上 下
46 / 66
王都にて

バーバラ 1

しおりを挟む
 困ったことになってしまいました。

 私はほうっと溜息をついて辺りを見回しますが、狭い部屋に閉じ込められていますので何もないのはすぐに分かります。

 何度部屋の中を見回しても、ここには私とアーカード様と見知らぬ女性しかおりません。

 しかもアーカード様は両手を後ろ手で縛られ両足も縛られて寝転がされていて、私と見知らぬ女性は両手をきつく縛られております。

 一体何が起こっているのでしょうか。



 先日、私とニコル兄様はアルトワイス伯爵領から王都へとやって来たばかりです。

 もちろん遊びに来たわけではなく、リカルド様が送ってきた離縁届を提出するためと、リカルド様との結婚が【 白い結婚 】だったと神殿で認めていただくためでした。

 ですから、王都に到着後すぐに神殿に赴き、神官様にお話しをしたのですが、【 白い結婚 】を認めてもらうには、魔力ちからを持つ司教様に見ていただかなくてはなりません。

 神殿にいらっしゃる魔力持ちの方は冠婚葬祭を取り仕切るだけでなく、治癒を施したり鑑定してくださったりと、様々な分野で力を発揮されています。そのためどうしてもお忙しく、なかなか予約が取れない事もあるのだとか。

 けれど私の場合は【 白い結婚 】の判定ですので、鑑定が使える司教様に見ていただかなくてはなりません。そしてその司教様が3日後の昼前なら時間が空くと教えて頂いたので、その時間に予約をさせていただきました。



 3日後に私は司教様を尋ねて神殿に行き、【 白い結婚 】の判定をいただくことが出来ました。
 なので離縁届共に提出したのです。
 これで私はバーバラ・アルトワイス騎士爵夫人ではなくなり、ただのバーバラになったのです。

 そんな思いを胸に神殿を後にすれば、なぜかアーカード様が私を待っていらっしゃいました。

 聞けば、わざわざニコル兄様の滞在先を調べて、私に会いに来てくれたのだそうです。そして神殿に行っている事を知ったアーカード様は、私を迎えに来てくれたらしいのです。

 一体どのようなご用件があるのでしょうか。
 私はふとそんな事を思いましたが、アーカード様に再会できたことは少しだけ嬉しくもありました。

 アーカード様もお義父様ーーいえ、もう離縁が成立しましたのでアルトワイス伯爵様でございますねーーの代理として、今回の王太子殿下主催の夜会へ参加されるために、王都にいらっしゃるとは聞いておりましたから、まさかアーカード様から会いに来てくださるとは思わなかったのです。

 なぜなら離縁こんなことになってしまいましたから。
 それにルーベンス子爵家に戻るつもりのない私は、ただの平民の女性という事になります。
 ですから、そんな私が貴族の嫡男様であるアーカード様にお会いする機会はもうないと思っていたのです。



 だというのに、どうして私はアーカード様と一緒に人攫いにあったのでしょうか。

 先ほどからそれを考えているのですが、どうしてもよく分かりません。

 私は今一度、その時の事を思い返してみました。

 アーカード様と再会して、女性の一人歩きは危ないからと、お世話になっているバイエル公爵邸まで送って行くと仰っていただいて。

 本当なら貴族であるアーカード様にそんな事をして貰ってはいけないのでしょうけれど、一人の女性として扱ってくださるアーカード様に嬉しいと思ってしまったのです。

 そして二人で歩きだして。

 そうです。あの時、不意にアーカード様が、「つけられている」とそう仰ったのです。

 いきなりぐいっと私の肩を抱き寄せて、誰かにつけられていると言われているにも関わらず、ドキドキしたことを覚えております。

 いえ、それはいいのです。

 私は頭をふるりと振りました。
 
 今はそんな事を考えている場合ではありません、頭の隅に追いやりましょう。
 だって今思い返したら、またドキドキしてしまいそうですもの。

 そう、それで。

 足早に大通りに向けて歩き始めた私たちの前に一台の馬車が停まりました。

 何の変哲もない普通の馬車だったはずです。

 そして馬車のドアが開いて、そこにいたのは。

「神官様?」

 そうです。あの時、馬車から神官様が下りて来て、私は何か不備でもあったのかと、そう思い。

 そこで私の意識は途切れておりました。



 となると私は神官様に攫われたというのでしょうか。

 でもそんな事はあり得ないとも思いました。

 だって相手は神官様です。私を攫う理由など思いつきません。
 だとしたらアーカード様でしょうか。けれど、やはり貴族の嫡男様を神官様が攫う理由など考えもつかないのです。

 本当は神官様は関係がないとか。

 私の記憶はそこで途切れておりますから、神官様と人攫いとは別なのかもしれません。

「あ、あのぉ、大丈夫、ですか?」

 私が一人でぐるぐると考え込んでおりますと、この部屋に最初から閉じ込められていた女性が、恐る恐る声をかけてきました。

 ああ、そうですわ。彼女に聞いてみればいいのです。

 私はそう思うと、少し距離を開けて私を見ている女性に視線を向けました。

 その人はまるで人参のような鮮やかなオレンジ色の髪に明るい緑色の目をした女性でした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 王都編? 開幕です。
 謎解きの部分もあるため、視点がこまめに切り替わっていきます。

 少し読みづらくなるかもしれませんが、ご了承ください。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めました 〜奪われた婚約者はきっぱりと捨てました〜

鬱沢色素
恋愛
侯爵令嬢のディアナは学園でのパーティーで、婚約者フリッツの浮気現場を目撃してしまう。 今まで「他の男が君に寄りつかないように」とフリッツに言われ、地味な格好をしてきた。でも、もう目が覚めた。 さようなら。かつて好きだった人。よりを戻そうと言われても今更もう遅い。 ディアナはフリッツと婚約破棄し、好き勝手に生きることにした。 するとアロイス第一王子から婚約の申し出が舞い込み……。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

処理中です...