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Ⅱ バーバラ
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しおりを挟む「やっぱりバーバラはそうしている方がいいよ」
私をじっと見つめてそう仰ったニコル兄様に、私は小首を傾げます。
「どういうことですか?」
「うん? おとなしいのにお転婆なバーバラってとこかな」
ニコル兄様の言葉に、私は益々よく分からなくなりました。エリスやシルヴィアは、動くことが好きで良く庭を走り回っていましたけれど、私は部屋の中でできる作業の方が好きで読書や刺繍をしている事が多かったはずです。
もちろんずっと家の中にいるのは健康に悪いと、エリスやアベルに連れられて一緒に外に出かけることはありましたが、おとなしいのにお転婆なんてニコル兄様に言われるような事は一つもしていないと思うのです。
「確かに、木登りしたり駆けっこをしたりとかそういう事はなかったけれど、一つの事にのめり込んで何時間も刺繍をしていたりレースを編んでいたり読書をしていたり、変なところで頑固だったりするよね?」
「?」
「ほら、家令にしがみついてメイドの仕事を教えて欲しいって言ったの覚えてないの?」
それを言われてしまうと羞恥に顔が赤らみます。アレは若気の至りというか、手に職をつけなければいけないとおばあ様に言われて思いついた行動だったといいますか。
私の態度でその事を覚えていると分かったのでしょう。
ニコル兄様は、くすりと笑われましたわ。
「執事もメイドも皆困惑しているというのに、バーバラはそんな事にも気がつかないで懸命にお手伝いをしていたよね?」
「あ、あれは子供だったから、です。今は、そんな事は、ありません」
自分でそう言いつつも、段々自信がなくなってしまいます。本当に今は大丈夫なんでしょうか。
「さて、バーバラ、もう一度聞くよ、君には選択肢が二つある。このままうちに戻るか、それとも自立するか」
私はニコル兄様の言葉に頷きます。
ルーベンス子爵家へ戻るとなれば、今度はアーカード様の元へ嫁げと言われる可能性が高いという事は、先ほど兄様に教えていただきました。
そんなバカげたことがあるのかしらとは思いますが、お父様の事です。きっとまた「お嫁に行ってよ?」と言われるような気がします。
そして自立するという事は、貴族籍を抜けて平民として生きていく、という事です。
それは今までのようにぬるま湯の中のような、平穏な生活は出来ないということでしょう。
ニコル兄様の立場であれば、私をルーベンス子爵家に連れて帰るのが当然です。
だって私はルーベンス子爵家のために育てられたのですから。
なのに、ニコル兄様は私に選択肢を与えてくれました。
たった二択の選択肢ではありますが、それでも私は自分で選ぶことができるのです。
私のような世間知らずが一人で生きていく事が出来るのかは分かりません。ですが、それでもうちに戻るよりは自自由に生きることができるかもしれないのです。
私はいつも屋敷の中で一人縮こまっておりました。
サーシャ姉様のように外に出ていく勇気もなく、マデリン姉様のように自力でお相手を探すこともなく。
一人屋敷の中で自分の世界に閉じこもり、流されるままに生きてきたように思います。そして、それはリカルド様と結婚しても変わりませんでした。
もし私がお父様に抵抗する気持ちがあったなら、こんな事にはなっていなかったのでしょうか。
ふとここひと月ほどお世話になっているお義父様やアーカード様の顔が思い起こされます。
お二人とも不甲斐ない私を責めることなく私を受け入れーーそれが罪悪感からだったとしてもーー優しくしていただいたことには変わりありません。
ニコル兄様の言うように、このままうちに戻ってまたアルトワイス伯爵家に嫁ぐ事になったとしても、お二人はきっと受けれてくださるのでしょう。
そうして私たちは翌日、ルーベンス子爵家へと帰るエリザベス姉様達を見送り、さらに翌日私とニコル兄様は、王都へと向かう乗合馬車に乗り込んだのです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次からは王都に場所を移します。
もしかするとまら数日、間が開くかも知れません。
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