60 / 66
王都にて
バーバラ 3
しおりを挟む突然部屋に入ってきた男たちは、私とコリンナさんをどこかへ連れて行こうとします。
もう一人、厳つい男がアーカード様のところへ行きましたが、大丈夫でしょうか。
そして扉の外に出るとフードを目深にかぶった男がもう一人おりました。
その男が私の腕をぐいっと引っ張ります。
コリンナさんは細身の男性に小突かれるようにして先頭を歩かされ、フードの男が私の腕をぎゅっと掴んだままその後に続きました。
アーカード様が心配で、ぐいぐいと引っ張られながらも背後を振り向けば、足のロープを解かれたアーカード様が、厳つい男に腕を後ろ手に掴まれて追ってきています。
ああ、良かった。
見る限りどこにも怪我などはないようで、私はほっとしました。
しかしいったい何があったのでしょう。あの部屋に押し込められてからそこそこの時間が経っております。なのに、今の今までこの男たちは私たちを放って置いたといいますのに。
そう思っても問いただす勇気なんて私にはありませんでした。
だって私の腕を掴んでいるフードを目深にかぶった男は、ただただ無言で。
私たちの前を歩く細身の男は、どこか焦っているようで先頭を歩かせているコリンナさんをやたらと小突いているのです。その上、コリンナさんが何か言うと、すぐに「うるせぇ! 黙って歩け!」と怒鳴りました。
私は大人の怒鳴り声は嫌いです。いえ、嫌いというよりは怖いのです。ですから、どうしてもあの細身の男が怒鳴るたびにびくびくしてしまいます。
私の腕を掴んでいる男もその事に気が付いたのでしょう。
「お前も黙れ、煩いぞ」
そう細身の男に向かって言いました。
細身の男のように大きな声をあげている訳でもないのに、圧がかかる、とでも言えばいいのでしょうか。
やたらと怒鳴り声をあげていた細身の男も黙ってしまいました。
それでもコリンナさんを細身の男は小突いて歩かせます。
廊下の突き当りまで行くと男はまたコリンナさんを小突きました。
すると驚いたことに突き当りの壁の中にコリンナさんが消えてしまいます。
「!」
私が声もなく驚いていると
「……壁を偽装してるのか……」
後ろからアーカード様の声が聞こえました。
その言葉でようやく魔法か魔道具が使われている事に気が付きましたが、私は魔法を使うことは出来ません。ですからその仕組みも何も理解が出来ないのです。
そう言えばアーカード様は、魔道具を研究されていたとニコル兄様が言っておりました。
だとしたらアーカード様には、今目の前で起こった出来事が理解できているのでしょう。
「黙って歩け」
けれどアーカード様もまた後ろにいる厳つい男性に、小突かれたようです。
ふらりとその身体が傾ぎましたが、アーカード様が私をじっと見つめていました。そして音もなく「大丈夫だ」と、口を動かします。
私はそれだけの事で、なんだか安心することが出来ました。何故でしょう。
でもその事を深く考える前に私たちもまた、壁に足を踏み入れていたのです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
19
お気に入りに追加
5,742
あなたにおすすめの小説
どうぞ、(誰にも真似できない)その愛を貫いてくださいませ(笑)
mios
恋愛
公爵令嬢の婚約者を捨て、男爵令嬢と大恋愛の末に結婚した第一王子。公爵家の後ろ盾がなくなって、王太子の地位を降ろされた第一王子。
念願の子に恵まれて、産まれた直後に齎された幼い王子様の訃報。
国中が悲しみに包まれた時、侯爵家に一報が。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
【完結】政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。
ふまさ
恋愛
伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。
けれど。
「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」
他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。
お飾り王妃は愛されたい
神崎葵
恋愛
誰も愛せないはずの男のもとに嫁いだはずなのに、彼は愛を得た。
私とは違う人との間に。
愛されたいと願ったお飾り王妃は自らの人生に終止符を打ち――次の瞬間、嫁ぐ直前で目を覚ました。
私は何も知らなかった
まるまる⭐️
恋愛
「ディアーナ、お前との婚約を解消する。恨むんならお前の存在を最後まで認めなかったお前の祖父シナールを恨むんだな」 母を失ったばかりの私は、突然王太子殿下から婚約の解消を告げられた。
失意の中屋敷に戻ると其処には、見知らぬ女性と父によく似た男の子…。「今日からお前の母親となるバーバラと弟のエクメットだ」父は女性の肩を抱きながら、嬉しそうに2人を紹介した。え?まだお母様が亡くなったばかりなのに?お父様とお母様は深く愛し合っていたんじゃ無かったの?だからこそお母様は家族も地位も全てを捨ててお父様と駆け落ちまでしたのに…。
弟の存在から、父が母の存命中から不貞を働いていたのは明らかだ。
生まれて初めて父に反抗し、屋敷を追い出された私は街を彷徨い、そこで見知らぬ男達に攫われる。部屋に閉じ込められ絶望した私の前に現れたのは、私に婚約解消を告げたはずの王太子殿下だった…。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる