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しおりを挟むこの結婚が政略だという事くらい、私は理解しているつもりでした。
ですから、婚約している間、碌にデートが出来なくても、私はあなたに文句を言った覚えはありません。それよりもお仕事に邁進しているあなたを誇らしく思っていたくらいです。
それに、婚約者として紹介されたクライヴ様は、サイドだけ少し長めの艶やかなブルネットの髪に、温かな色合いのアンバーの瞳を持つ、逞しくてとても素敵な方だったので、無口で不愛想でも気になりませんでした。
なぜならこの時、私は恋に落ちていたのです。
この婚約はすぐさま整いました。
なぜなら本来であれば姉がこのランバート家を継ぐはずだったからです。
けれど、姉が貴族学校で出会ったファーナビー小公爵に婚約を申し込まれた事で、スペアであった私がランバート侯爵家を継ぐことになってしまいました。
その事は姉にもファーナビー小公爵にも、嫌というほど謝られましたが、嫡子のスペアであった私は、どうせそのうちどこかの家に嫁がせられると思っていましたから、2人に罪悪感など持って欲しくはありません。
ただ、学業だけでなく侯爵家を継ぐためのーー領地経営についてや書類の見方、王城に提出する書類の作成、税の計算、お付き合いのある貴族や派閥についてーー勉強も増え、忙しくなってしまいましたから、あなたが私に会いに来なくても、あまり気にする余裕がなかったのです。
だから私はあなたが裏切るなんて考えてもおりませんでした。
けれど学園を卒業して、あなたとの婚姻を済ませたところで私にも若干の余裕が生まれました。すると今まで見えていなかったものが見えてくるというものです。
ねえ、あなた。
私が学校の勉強や後継者としての勉強でいっぱいいっぱいになっている時に、あなたは何をなさっていたの?
騎士見習いとして騎士団の寮で身体を鍛え、騎士と認められてからは王都の警備をしていたのでしたっけ。
ああ、そうでした。
それで城下の街を散策していた第二王女様を暴漢からお助けしたのでしたね。そのおかげで近衛騎士になれそうだと、私の元に久々に訪れた時に嬉しそうに仰っていた事は、はっきりと覚えておりますわ。
そして早く私と結婚したいと、その美麗な顔に朱を浮かべて、仰ってくださいました。
だから私も勘違いしてしまったのです。
婚約者として不甲斐ない私ではありましたが、あなたはこんな私と一緒になりたいと思ってくれているのだと。
ですから卒業後すぐの結婚にも私は異を唱えることはありませんでした。
だって、望まれているのですもの。それを叶えることに何の不都合がありますでしょうか。
本来であれば私たちの婚姻は、私が貴族学校を卒業した半年後に行う予定でおりました。ですからお父様にもあなたのお父様であるテレンス侯爵にも、無理をさせてしまいましたわ。
その点はとても心苦しかったので、招待客を選ぶのも招待状を書くのも、式場を予約するのもウェディングドレスを選ぶのにも、あなたがいなくても我慢しました。
それでも早くあなたと結婚できると思うと、私はとても嬉しかったのです。
けれど私たちの結婚生活は、さほど楽しいものではありませんでした。
なぜなら私たちの婚姻を機に、夫となったクライヴに騎士団から近衛騎士団への移動が命じられたのです。
普通、夫が近衛騎士になるなんて、とても喜ばしいことだと思います。
それは夫の騎士としての実力を認められたという事でもありますから。
しかし私の耳には、この栄転が第二王女の希望によって齎されたものだという噂が聞こえてきました。
そんな話を聞かせてきたご令嬢に、悪意がなかったとは言えません。
なにせ私は、本来ランバート侯爵家を継ぐ予定ではない娘でございましたし、夫になったクライヴは、テレンス侯爵家の三男ではありましたが、見目麗しい美丈夫でありましたから、彼に秋波をおくる女性は多かったのですもの。
それにテレンス侯爵家は騎士団長を多く輩出する厳格な家系でもありますから、クライヴも将来は騎士団長になると思われていたのではないでしょうか。
それであれば、継ぐ家のない貴族の三男坊であっても、子爵位か、何か功績を残せれば伯爵位を賜ることもできたかもしれません。
ただ、それについてはテレンス侯爵家の嫡子の方が、既に騎士団で頭角を現しておりましたので、可能性の一つでしかなかったのですけれど。
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