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王都にて

バーバラ 5

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 あれから3日が経ちました。

 あの後すぐに騎士団の皆様に助けられた私たちは、神殿からいらっしゃった治癒魔法が使える司教様に外傷を直していただきました。もちろんアーカード様もです。
 けれどアーカード様は怪我が治っても目を覚まされず、アルトワイス伯爵家のタウンハウスに運ばれて行ってしまいました。

 そして私は無事保護の知らせを受けたニコル兄様に引きずられるようにして、今、お世話になっているルチア様のお屋敷タウンハウスへと戻って来たのです。

 時間にすればたぶん半日も監禁されてはいなかったと思います。
 それでもニコル兄様は、随分と心配してくださいました。ですが、そのせいで3日経った今でもお屋敷の中庭までしか外に出る事を許して貰えないのは、少々過保護過ぎるのではないでしょうか。

 とは言え、心配をかけてしまった事には変わりないので、私も大人しく部屋に籠っています。

 けれど、気になるのはやはりアーカード様の容体です。
 あれから目は覚めたのでしょうか。

 どうやら最後の閃光と爆発は、アーカード様が服に縫い付けていた灯り用の魔石に限界まで魔力を注ぎ込んだ結果だったようなのです。

 というのも私は魔法を使う事が出来ませんから、魔力が枯渇するという事がどういった状態になるものかもよく分からないのです。

 それでも数日寝ていれば大丈夫だろうと、治癒してくださった司教様が仰っていたので、大丈夫だとは思うのですが。

 そんな事を考えていると不意にノックの音が響きました。


「……どうぞ」

 この部屋を訪れるのは基本的にルチア様が宛がってくださったメイドかニコル兄様だけです。ですから私は気軽に答えたのですが、ニコル兄様とディオーナ様、それと長身のディオーナ様と同じ藍色の髪をした男性が入ってきました。

「大変だったわねバーバラさん」

 ディオーナ様の突然の訪問に、私は慌てて居住まいを正します。
 いえ、別にだらしない恰好をしている訳ではありませんが、少しだけソファに凭れかかっていたものですから、スカートの皺に目がいってしまったのです。

 ですがディオーナ様はにっこりと笑って仰いました。

「いいのよ、楽になさって? 酷い目にあったのですもの、少しくらい大目にみるわよね?」
「……そんな威圧されなくても、大丈夫ですよ、おばあ様」

 そんなディオーナ様の言葉に、一緒に来た男性はにこやかに笑います。
 身長は高い方くてキリっとした表情をされていたので、ちょっと怖い印象を受けましたが、笑うと雰囲気が柔らかくなりました。それに喋り方もディオーナ様のようなおっとりとした感じがします。

「バーバラ、エイドラ伯爵夫人は……知り合いだったね。こちらがエイドラ公爵だ」

 ディオーナ様からいいのよ、と言われましたが私はソファから立ち上がりました。
 確かに私はディオーナ様とは顔見知りではありますが、エイドラ公爵様には初めてお会いします。

「初めてお目にかかります。私、ルーベンス子爵家が三女、バーバラでございます」
「ああ、初めましてバーバラ嬢……今日は一応、往診ということで私が来たのです」
「往診、ですか?」
「はい。我がエイドラ公爵家は代々薬師の家系でして。私も医師として薬師として働いております。今回、事情説明のため王城に呼ばれたとの事で、往診を頼まれたのです」

 エイドラ公爵様は、私と同じくらいの年代でしょうか。
 少し低めの声は落ち着いた感じがします。

 けれどちょっとお待ちください。
 いま、エイドラ公爵様が何故ここに居るのかの説明をしてくださいましたが、不穏当な言葉があったような気がします。

「ニコル兄様? 私、王城に呼ばれているのですか?」
「ああ、そうだよ……ああ、ごめんねバーバラ、説明してなかったっけ?」
「していただいておりません」

 思わずニコル兄様に視線を向ければ、ニコル兄様が首を傾げながらそんな事を仰いました。

「でも、わざわざ王城に行く必要なんてないから、別にいいでしょう?」

 しかも、私に王城の件をわざと教えなかったかのような口ぶりです。

「もう、あなたがそんなだからエイドラ公爵がうちに来ることになったんじゃない」

 するともう一人部屋の中に入ってきました。

 この屋敷の持ち主ーー厳密には持ち主のご令嬢でしょうかーーであるルチア様です。

「ごきげんよう、バーバラさん」
「大変お世話になっております、ルチア様。それと兄が申し訳ありません」

 エイドラ公爵様の前ではありますが、ルチア様も公爵家のご令嬢ですし、現在、私たちを屋敷に泊めてくださっている方でもあります。
 私はあまり高位貴族の方に対するマナーは知りませんが、取り合えず頭を下げました。

「いいのよ、どうせこうなるって殿下も私も分かっていたから。それに、ねぇ、ディオーナ様」
「ええ、ええ。ニコルさんのおかげでラーシュを紹介できるんですもの」

 すすすっとディオーナ様の側に寄ったルチア様が、楽しそうに笑います。もちろんディオーナ様も楽しそうに仰いました。

「ああ、そうか。そうだった……」

 そしてニコル兄様が右手をこめかみにあて、眉間に皺を寄せましたが、どうされたのでしょう。

 私とエイドラ公爵様は三人に目を向け、ふと視線が合いました。

「……ふふ、取りあえずは診察しましょうか。バーバラ嬢はそのままソファに座って頂いて、大変申し訳ありませんが、ルチア嬢とニコル殿は部屋の外に出て貰えますか」

 エイドラ公爵様がそう言いますと、ルチア様がニコル兄様の腕を引っ張って行ってしまいます。

「バーバラとエイドラ公爵を二人っきりに……」
「ちゃんとディオーナ様がいらっしゃるでしょ!」

 そんな声が廊下から聞こえてきますが、私はそれを無視していいですよね?

 エイドラ公爵様は往診に来てくださったのですから。


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 すみません。ちょっと体調崩しました。
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