とどめのように、オーブリーは小さな巾着袋をテーブルに置いた。 「少しだけど、お金が入ってる。ぼくは不倫したわけじゃないから、本来は慰謝料なんて払う必要はないけど……身勝手だという自覚はあるから」 「…………」  手のひらにすっぽりと収まりそうな、小さな巾着袋。リリアンの借金額からすると、天と地ほどの差があるのは明らか。 「…………はっ」  情けなくて、悔しくて。  ナタリアは、涙が出そうになった。

処理中です...